先週、今週と、「「負の遺産」と政治」の授業では、長崎の原爆遺構に関するノンフィクションを読んでいます。
そんなわけで気分が長崎モードだったところに、カズオ・イシグロの長編デビュー作『遠い山なみの光』が、戦後の長崎を舞台にしているという、小さなコメントを偶然目にしました。
これはめぐり合わせだわと本屋さんで入手。
これがなかなかわかりづらい、不気味な小説でして。
これ、ホラーなん? ホラーやん? ホラーちゃうん??と、ゾクゾクしながら読み進めていきました。(^▽^;)
原爆のことは、直接的にはあまり触れられませんが、登場人物たちの人生に影を落としているのは確かです。でも主題はそこではありません。
主人公は、故郷を捨て、新しい夫と新しい人生を歩むことを選んだことが娘の人生に影響を及ぼしたことに自責の念を覚えています。
一方でそれを打ち消そうとする気持ちも強い。そのことが遠い夏の日の記憶を呼び起こします。
でも、おそらく記憶を微妙に修正していっているのでしょう、いくつかの真相は闇の中という感じで終わってしまいます。
やっぱり巧いなあと感じ入ります。説明臭くないセリフもリアルです。人って会話するときに一から十まで説明するような話し方はしませんものね。
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それにしても不気味なシーンが多い。主人公と、彼女が遠い夏の日に関わりを持った少女とのからみの部分なんか、ものすごく怖い。しょっちゅうどこかへ行ってしまう少女を探し回る場面なんて恐ろしすぎる。足に絡まるアレでアレしちゃうのかと思った…
あまりにゾッとするシーンが多いのと、あれ??と混乱する記述がちょいちょいあったので、原著を分析した論文をいくつか読みました。
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ホラーな面ばかり強調してしまいましたが、戦後十数年経った長崎にまだ残る原爆の影も感じさせつつ、復興や世代交代の活気や勢いも描いていて、その点でも面白かったです。