現代では結婚観も一昔前と大きく変わり、「結婚は、してもいいし、しなくてもいい」というように、個人の意思が尊重される時代になりました。とはいえ、日本では婚姻件数が年々減少しているのは事実であり、少子化も進行しています。そこで今回は現代社会における「結婚」について、福厳寺住職の大愚和尚に聞きました。

結婚は「してもいい」し「しなくてもいい」とはいうが…

 年末年始も近づき、そろそろ実家に帰省する人も多いのではないでしょうか。あるいは、実家を離れたお子さんの帰りを待つ、親側の立場の人もいるかもしれませんね。

 久しぶりに親族が集まると、「いとこの◯◯君が来年結婚するらしい」とか、「幼なじみの◯◯ちゃんにお子さんが産まれるそうだよ」といった話題が上がることもあるかと思います。しかし昨今は、そういったプライベートな話題は、身内であっても触れなかったり、オブラートに包んだりする家庭も増えているように思えます。そもそも、結婚そのものが、「してもいい」し、「しなくてもいい」という、個人の意思を尊重する風潮になってきていると感じます。

 太古の時代、私たち人類の祖先は、狩りをしたり、木の実を採ったりして生活をしていました。草原にはどう猛な動物たちが数多くいますから、脆弱な人間は非常に狙われやすい存在でした。そんな環境では、食料となる動物を狩ることができる力の強い男性と、子供を産み・育てる女性が生活を共にし、仲間をつくって生きたほうが都合よかったのです。

 それがいつしか「結婚」という社会的な形になりました。現代社会では男性が狩りをする必要はなく、男女ともにお金を稼ぐことさえできれば、1人で生活していける。それは、「仲間をつくる必要性がなくなった」と言えるかもしれません。

 では、仏教の教えでは「結婚」をどう捉えているのでしょうか。

 お釈迦さまは、出家した修行僧たちに対し、結婚どころか性交渉も禁じました。仏教は、「知恵の教え」といわれるぐらい、冷静な判断や集中力を妨げることを嫌います。異性に対する欲は、本来の目的である修行に対して大きな妨げとなるので、お釈迦さまは戒めたわけです。

 一方でお釈迦さまは、出家をしていない一般の人に対しては、結婚して子供を産み・育てるという社会的な役割を果たすこと、お互い敬意を持ち、尊重し合って家を繁栄させていくこと、両親や家族を大切にすることなどを奨励しました。

 仏教の発祥の地であるインドでは、六方礼経(ろっぽうらいきょう)という経典の中に、親から子への務めとして「結婚させること」が記されています。かつてのインドの社会は、結婚とは子孫繁栄のため、家を継ぐ男の子を産むためのものでした。日本でもそういった慣習はありましたが、今や結婚は本人の自由、個々の意思を尊重する社会になろうとしています。

 結婚は、必ずしもしなければいけないものではありません。けれども、どうでしょうか。現代社会において結婚しない道を選ぶことは、出家した修行僧のように人生の目的があってのことでしょうか。

 私の元にも「なかなか結婚できない」「よい結婚相手が見つからない」「親や周囲から、結婚に対してのプレッシャーをかけられている」といった悩みが寄せられますが、そういった相談者は、人生の目的を持っていないことが多いように思えるのです。

結婚とは、人間を成長させる「修行」である

 私たちの生活は、社会が発展していくにつれ、自由度が高くなりました。自分の好きなように生きられるこの世の中では、結婚は「自分のわがままを抑え、人と協調しなければ成り立たない作業」とも言えます。「家族ほど、思い通りにならないものはない」などと言う人もいるくらい、時として結婚生活は、自分の思う通りにはいかないことも多々あります。

 しかし結婚は、学びであり、人間を成長させてくれる「修行」にもなり得ると思うのです。

 今は、「他人である誰かと共同生活をするより、1人で自由に生きていきたい」「人とのもめごとが煩わしい」「結婚という形に縛られたくない」といった人が増えていると感じます。そんな人にあえて一言、厳しい意見を言わせていただくなら、そういった人は「能力が低い」と言えるでしょう。

 一体、何の能力が低いのか。車のサスペンションを思い浮かべてください。サスペンションは、走行中に地面からの衝撃を吸収する、車の足回りに欠かせないものです。サスペンションがないと、ガタガタの道路では快適に走れません。

(写真:Alvaro/stock.adobe.com)
(写真:Alvaro/stock.adobe.com)

 さまざまな理由をつけて「結婚しない・できない」と言う人は、そんなサスペンションを持ち合わせていないと言えます。相手との関係性や、相手の状況に合わせて柔軟に動く能力が足りないのです。そういった柔軟性に欠けた人たちはよく、「この世は生きづらい」と嘆くのです。

 興味のあることを好きなだけ堪能し、自分の世界だけで生きる。一見、最高の人生を歩んでいるようにも思えるかもしれません。けれども、それでは人生の幅はなかなか広がりません。

 結婚したり家族ができたりすると、これまで全く関わることのなかったような新境地を知ったり、自分の好みではないものに触れたりする機会が出てくるでしょう。そこでの経験は、人生の幅を大きく広げます。

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