終身雇用はなぜなくならないか

日本の大企業および公的組織における

(1) 新卒採用
(2) 年功序列
(3) 終身雇用
の 3点を特徴とするいわゆる日本型雇用について考えてみます。


この制度、いろいろ批判があるにも関わらず今のところ大きく揺らいではいません。

その理由を、判例法である解雇規制のせいにする意見があるんですが、ちきりんは、民間大企業の日本的雇用が崩れない理由がそれだとは思っていません。

だって大企業は法律があろうとなかろうと、やりたいことはやるし、やりたくないことはやらないもん。


実際、残業代を払わない(サービス残業)、実質的に有給休暇を取得させない、偽装請負に近いような非正規社員の使い方をするなど、たとえ法律違反でも大企業は平気でやってのけてる。

現実において、彼らが労働法規をそんな厳密に気にしているとは思えません。

大企業は、解雇規制があるからイヤイヤ“日本的雇用”を維持しているのではなく、自分達にとっても得だと思える強固な理由があるからこそ、そういった制度を維持しているんです。

そしてもちろん、働く人達側にとってはこの制度はすばらしいお宝制度であり、決して手放したくないものでしょう。

つまり大企業とそこに勤める人達は、お互いにその関係を維持したいという自由意思によって利害が一致してる。だから他者がなんと言おうと、日本的雇用は崩れない。


この制度に反対している人ってのは「大企業に雇って欲しかったが、選ばれなかった人」と、「かってはそういった組織の社員であったが、何らかの理由により袂を分かった人」のいずれかです。

構図としては、相思相愛の夫婦がいるんだけど、その関係性に「昔、この夫婦のどちらかに振られた人」と、「昔、その夫婦のどちらかと結婚していたのだが、関係が破綻して離婚した人」がいて、

そういった人達が「あいつらの関係はおかしい。解消すべきだ」「離婚できないのは離婚規制のせいだろう。そんな規制は一刻も早く解消すべきだ」と息巻いているようなものです。

そんなアドバイス、相思相愛の夫婦にとっては「大きなお世話」以外のなにものでもありません。


では社員側はともかく、大企業側にとってのこの制度のメリットは何なのでしょう?


(1) “仕事のやり方”ではなく、“我が社のやり方”を知っている社員が望ましい。

一番大きな理由はコレでしょ。

日本の大企業にはホワイトカラーの仕事を標準化しない、という信念、もしくは伝統があります。

彼らは業務用パッケージの導入が不可能なくらいに、柔軟かつ独自のやり方で業務をこなすのが好きです。(だから圧倒的に生産性が低い)

そういう組織において必要とされるのは、営業、人事、法務、調達といった標準化された専門知識や機能スキルではなく、

上司の癖や組織のあうんの呼吸をくみ上げてなんなりと対応してくれる、超がつくほどフレキシブルで非生産的な(=長時間働く)人材です。

なので、市場から「営業のプロ」とか「人事のプロ」とかを雇ってくるより、新卒から「なんでもやる社員」を育てた方がほよど“使い勝手がいい。

これが“日本的雇用”を大企業が好む最大の理由です。


(2) 長期間の貸し借りが可能

長期雇用を前提にすると、社員と企業の間で、複数年にわたる貸し借りが可能になります。

「若い時は我慢してもらって、部長になってから報いる」とか、「景気の悪い時は我慢してもらって、いい時には、その分、上乗せする」みたいにね。

日本企業は分厚い皮下脂肪(バッファ−)を抱えることで危機対応しています。

そのバッファーとして社員が協力してくれると、経営者はとても楽ちんです。

自分の経営が失敗してもバッファーが(ボーナスカットなどに合意して)吸収してくれるから。

でも長期雇用を保証しなければ、誰も組織のバッファーになんてなりません。

短期雇用が前提だと、その年の落とし前はその年に付ける必要があります。景気が悪ければボーナスも人員数もカットして、よければ多額に払う、という体制になります。

経営スキルが良くも悪くも明確になるそういう制度を、企業側も望んでないってことでしょう。


(3) 継続維持よりコストがかかる新規獲得を避けたため、労働市場を潰してしまった。

リピート客の維持は新規客の獲得より圧倒的にコストが安い。これは何のビジネスでも同じです。

ポイント制度やら“プラチナ会員”制度を作って「リピート客」の獲得に必死になる企業が多いのは、このためです。

労働市場でもそれは同じで、同じ人をずっと雇っている方が“採用・研修費用”は圧倒的に低くてすみます。

一方で、リピート客ばかりひいきにしていて新規顧客の取込みを怠ると、長期的には顧客の高齢化が起こるし、新しい潮流に乗り遅れ、また、どこかで飽きられてしまいます。

つまりリピート客主義は維持獲得コストが安いかわりに、長期的には革新性や新規性が犠牲にされ、若返りが行われなくなるというデメリットがあるんです。

だから、どんなビジネスでも新規客とリピート客のバランスをとろうとする。


ところが日本の大企業の場合、高度成長期においては毎年どんどん組織が拡大したため、たとえずっと同じ社員を雇っていても、それよりも圧倒的に多い数の新入社員が入ってくることによって、組織の活性化が実現できていました。

これが長く続いたため、今や日本の労働市場では中途人材の新規獲得コストが異常に高くなり(=高品質人材の中途採用市場が整備されないままとなり)、企業は今さら方針を変え、中途採用をすることができなくなってしまった。

こうして(高度成長期と違い)時代に合わせた人材の入れ替えができない今の日本の大企業は、思考の新規性、革新性を完全に失ってしまっており、その結果として高い付加価値のあるユニークな商品を生み出せなくなっています。

そのことに既に彼らは気がついているのだけれど、自分達が労働市場を潰してしまったために、今さら方法を変えられないのです。


まあ、他にもありそうだけど、つまりはこのように大企業側にも日本的雇用はいろいろメリットがあるわけで、だから簡単には崩れないのだと思いました。


じゃあ、どうすればいいんだって?


残念ながらそんな難しいことを考えている暇はちきりんにはありません。


なぜなら今から年末の大掃除をする必要があるから。
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そんじゃーね。


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