米中間選挙がいよいよ2週間後に迫りました。見どころはどこでしょうか。
高濱:今年の中間選挙が注目されているのは、結果次第で、ドナルド・トランプ大統領の弾劾が俎上に乗る可能性が出てくるからです。
ロシアゲート疑惑あり、不倫疑惑あり、脱税疑惑あり。こうした疑惑を跳ね除け、トランプ大統領が「ちゃぶ台返し政治」を続けています。米国民はこのトランプ政治とそれを支える議会共和党をどう評価するのか。
民主党が上院、下院両方で勝利すれば、米有権者がトランプ政権に「レッドカード」を突き付けることを意味します。大統領弾劾の発議権を持つ下院で民主党が過半数をとれば、弾劾が現実に一歩近づきます(ただし下院が弾劾決議案を可決しても上院がこれを否決することができる)。
一方、共和党が上院で勝っても、下院で負ければ(この公算が大です)、有権者はトランプ政権に「イエローカード」を突きつけたことになるのです。
上院は共和党が8議席、民主党は21議席を確保
ズバリ共和、民主どちらが勝ちそうですか。
高濱:選挙予測で定評のある米専門家3人が主宰する研究機関の予測を基に見てみます(10月19日現在)。チャールズ・E・クック(クック・ポリティカル・リポート)、ラリー・J・サバト(バージニア大学政治問題研究所)、ジョン・マッキンタイア(リアル・クリア・ポリティクス=RCP)の3氏です。
上院(議席全体の3分の1=35議席を改選)は現時点ですでに民主21人、共和8人が「優勢」「やや優勢」圏内に入っています。残り6州、アリゾナ、フロリダ、インディアナ、ミズーリ、モンタナ、ネバダで「拮抗」しています。
今回の上院選では上記の35議席のほか、ミネソタ、ミシシッピ両州で補選が実施されます。アル・フランケン(民主、ミネソタ州選出)とサード・コクラン(共和、ミシシッピ州選出)両氏の辞任に伴うものです。
民主21人と共和8人に非改選議席に加算すると、民主党は44議席、共和党は50議席となります。共和党はあと1議席を得れば上院で過半数を維持できることになります。民主党は「拮抗州」全部を奪取しても50議席。本会議での表決が賛否同数のときには上院議長を兼務するマイク・ペンス副大統領が投票権を持ちます。共和党は辛うじて「過半数」を確保できることになります。
下院は民主党が過半数確保で「トランプ弾劾」に弾み
一方、下院(全議席=435議席=が改選。過半数は218議席)は民主204人、共和199人が「優勢・やや優勢」で、32議席が「拮抗」状態になっています。下院の焦点は民主党が過半数を超えてどのくらい議席を伸ばせるかです。
過半数を取った政党が下院各委員会の委員長を独占できるため、トランプ政権の内外政策にいろいろと歯止めをかけることができるようになります。
中間選挙では州知事や州上下両院の選挙も行われます。連邦下院の選挙区区割り(いわゆる「ゲリマンダー」*)は州議会の民主・共和両党の勢力図に大きく影響されます。現在の下院の選挙区が共和党に有利な区割りになっているのは州議会に多くの共和党議員がいるためです。
("Battle for the House 2018," Polls, RealClearPolitics, 10/14/2018)
上院改選州の大半は南部・中西部の共和党の地盤
上院で民主党はなぜ過半数を獲得するのが難しいのでしょうか。
高濱:改選になる州は、南部のフロリダ、テキサス、サウスカロライナ、テネシー、ウエストバージニア、中西部のオハイオ、インディアナ、ミズーリ、西部のアリゾナ、ネバダといった伝統的に共和党が強い州だからです。
選挙分析メディア「FiveThirtyEight」のネイト・シルバー編集長は改選州についてこう分析しています。「今回改選される州の有権者の多くは、人口密集地ではない非都会圏(rural)に住む白人。低学歴で年収も低いブルーカラーや農業従事者たちだ。有権者のマジョリティーをまだ白人が占めている」
("Why The House And Senate Are Moving in Opposite Directions," Nate Silver, FiveThirtyEight, 10/14/2018)
有権者の中には民主党支持者もいれば、リベラル派もいるにはいるのですが、これらの州で候補者の当落を決めるカギを握っているのは、いわゆる白人の「ヒルビリー・アメリカン」たちです。
この人たちは、一般論でいうと根っからの保守派。エバンジェリカルズ(宗教保守)や草の根大衆「ティーパーティー」(茶会)も多くいます。共通していることは東部や西部のインテリが大嫌い。主流メディアなど見向きもしません。内向きで外国人・移民嫌い。グローバル化なんてもってのほかです。トランプ大統領支持の岩盤のような州が多いのです。
2016年の大統領選では、今回の「改選州」のうち10州で、トランプ候補がヒラリー・クリントン候補を破りました。選挙専門家たちが挙げる「拮抗州」は、このうちアリゾナ、フロリダ、インディアナ、ミズーリ、モンタナ、ネバダの6州です。「拮抗州」のうち共和党がこれまで議席を占めていた州はアリゾナ(現職引退して空白区)とネバダの2州。民主党現職が議席を守ってきたのはフロリダ、インディアナ、ミズーリ、モンタナの4州でした。
こ のほか、民主党現職がいるウエストバージニアとノースダコタが接戦を続けています。両州ではともに10月18日現在、民主党候補が頭一つ抜け出したようですが予断を許しません。
共和党はミズーリ州の「ヒラリー直系上院議員」を狙い撃ち
民主党の現職議員のうち、トランプ共和党が狙い撃ちしているのは、ミズーリ州のクレア・マカスキル候補。同氏は郡検察官出身、州下院議員を経て州知事、06年から上院議員を務め、国土安全保障委員会の筆頭理事を務めるベテラン議員です。
16年の大統領選ではクリントン候補の支援に駆けずりまわった「ヒラリー直系」。トランプ大統領はマカスキル氏を目の敵にしてきたそうです。同氏の夫が経営する航空機会社が所有する飛行機を11年に公用に使っていたことが発覚し、上院規律委員会の調査を受けました。
ミズーリ州の地元記者は筆者にこうコメントしました。「マカスキル氏が苦戦を強いられているのは自らのスキャンダルだけが理由ではない。16年の大統領選では熱烈なクリントン支持者として反トランプキャンペーンを繰り広げた。今回、それが裏目に出ていることは間違いない」
民主党、「下院選快進撃」の理由
上院に比べて下院選は様相が異なります、民主党はどうしてこんなに勢いを増しているのでしょうか。
高濱:前出のシルバー氏(「FiveThirtyEight」編集長)は次のように解説しています。「上院と下院とでは選挙区事情が全く異なる。今回、上院で改選州になっている州は、共和党色の強い南部・中西部が多い。それでも、これらの州の下院選挙区の中には都市圏もある。都市圏の有権者たちの中には黒人やラティーノの無党派層や民主党支持者が少なくない」
「上院は州全体が選挙区で、選挙戦では党派色を前面に押し出す。一方、下院は選挙区の面積が小さいので党派色よりも候補者個々人の政治理念や政策、人格で選ばれる傾向がある。地方ボス的な人物が選ばれることが多い一方で、地方議員、弁護士や社会活動家も選ばれる」
("Why The House And Senate Are Moving in Opposite Directions," Nate Silver, Election Update, FiveThirtyEight, 10/14/2018)
下院選で民主党が快進撃している背景には、「トランプ政権の内政外交に対し疑義を申し立てている有権者がいることを実証していると言える」(米主要シンクタンクの主任研究員)のかもしれません。
もう一つは、民主党の政治資金力です。連邦選挙委員会のデータによると、民主党が集めた選挙資金額は10億6000万ドル(約1200億円)。これまで中間選挙のために集めた選挙資金の最高額は、共和党が12年に集めた9億ドルと言われています。ちなみに今年、共和党が中間選挙のために集めた選挙資金は7億900万ドル(約800億円)でした。民主党のこの潤沢な選挙資金が下院選における快進撃の原動力になっているのは間違いありません。
("Democratic candidates for Congress have raised a record-shattering $1 billion this election," Michelle Ye Hee Lee and Anu Narayanswamy, Washington Post, 10/17/2018)
民主党は下院で過半数を超えて224議席獲得?
民主党は下院でどのくらいの議席を獲得できるでしょうか。
高濱:前出の選挙専門家たちは、民主党は下院で最低で現状プラス20議席、最高でプラス37議席を取る勢いだと見ています。解散前の民主党の議席は187議席ですから207議席から224議席となります。
民主党にとって一つ気がかりなのは「Generic Ballot」(「今投票するとしたらどの党に入れるか」という質問に答える世論調査)で共和党との差がここ1カ月で急速に縮まっていることです。9月には12ポイント差だったのが、10月に入って4.8ポイント差になっているのです。
このデータをどう見るべきか。「民主党は下院で過半数の議席を獲得するが、共和党に大きな差をつけることにはならないだろう」(バージニア大学政治問題研究所のカイル・コンディック氏)といった見方も出ています。
(
"Less than 90 days out from the midterms, things are looking good--but not great--for Democrats," Ella Nilsen, Vox, 8/16/2018)
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