新)4つの労働者階級

階級といえば“資本家 vs. 労働者”や、“経営者 vs. 雇われ人”という構造が定番ですが、最近は働く人の中に、新たな4つのグループが生まれてきていると感じます。


下図には淡い水色から濃い水色まで 4種類の人がいます。

一番上の (1) は、「システムを作る人」です。

ビジネスシステムを作る人の他、国のシステムを作る人もいます。

システムとは IT のことではなく、「物事の仕組み」という意味です。

「こういうビジネスをやろう!」とか「こういう制度を作ろう」と構想する人ってことですね。その人数はごく限られています。



次に少し濃い水色の (2) の人たち。

(1) の人はビジネスの構想が固まった後、(2)の人に、構想の実現に必要な各機能分野について「具体的な仕組みを作ってくれるよう」依頼(発注)します。

仕組みとして代表的なのは IT システムですが、それ以外にも、物流システム、マーケティングや広告、コールセンターや店舗設計など様々な仕組みが必要となります。

(1)の人は必要に応じて専門家である (2) の人、もしくは会社に、それぞれの仕組みを作ってくれるよう委託します。


(2)の人は各分野のプロとして、(1)の人が求めるものを具体的なスペックに落とし、どの程度の予算でそれが実現できるか見積もり、(1)の人と話し合いながら詳細設計を提案します。

詳細スペックが決まれば、(2)の人が属する会社は実際にその仕組みを作りはじめます。

ここでは (2)の人に指示をされながら、(3)の人が具体的な作業をします。

プログラムを書いたり、店舗を改装したり、広告に必要な写真を撮ったり、コールセンターに必要な人員を募集して採用するなど、その仕事は多岐にわたります。

中にはクリエイターとかコピーライターと呼ばれる“クリエィティブな仕事”も含まれますし、プログラミングや建築のスキルや資格を持つ人もいます。

彼らは決して“下働き”をする人ではなく、専門性をもって働くスタッフです。


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各種の作業が終了すると、(2)&(3)の会社は (1) の人にできあがった仕組みを“納入・納品”します。

こうして (1) の人は自分の構想実現に必要な仕組みを手に入れ、いよいよビジネスや制度が動き始めます。

仕組みが回り始めた後、それらのプロセスを実際に担うのが (4) の人です。

コールセンターで電話応対をしたり、倉庫で必要な商品をピックしたり、工場で組み立てたり、箱詰めして発送伝票を貼ったりします。

(4)の人たちはほぼ 100% が非正規社員で、時給で働いています。


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4つの職業には、次のような特徴があります。


・上にいくほど給与が高い。


・上にいくほど仕事が非定型。つまり、上にいくほど「ゼロから考える仕事」であり、下にいくほど「ルール通り、マニュアル通りに進めることに価値がある」仕事であり、また、「余計なことは考えるな。それを考えるのはお前の仕事ではない」と言われたりもします。


・上にいくほど仕事をおもしろいと思っている人が増える。


・上にいくほど人数は少なく、世の中の大半の人は(3)か(4)として働いています。


・(3)と (4)には、時給で働く人が多い。(3)には正社員の人もいますが、サービス残業も多く、実質的な時給は (4)と変わらなかったりします。


・(3) の人は将来 (2) になれる可能性がありますが、(4)の人は一生 (4) のままです。


・(2)の人は正社員の場合もあるし、会社をやめて“エキスパート”として独立した人もいます。ごくたまに(2) から (1)になる人もいます。


・(1)の人には、大企業の社員や大組織の構成員(公務員など)と、自分で事業を始める起業家という 2種類の人がいます。 (1)には、超保守エリートとリスクテイカーが混在しているのです。


・世の中の“保守派エリート”の大半は大企業に入社し、(3) からスタートして、運がよければ (2) に昇格し、キャリア人生を終えます。


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4つの仕事はすべて昔から存在してました。仕事としてはどれも必要ですから当然です。

しかし高度成長期の日本では、「全員が(4)からはじめ、成果によって段階的に選抜されながら、年齢を重ねるごとに(3)、(2)、(1)と昇っていく」モデルでした。

新入社員は全員が (4) の仕事を経験してから、数年後に (3)の仕事につかせてもらい、また何年もたってから(このあたりから選抜が始まり、タイミングには相当の差がつくものの、順次)(2)の仕事に移っていく。

それにそって給与も少しずつ上がる。これが、終身雇用組織における、年功序列システムでした。


当時だって本社における (1) や (2) のポストは限られていましたが、高度経済成長期にはいくらでも子会社が作れたので、「あなたは子会社の (2) をやってください」とか「孫会社の (1) にどうぞ」という形で、ほぼ全員にそれなりの処遇が用意できました。

だから (4) の仕事をしている人も「今の仕事はつまらないけど、将来は・・」と夢をもつことができました。


しかし、今は違います。

「若い間は (4) か (3) を 20年やっていろ」と言われ始め、それに耐えられない若者がでてきたのです。

「40才まで、言われたことだけを粛々とやれといわれる人生はアホらしすぎる」と思いはじめた人の中には、外資系企業に転職したり、自ら起業することで、若くして (1) や (2) に飛び移ろうとする人がでてきました。

また、伝統的な (4)→(3)→(2)→(1) というキャリアパスも崩壊しはじめました。

多くの企業は成長率が鈍り、上に進める人の数が大きく減ってしまったからです。同時に給与も上がりにくくなってきました。


すると (4)の人も、「この制度は、自分が(2)になるまで持たない」とか「このまま待っていても一生、(2)
や (1) の席は回ってこない・・」と感じ始めます。

もちろん、市場の荒波にもまれることが怖かったり、住宅ローンや専業主婦や教育費のかかる子供を抱えているために「沈むかもしれない船」に残らざるを得ない人もいます。

しかしその一方で、「 (1) や (2) になりたいのに、(4)から我慢する方法を選ぶのは得策ではない」と考える人も増えてきました。


そんな中グローバリゼーションが始まり、4つのポジションはより明確に分断され始めます。どの人たちもそれぞれの海外ライバルと競争することを求められ始めたのです。

(1)の人たちは海外の起業家や事業家、時には国家と戦うことを求められます。

日本でオンラインショップで大成功!と思っていたら、海外企業であるアマゾンが殴りこみをかけてくるとか、日本で一番の空港だ!と思っていたら、韓国の空港にアジアのトップ空港の座を奪われるとか・・。

日本における (1) の人たちのふがいなさが明らかになるにつれ、「このままじゃマズイ」と考える“将来の(1) 候補”も出てきます。

彼らはもう「日本においては (1) である」ということには満足しないし、そんなことで喜んでいてはしかたない、と思い始めています。

彼らが見すえなければならないのは、海外の (1) との戦いだからです。


これは (2) も同じです。彼らも海外ベンダーとの競争にさらされてはじめます。

そして (3) や (4) の人たちもまた、インドや中国のワーカー達とコスト比較される時代になりました。

これにより、従来は縦に連続的につながっていた (1) から (4) の仕事は、横に分断されはじめます。

(1) は (1)、(4) は (4)であり、時間がたてば (4) の人もいつかは (1) になれる、なんてことはもう起こらない時代になったのです。


将来的には、この4つはいわゆる階級的に「最初から分断されたポジション」として確定していくでしょう。下図をご覧ください。

昔は全員が (4) からキャリアをスタートして、順位、(3) (2) (1)と上ってきていたのに、今や (1) の人は、最初からそういう教育を受けた人が横から入ってくるのです。



右側に付け加えた縦の赤線は、新規の労働者が社会に入ってくるときのラインです。

以前は (4) の下に横にひかれていた「社会に出る時のスタートライン」は、今は縦の線になり、学生が社会に出るその瞬間から「どのポジションとして働くか」が決まってしまう。


今でも唯一起こりえるのは、(3)から (2)への移動です。なので、(3)と (2)は同じボックスにいれ、右側にずらして書きました。

なお、(2) から(1)はありそうに思えますが、実はあまり起こりません。なぜならその差は、スキルや能力の差だけではないからです。



このように、現代における労働者は、

(1) システムを構想する人(システムより上に位置する)
(2) 構想されたシステムに、必要な機能パーツを設計する人
(3) 設計されたシステムを制作する人
(4) システムに沿って働く人(システムの下に位置する)

という 4つに分断されてしまったのです。


そんじゃーね。



<参考図書>
このエントリは、下記の3冊の本を読んで考えたことをまとめたものです。

・「正社員になりたい」

・「不平等社会日本」

・「若者を見殺しにする国」



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