年金は誰に払うべきか

公的年金制度についてよく「このままではもたない」と言われます。主な理由は下記の3つです。

(1)少子化・・・保険料を払う人が減少


(2)高度成長時代の終焉・・・給与が伸びず保険料収入が低迷、低金利や株安で運用益が減少


(3)高齢化・・・公的年金は死亡するまで支払われるので、寿命が伸びると支払が増加


国民年金の不払いも問題とされますが、今の制度では不払いの人には年金は支払われません。

払わない人がもらえないのは「年金未加入問題」であって、「皆保険」の原則は崩れますが、最終的な年金財政に負担はありません。

むしろ社会保険庁が、「未払い撲滅キャンペーン」と称し、ギャラの高いタレントを起用してCMなどを作るほうが無駄遣いです。


また社会保険庁の経費使用法や運用の下手さに不満を持つ人の気持ちもわかりますが、いくら運用庁のガバナンスがしっかりしていても、高度成長が終わった先進国で少子高齢化が進めば、この方式の年金は破綻に向かいます。

そんなことはずっと以前からわかっていたことであり“想定内”です。

問題は前から分かっていたのに誰も手を打ってこなかったことです。


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では今後、年金財政の改善のために何が行われるか、収入と支出側にわけて考えてみましょう。

収入側が増えるには、払う人が増える、一人当たりの支払い額が増える、運用利回りがよくなる、などの方法がありますが、どれもほとんど期待できません。

年金保険料の値上げは、既にかなり先まで予定が決まっています。

唯一ありうるのは専業主婦からの保険料徴収ですが、収入のない人からの徴収は困難を極めるでしょう。


そうなると、年金問題の解決には「支出の削減」が不可欠です。

たとえば給付開始年齢は現在 60歳で、今後は 65歳となることが決定済みです。

しかしもっと繰り下げられ、今の若い人がもらえるのは 70歳以降になるかもしれません。

そうなれば公的年金は「老後の生活の糧」から「長生きリスク保険」になります。


また、一人あたり支払額をさらに下げることや、公務員共済、医師共済等の職業別年金、サラリーマン用の厚生年金と国民年金の一本化も当然に検討されるでしょう。

しかし、支出側の削減に最もインパクトが大きい改善策は、「たとえ保険料を払ってきた人でも、全員には払わない」という方法への転換です。


現在の公的年金は「保険料を払っていた人に、払う」方式です。

たとえば元一流スポーツ選手や元大女優、成功した起業家など、何十億の資産を持っている人も受け取れます。

また元会社員であれば、現役時代の収入が多い人ほど多額の年金がもらえます。

一方、若い時に年金保険料を払えないほど貧しかった人は年金をもらえないのです。これでは「社会保障制度」とは言い難くないでしょうか。


年金が「払った人がもらう」仕組みであるのにたいし、生活保護は「困っている人がもらう」仕組みです。このふたつは、天と地ほど違う思想の制度です。

そしてちきりんの予想は、年金も早晩「困っている人がもらう」制度に変更になるのではないか、というものです。

つまり、年金と生活保護は最終的には一体化する可能性があると考えています。


具体的には、一定以上の収入がある人はもちろん、資産が一定以上ある人にも年金が支払われなくなるということです。

貯金や個人年金がある人、親の資産がある人、高額の企業年金を受け取っている人、高齢でも働いて一定の収入がある人などには、「まずは自分の貯金や私的年金で生活してください。」ということになります。


この方法が他の施策と異なるのは、「困る人の有無」です。

受給開始年齢の引き上げや、支給額の削減では、食べていけない高齢者が急増します。

それは生活保護支出の増加という形で財政に跳ね返えり、年金財政という特別会計が改善されても、一般会計の赤字が大きくなるだけで、国全体としては財政が改善しません。


また生活保護の支給を絞ればホームレスの高齢者が増加し、問題が「目に見える」形で社会に突きつけられます。

ところが、「困ってる人だけに払う」というシステムへの変更であれば、大半の人が文句を言うでしょうが、実は誰も生活には困らないのです。

なぜなら「もらえなくなる人は収入か資産がある」からです。彼らはホームレスになるわけでもありません。孫にお小遣いが渡せなくなるだけです。これが他の正攻法の施策と全く違う点です。


さらに、この方法は他の施策と異なり巨大なインパクトがあります。

国民年金の未払いが増えているとはいえ、加入率がほぼ 100%に近い厚生年金のおかげで、大半の高齢者が年金を受け取っています。

しかし生活保護を受け取っている人は約 1%強です。この間のどこかに年金をもらえない人の線引きをすることで、大幅に年金財政を改善することができます。


もちろん「 1億円の資産がある人には払わない」とか、「年収が 2000万円を超える人には払わない」というような高いところに線を引くと、削減できる額より事務コストが大きくなってしまい無意味です。

また、スムーズな制度改革には、国民の資産と収入が一元管理できる「国民統一番号制の導入」が不可欠です。

しかし統一番号が導入され、「貯金が 300万円を切るまでは年金は受け取れない」というあたりに区分線を引けば、年金財政は一気に改善します。


受給額の引き下げや支給年齢の引き上げなどの施策は、今後急増する、「若い時に正規雇用の仕事につけず、そのため私的貯蓄もままならず、加えて、高齢になってから少額の年金しか受け取れない人」の生活を直撃します。

いつまでもこのような方策だけで問題が解決できるとは思えません。


そもそもこの制度は、積み立て貯金ではなく社会保障のはずです。

もういちど制度の根幹に戻り、「公的な年金は、いったい誰に払うべきものなのか」という問題を考えてみるべきではないでしょうか。



ではまた明日〜


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