今どきの学生は就職活動のとき、どんな観点で企業を選んでいるのか。企業は、若者の労働観、キャリア観を理解した上で、情報を発信したり、選考したりしなければ、欲しい人材を獲得できない。

この連載では、新型コロナウイルス禍を経て変化した新卒採用事情を多角的に紹介していく。初回は、コロナ禍によって若者の労働に対する価値観がどう変化したのかを取り上げる。

 今どきの学生は就職活動のとき、どんな観点で企業を選んでいるのでしょうか。若者の労働観、キャリア観は、時代背景や社会の変化などとともに変わっていくものです。

 特にコロナ禍以後は、大きな変化が起きました。なぜなら2020年春以降、大学キャンパスへの入構が制限され、ほぼすべての授業やサークルのガイダンスがオンラインという状況になったからです。現在は緩和されつつあるものの、この2年間が若者の価値観に及ぼした影響は大きいと言わざるを得ません。

 企業はそうした事情を理解した上で、情報を発信したり、選考したりする必要があります。そうしなければ、学生に興味も関心も持ってもらえず、欲しい人材を獲得できないでしょう。

「配属ガチャ」を敬遠

 最初に私が日々学生や大学関係者などと接する中で感じた若者の労働観、キャリア観についてお話しします。

 今の若い世代は、まず自分がやりたい仕事に就きたいと思っています。このため、「配属先、勤務地および職種の希望がかなう会社に入りたい」という人が年々増えています。

 そして、その多くは、入社後どの部署に配属されるのかが分からない「配属ガチャ」を敬遠しています。実際、「マイナビ 2023年卒大学生 活動実態調査(6月)」でも、学生の半数以上が「勤務地・職種ともに自分で適性を判断して、選びたい」と回答しています。

(出所)マイナビ 2023年卒大学生 活動実態調査(6月) 配属先を会社に決められるのではなく、「自分で選びたい」という回答が半数を超えている
(出所)マイナビ 2023年卒大学生 活動実態調査(6月) 配属先を会社に決められるのではなく、「自分で選びたい」という回答が半数を超えている
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 次に、働きやすい環境を求めています。人間関係がいい、価値観が合うことに加え、「リモートワークや在宅ワークができる」ことを挙げる学生が目立ちます。もっとも、リモートワークや在宅ワークでずっと働きたいわけではなく、柔軟な働き方ができることを重視しているようです。これは、大学生活が急にオンライン中心となり、人間関係の構築が難しかった経験から来ているものだと思います。

 さらに、ワークライフバランスも上の世代以上に重視するようになっています。とりわけ最近は、育休の取得しやすさに関心を持つ男子学生が増えています。

 マイナビが実施した「大学生のライフスタイル調査」では、「育児休業を取って積極的に子育てしたい」と回答した割合は、男子は59.9%、女子は68.0%です。女子は横ばいですが、男子は7年連続の増加で、調査開始以来、最も高い数字となっています。

(出所)マイナビ 2023年卒 大学生のライフスタイル調査 「育休を取って積極的に子育てしたい」と回答した男子学生の割合が増加。男女差がこれまでで一番小さくなってきている
(出所)マイナビ 2023年卒 大学生のライフスタイル調査 「育休を取って積極的に子育てしたい」と回答した男子学生の割合が増加。男女差がこれまでで一番小さくなってきている
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学生が受け身になる理由

 そして最近よく耳にするキーワードが「力をつけたい」です。コロナ禍で、会社はいつどうなるか分からないと実感し、ついては自分自身も力をつけないと生き残れないと考えたようです。

 ただし、自ら挑戦してガツガツ働きたいのではありません。会社に教えてもらって成長したい。このため「教育体制が充実している会社に行きたい」という学生が多いのです。

 その意味では、「会社で成長したい」というより「会社に成長させてほしい」と考えているわけで、今の学生は明らかに受動的になっていると言えるでしょう。こうした傾向は以前からあったものの、コロナ禍以後、より顕著になったと思われます。

 とりわけ24 年3月に卒業予定の大学生は、新型コロナ第1波と入学時期が重なっています。新しい友達もつくれなければ、サークルも入れない。さらに、アルバイトもできませんでした。いわば思考が高校3年生のときのまま止まっていて幼さが残っている傾向があります。

 例年なら、サークルやアルバイトなどを通じて人間関係にもまれ、社会の厳しさにも徐々に慣れていくのですが、一連の閉じられた生活で、そうした機会が失われてしまったのです。

 この数年、学生は、大学に授業料を支払って授業というサービスを受けるだけの存在になってしまっていたわけです。もちろん今の状況でもキャンパスの外で能動的な活動をする学生もいましたが、多くはそうではありません。

 そんな受動的な環境のまま就職活動に突入してしまったわけですから、ある程度、受け身の姿勢になるのも無理はありません。社会や会社にどう貢献しようかなどと考える前に、「会社は自分に何をしてくれるのか?」という発想に悪気なくなってしまうのです。

 加えて、本来、学校はこんなときこそ社会への橋渡しをする場として機能すべきだと思うのですが、実際はそうなっていない気がします。

 例えば、これは今に始まった話ではありませんが、授業のチャイムが鳴ってから教室に入ってきても、ろくに挨拶をしなくても、コートを着たまま教室に入って来ても、きっと誰からも注意されることがない。このほか社会では通用しない立ち居振る舞いがキャンパスでは繰り返されていたのでしょう。対面の機会が減ってしまった今ならなおさらです。

 学生はオンラインで話すとき、ほぼカメラをオフにしています。OB訪問で、質問をするときでさえオフのままだといいます。授業中も常にカメラはオフなので、それが彼らの普通になっているのです。

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