企業の経営権を脅かす存在として敬遠されがちだったアクティビスト(物言う株主)。今では企業から株主還元を引き出し、株価を上げる存在として投資家の注目を集める。こうした現状に「日本の会社がためてきたお金を吐き出しただけ」と警鐘を鳴らすのは、任天堂創業家の資産を運用するファンド「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)」の村上皓亮最高投資責任者(CIO)だ。YFO自体もアクティビストと見なされることが少なくないが、自分たちは「オーナー精神を持つ株主」だとして一線を画す。

日本の株式市場でアクティビストの存在感が増しています。現状をどう見ていますか。

YFO・村上皓亮CIO(以下、村上氏):2023年に東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れを改善するように促しました。(22年7月末時点で)プライム上場企業の5割がPBR1倍を割り込み、15%が0.5倍未満。成長していないけれども、キャッシュ(現金)を過去10年、20年とためていました。

 資本に対しての利益は一定のままで、資本だけがたまっていく状態でした。「PBRを考えれば、ためてきた資本は吐き出すべきだよね」と主張する大義名分をアクティビストが得たということです。

 多くの会社が自社株買いや増配を迫られ、または迫られる前に実施しました。さらに不動産や非中核事業の売却も進みました。いわゆる割安な株が配当を引き上げ、配当利回りが改善して株価が2倍になるといったようなことがたくさん起こったのです。日本の株価は上がり、株主利益がものすごく意識され始めたこと自体はポジティブに見ています。

 ただ、この間に企業の生産性は上がったのか。資本配分や投資の規律は向上したのか。あるいは適切な価格戦略が取れるようになったのか。日本企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)はそこまで変化した気がしません。株主利益だけを大義名分とする市場参加者が増え、企業に「日本の企業がためていたお金を吐き出しただけ」に見えます。日本のファミリーオフィスとして、あまり良く思ってはいないというのが、素直な気持ちです。

ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィスの村上皓亮CIO。ドイツ証券、ゴールドマン・サックス証券を経て、2020年から現職。22年に買収した米投資ファンド、タイヨウ・パシフィック・パートナーズの共同CEO(最高経営責任者)も務める(写真=厚地 健太郎、以下同じ)
ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィスの村上皓亮CIO。ドイツ証券、ゴールドマン・サックス証券を経て、2020年から現職。22年に買収した米投資ファンド、タイヨウ・パシフィック・パートナーズの共同CEO(最高経営責任者)も務める(写真=厚地 健太郎、以下同じ)

ビジネスモデルを良くする行動が必要

老舗アクティビストのストラテジックキャピタル(SC、東京・渋谷)はダイドーリミテッドに委任状争奪戦を仕掛け、株主総会ではSCが推薦する取締役が選任されました。しかしダイドーが大幅増配を公表するやSCは株を売り抜けて、批判を浴びました。

村上氏:私はアクティビストが悪いとは一切思っていませんが、彼らの背後には資本家がいて、魂胆として「株主利益の最大化」があります。よくアクティビストは「(価値の)アンロック(解放)」と言いますよね。企業価値の向上も主張しますが、一時的に企業が持つ価値を解放して株価を引き上げることは、本質ではないですよね。

23年に経済産業省が策定した「企業買収における行動指針」は、「企業価値・株主共同の利益の原則」を掲げるなど、企業価値と株主利益のどちらも大事だと言っていますね。

村上氏:企業価値を引き上げるには、キャピタルアロケーション(資本配分)という視点はもちろんありますが、ビジネスモデルをより良くして生産性を高めるという(経営)執行側の行動が必要です。そうでないと日本は良くない方向に行ってしまう。株主と一緒に本当の意味での企業価値をつくっていくという事例を増やすことが大切だと思っています。

 解放されていないアイデアは、どの企業の中にもあるでしょう。同じ企業で30~40年働いていて、社内や経営のことも知っている人がいる。しかし、しがらみ、社風の問題もあり、抱える問題点や新たなアイデアが隠されてしまっている。株主だといっても、いきなりCEOと面談して、そうしたものを引き出せるわけがない。ウエットな信頼関係が必要ですよね。

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