顧問や相談役を廃止する企業が相次いでいる。パナソニックは2月28日、かつて創業者の松下幸之助氏などが就いていた相談役の制度を廃止すると発表した。コーポレートガバナンスの透明化を訴える投資家や株主の声に応えたもので、この先ピークを迎える株主総会の主要テーマの1つになりそうだ。
カゴメも2月1日に、相談役・顧問制度の廃止を発表済み。3月28日に開く株主総会の決議を経て、正式に廃止する。カゴメ経営企画本部経営企画室法務グループの早川拓司課長は、「株主に成果を説明しにくくなっていた」と話す。
同社はこれまで、社長経験者を相談役として、取締役と執行役員経験者を顧問として3年間処遇してきた。役割や権限は決まっていなかったという。
同社は、2001年から個人株主を増やす「ファン株主10万人づくり」と呼ぶ取り組みを進めている。2016年末時点の株主数は目標の約2倍の約19万2000人で、発行済株式の55%が個人株主である。同社にとって個人株主は優良顧客であり、ガバナンスの強化を顧客の満足度向上につなげている。
懸念強まる「院政」リスク
株主の相談役・顧問に対する関心は年々高まっている。カゴメが昨年3月に開催した定時株主総会では、「御社に相談役や顧問がいるか」という株主質問が飛んだ。寺田直行社長が「相談役と顧問はいるが、部屋もなければ会社に来ることもない」と答えると、別の株主が「仕事をしていない方に報酬を払うのは変ではないか」と迫るシーンがあった。寺田社長は、「何もしていないということではなく、業界団体の理事などを務めるなどして貢献している」と答え、説明に追われた。早川課長は、「株主にあらぬ誤解を与えないよう、ガバナンスの透明化を図った」と話す。
株主や投資家が懸念するのは、役割が決められていない人が経営に参加することに対するリスクだ。相談役・顧問は会社法に規定がない。株主総会の決議を経ずに選任できるため、「院政」として経営の実権を握ることもできる。
こうしたリスクが表面化したのが、不正会計問題で経営危機に陥った東芝だ。上司の意向に逆らえない企業風土があるとされ、社長を経験した相談役などが経営の実権を握っていたとみられている。同社は問題発覚後、2015年12月に相談役と顧問を廃止した。
上場企業の6割に相談役・顧問がいる
リスクがある一方で、相談役・顧問は、現行の経営陣への助言や指導をしたり、業界団体や財界で活動したりするなど、企業の利益になっているケースもある。
伊藤忠商事は、今年1月に相談役・顧問制度を廃止した。それと同時に、業界活動や財界活動はするが経営には参加しない「特別理事」という役職を新たに設けた。今年3月に退任予定の小林栄三会長が、特別理事に就任する予定である。
伊藤忠商事のガバナンス担当者は、「相談役・顧問制度に関する機関投資家の懸念が増しており、また、自社で同制度の存在意義を見出せないことから廃止した。特別理事の役割を定めることで、経営に参加することはないということを明確にした」と話す。
資生堂は、昨年10月から同様の制度を採り入れている。特別な知識やノウハウを持った有識者を「アドバイザー」として処遇している。アドバイザーに就任するには、具体的な職務を特定した委任契約を締結する必要がある。
東京証券取引所は、上場企業に提出を義務付けている「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」に相談役・顧問の氏名、業務内容、報酬の有無などの項目を追加し、今年1月から情報開示を求めている。非開示でも罰せられることはないが、今後、企業に対する情報開示の要求はますます強まりそうだ。
経済産業省の調べでは、東証1部と2部に上場する企業の78%で相談役・顧問制度があり、実際に相談役と顧問が在任している企業は62%に上る。相談役・顧問のメリットとデメリットを精査し、役割の明確化と透明性の確保が求められる。
本記事は、「日経エコロジー」2018年4月号(3月8日発行)に掲載した内容を再編集したものです。
登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。