世界では米アップルや米グーグルなどの名だたる企業が、市場から安い再エネを調達して自社が使用する電力の100%を賄い、温暖化対策に取り組む環境配慮の姿勢をアピールしている。だが、日本の再エネは高く、供給量も少ないため、日本企業にはそれができなかった。
日本では、太陽光や風力で発電した電気に、次のようなイメージを持っている人が多いだろう。
「発電の時にCO2を出さないから環境には良いが、コストが高い」
「国の固定価格買い取り制度(FIT)で売電している事業者が儲けている。その陰で、一般の国民に、莫大な額のFIT費用の負担(賦課金)が押し付けられている」
「会社の屋根に太陽光パネルを設置しても発電量はわずか。環境シンボルとしてしか意味を持たない」
こうしたイメージもあり、「太陽光や風力の電気は、一般の企業が使うものではない」というのが「常識」とされてきた。だが、来年以降、この常識が変わる可能性が出てきた。
CDPが「非化石証書」を容認へ
2018年春にも、太陽光や風力などの再生可能エネルギー(再エネ)で発電した電気が、現在の産業用の電力価格と同等の価格で、しかも大規模に売り出される見込みである。
国が「非化石証書」を取引できるようにするからだ。電力会社は「非化石証書」を調達して、火力発電などの電力とセットにして電力を売り出すようになる。
企業が、普段、オフィスや工場で電力を購入するように、この「非化石証書のセット売り電力メニュー」を購入すると、国から「再エネの電力を使った」と、みなしてもらえるようになる。実際に消費した電力が石炭など化石燃料で発電していてもかまわない。電力会社が、様々な発電設備の電気と非化石証書を組み合わせたメニューを開発し、価格を競い合うことになりそうだ。
既に非化石証書のニーズが膨らむ兆しもある。2017年12月に、英ロンドンに本拠を置く環境NGOの「CDP」が、非化石証書と電力を組み合わせて企業が使った場合に「再エネ電力の使用量としての報告を認める可能性を示した」(みずほ情報総研コンサルタントの中村悠一郎氏)。
CDPは世界5600社以上の大手企業に、温暖化対策に関する戦略や取り組み実績の情報開示を求める巨大NGOだ。企業による情報開示を基に、独自基準で採点した優秀企業リストを毎年、公表している。世界827の有力機関投資家が支援するCDPが集めた企業情報は、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資でも参照されている。
みずほ情報総研が資源エネルギー庁と協議しながら証書に関する資料をまとめ、CDPジャパンの協力でCDP本部や世界資源研究所と交渉した。補足の確認を要するものの、CDPが準拠する温室効果ガス排出量の算定ルール「GHGプロトコル」への非化石証書の適合や、CDPへの報告が可能になりそうだ。
しかも、非化石証書の量は「毎年、複数の大手企業グループのCO2排出量をゼロにできる規模になる」と、中村氏は説明する。
これからは、特別に高いコストを払わずに、国や環境NGOが認めるCO2排出ゼロの再エネ電力を使って、企業が温暖化対策に取り組めるようになる。
ここで、日本の「再エネで発電した電力」を巡る現状をおさらいしておこう。
企業が温暖化対策を進める時、省エネや、電気などエネルギーの燃料種を変更することが鍵になる。再エネの電力の使用も、燃料種を変えることと同じなので、温暖化対策として効果がある。近ごろは東京電力エナジーパートナーが、「CO2排出ゼロ」の水力発電の電気を売り出した。とはいえ、現状では再エネだけの電力は料金が高く、そもそも少量しか流通していない。
紛らわしいのが、メガソーラー(大規模太陽光発電所)が生み出す電力など、FITに基づいて取引されている電力だ。この電力を企業が使っても、「CO2排出ゼロ」とはみなされない。温暖化対策としての効果もない。FITで取引される再エネの電力が本来持つはずの「CO2排出ゼロ」の価値は、電気代に上乗せして賦課金を払っている電力需要家に所有権があるというのが、今の国の制度だからだ。
国は現行の制度を見直し、2018年春からCO2排出ゼロの価値を需要家に与えず、「証書」として取引できるようにする。これが「非化石証書」である。企業は非化石証書を買った分、消費した電力から排出されるCO2を削減できる。実際に消費した電力が再エネで発電したものでも石炭などで発電したものでも、非化石証書とセットならCO2排出ゼロとみなされる。
消費者の負担も減る?
さらに、「温暖化対策推進法」で義務付けられている国への報告にも非化石証書を使えるようになる。同法は、一定規模以上の企業に年間の温室効果ガス排出量を報告するよう求めている。非化石証書を使えば「再エネを使った」とみなされるため、報告する温室効果ガス排出量を減らせる。
非化石証書はこれまで、FITで取引される再エネがどの設備で発電したかを追跡・確認できないとの理由で、CDPや、温室効果ガス排出量算定ルール「GHGプロトコル」での取り扱いが決まっていなかった。
今回の交渉を通じて、既存の再エネ活用制度である「J-クレジット制度」の排出枠や「グリーン電力証書」と、非化石証書との住み分けが明確になり、CDPとGHGプロトコルが適合を確認する調整に進んだ。
ただ、米アップルや米グーグルなど欧米を中心に世界120社の大手企業が参加する、再エネ推進イニシアチブ「RE100」での取り扱いは未定だ。RE100は、自社が使用する電力消費の100%を再エネの電力で賄うことを目指す企業のイニシアチブである。日本からはリコーや積水ハウスが参加している。今後、RE100側の詳細な確認を経て結論が出るという。
そもそも日本が、非化石証書を取引できるようにするのは、賦課金による国民負担の増大を減らすのが目的である。その効果がどれだけあるかは不透明だが、温暖化対策に関心の高い企業は少なくなく、証書の取引が活発になる可能性はある。再エネの普及と同時に、国民負担の引き下げを期待したい。
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