「若者の○○離れ」と言われて久しいが、嘆くだけでは何も変わらない。企業が若い世代に振り向いてもらうにはどうすればいいのか。その解を探るべく、幕張メッセ(千葉市)で4月29~30日に開かれたイベント「ニコニコ超会議」(主催:ドワンゴ)を訪ねた。コスプレ姿の来場者が目立つなどおじさん世代にとっては異様な雰囲気のなか、それでも懸命に試行錯誤する企業の姿を追った。
会場の幕張メッセには2日間で15万人超が来場した。
会場の幕張メッセには2日間で15万人超が来場した。

 ニコニコ超会議はニコ動を運営するドワンゴが毎年開いているイベントだ。登録会員5000万人超を抱えるニコ動の世界観をリアルの世界で再現するというのがコンセプトで、過去には安倍晋三首相も会場で演説した。来場者数の多くは10~20代で、女子高生やアニメのキャラクターに扮したコスプレ姿も目立つ。

 5回目の今年は仮想女性アイドル「初音ミク」が中村獅童氏と「共演」した歌舞伎公演が注目を集めたが、「日経ビジネス」はあくまで経営情報メディア。記者は企業の出展ブースを回ってみることにした。果たして、若い世代の心をどれだけつかめているのか。

スズキは人力メリーゴーランドを展示した。
スズキは人力メリーゴーランドを展示した。

 「頑張った者だけが報われる。まさに社会の構図だ!」。進行役の女性が叫ぶと、来場者が台座の取っ手を握る手に力を入れた。スズキが協賛するアトラクション「ニコニコカーdeメリーゴーランド」だ。特徴は人力で動かしていること。来場者は動画投稿サイト「ニコニコ動画」(以下ニコ動)のキャラクターで彩られたスズキ車に乗ってメリーゴーランドを楽しめる。ただし、この特権を楽しむためには、まず動力側を担当しなくてはならない。

 メリーゴーランドに乗れた充実感と、その下で顔を真っ赤にして台座を押す「労働者」たちの対比が滑稽だ。記者は2015年秋の東京モーターショーも取材したが、もちろんこんな展示はなかった。青森県から訪れた10代の男性は「こんなアトラクションがあるとは知らなかった。苦労したあとの乗り心地は最高」と興奮気味に話した。

ほふく前進レースで盛り上がる様子に絶句

 次に訪れたのが、ソニーモバイルコミュニケーションズがスマートフォン「Xperia」ブランドで協賛しているブース。会場案内によるとゲームやモノマネ大会をニコ動で生放送するコーナーとのこと。盛り上がっているのは確かだが、露出度の高いコスプレ女子がほふく前進レースで盛り上がる様子には、ネット文化には比較的慣れているはずの記者(27歳)も、絶句せざるを得なかった。

ソニーモバイルコミュニケーションズは、製品とは全く関係のない「超ユーザー生放送」に協賛した。
ソニーモバイルコミュニケーションズは、製品とは全く関係のない「超ユーザー生放送」に協賛した。

 まず気づくのは、展示会には欠かせない自社製品の実機が置かれていないことだ。代わりに、生放送の収録の横で「あなたとXperiaについて聞かせてください」と書かれたボードを掲げたスタッフが歩いているのを見つけた。来場したXperiaユーザーに、Xperiaに求める一言を書いてもらい、写真に撮る。撮影した写真はFacebookやTwitterに投稿してもらうのだという。

 ボードを持っていたスタッフに話を聞いてみた。「うちはエンタメ重視でやっているんです」。そう答えてくれたのはソニーモバイルコミュニュケーションズで広告宣伝を担当する笹谷さん(44歳、名前は非公表)。「こういう場所では『新端末すごいでしょ』とアピールしても意味がないんです。一緒にニコ動を楽しもうというノリでやっています」

ソニーモバイルコミュニケーションズで広告宣伝を担当する笹谷氏は自らXperiaブースへの参加を呼びかけた。
ソニーモバイルコミュニケーションズで広告宣伝を担当する笹谷氏は自らXperiaブースへの参加を呼びかけた。
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 撮影待ちの行列にはXperiaユーザー約30人が並んでいた。そのうちのひとり、埼玉県熊谷市から同級生2人と訪れた男性(18)は「4月にXperiaに機種変更したばかり。特に理由があってXperiaにしたわけではなかったが、せっかくのお祭りなので参加してみた」。ボードには「音楽を、もっと」と記入し、笑顔で写真に納まった。

 来場者に白けられることもなく、ちゃっかりとファンの獲得にも成功している。スマートフォンは若い世代が直接の顧客となるだけに、ソニーは巧みに来場者の心をつかんでいた。ポイントは企業が一方的に製品の魅力を訴えるのではなく、来場者にブランドを語ってもらっている点だろう。では、顧客の年齢層が高い企業はどうか。次に日本航空のブースを訪れた。

JALや岩手県も出展

 「超ネ申ヒコーキ」。日航のブース名はネット世代にしか理解できないかもしれない。「ネ」と「申」をあわせて「神」と読む。お堅いイメージの日航だが、思い切ってネットスラングを取り入れた。ちなみに、「神」とはネット用語で最上級の褒め言葉だ。

 その名の通りブースの目玉は紙飛行機の折り方教室だ。折り紙ヒコーキ協会の戸田拓夫会長の監修のもと、JALマークのついた専用用紙で「おどろくほど飛んでいく」(同社)紙飛行機の折りかたを学べる。

日本航空のブースはタラップ車のてっぺんから紙飛行機を飛ばすアトラクションが目玉だった。
日本航空のブースはタラップ車のてっぺんから紙飛行機を飛ばすアトラクションが目玉だった。

 「本物を本気でやるという姿勢を心がけました」。同社コーポレートブランド推進部の白石将グループ長(46)は語る。「日航は若いひとには馴染みが薄いブランド。早いうちから親しんでもらいたいが、来場者は日航のブースが目的でニコニコ超会議に来たわけではない」。楽しんでもらいながら、日航を知ってもらうにはどうすればいいか。辿り着いたのが紙飛行機教室だった。

 この教室、紙飛行機を折るだけではない。実際の飛行機の乗り降りに使うタラップ車を運び込み、頂上から飛ばせるようにした。「初日だけで4000人に参加してもらいました」(白石グループ長)。本物だけにタラップ車は遠くからでも目立ち、ブース内は盛況。一緒に展示していたフライトシミュレーターの体験の整理券がすぐに配布終了となるなど波及効果は大きく、狙いは的中したといえるだろう。

 日航がニコニコ超会議に参加するのは初めてではない。タラップ車も2回目の出展だが「昨年は上って下りるだけだった」(白石グループ長)。今年はドワンゴの企画スタッフとも相談しながら、タラップ車の頂上から紙飛行機を飛ばすというエンタメ性を持たせた。ニコニコ超会議では、ネットを通じてブースへの反応がリアルタイムで寄せられる。白石グループ長は「ユーザーに背中を押してもらってコンテンツを作る感覚です」と話す。

 会場を歩いていたら、意外な出展者を見つけた。岩手県だ。企業ではないが、今年で3回目の出展だという。記者は同県出身。我が故郷はどんな工夫をこらしているのか。

岩手県は達増拓也知事(左から2人目)が自らブースに立ってアピールした。
岩手県は達増拓也知事(左から2人目)が自らブースに立ってアピールした。

 期待はしてみたものの「ちょっと地味」というのが正直な感想だ。ご当地ゆるキャラや世界遺産に登録された平泉市の寺院などのポスターが目立つが、それがいかにも「地方自治体のブース」という雰囲気を醸し出す。30日には達増拓也知事がブースを訪れ、来場者に直接ノベルティーを渡す一幕もあったが、岩手県知事を知る来場者は少なく、反応は良くない。若い世代に来県を促すという意味ではまだまだ力不足に感じられた。

岩手県立大学発ベンチャーが参加型アプリを開発し、ブースで活用した。
岩手県立大学発ベンチャーが参加型アプリを開発し、ブースで活用した。
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 もちろん、地方自治体がニコニコ超会議に出展しているだけで先進的な取り組みではある。来場者に楽しんでもらおうという努力も伝わってきた。そのひとつが岩手県立大学発のベンチャー「BlueIPU」が開発したゲーム「アプリde宝探し」。ブース内を歩き回ると、その位置情報に応じてクイズが出題される。現代版のスタンプラリーのような印象で、記者も楽しませてもらった。

盛り上がりには温度差

 ニコニコ動画の生放送番組「禁断生ラジオ」とのコラボも目をひいた。同番組は女性を中心に人気の声優が出演しており、岩手県とは過去に共同企画を放送したことがある。番組の関連グッズを販売するコーナーを設けたことで「岩手県を知らなくてもブースを訪れてくれた女性ファンがいた」(岩手県秘書広報室の高家卓矢主査、38歳)。

 達増知事は「ニコニコ超会議は、会場にいるひとだけでなく、全国からネット参加するユーザーも多い。双方向のやりとりを通じて岩手県をアピールしていくことができれば」と強調する。ネットを通じた情報発信に今後も力を入れていく方針だ。

 このほかにも大和証券や三井住友カード、サークルKサンクス、NTTなど、多くの企業が出展した。ただしブースの盛り上がりには温度差が見受けられた。実行委員会によると、今年のニコニコ超会議には2日間で15万2561人が来場したという。これだけ多くの若い消費者が一堂に集まるイベントは少ない。企業や自治体が一方的に情報発信する時代はとっくに終わった。若者が企業から離れたのか、企業が若者から離れているのか。「ネット文化はよく分からない」と敬遠している余裕のある企業は、多くないはずだ。

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