朝。家の近くの公園を通りかかった際に、ふとあることに思い至った。「そういえば最近、ゲートボールをしている高齢者の姿を見かけないぞ」。

 1990年ごろ、小学生高学年だった記者は毎日のように近くの公園で草野球に興じていた。今は亡き、プロ野球チーム「近鉄バファローズ」のホームスタジアムが家から近かった関係で、駅や路上でよく野球選手の姿を見かけた。ラルフ・ブライアント、阿波野秀幸、吉井理人…。プロ野球が身近な存在で、周りの子供は皆、野球に熱中した。ちなみに、メジャーリーガーのダルビッシュ有はすぐ近くに住んでいた。

 学校が終わった後の平日夕方。家に走って帰り、ランドセルを投げ出して、集合場所の公園に向かえば、三々五々にすぐに20人近くが集まり、そのまま試合を始められた。

 問題なのは日曜日と、たまに休みになる土曜日の朝だった。公園に近づくと、決まって「コン」という甲高い音が耳に届き、「ああ、また先を越されたか」と舌打ちをする――。そう。ゲートボールの高齢者は、公園の場所取りを巡る、強力なライバルだったのだ。

 お年寄りの朝はべらぼうに早い。こちらがどんなに早起きをしても、まったく歯が立たない。別の公園に移動しても、そこからも「コン」という音と、にぎやかな歓声が響いてくる。ゼッケン姿で楽しそうにプレーに興じる姿を、傍で恨めしそうに見ていたのを今でも覚えている。

 お年寄りになったら、誰しもゲートボールをするようになる。小学生の頃はそう思い込んでいた。ところが、最近、その姿をまったく見ないのである。

「小学生」vs「お年寄り」公園取り合いバトルの原因

 もちろん、小学生の頃と比べ、圧倒的に朝に公園へ行く頻度は減った。けれども、まったくゲートボールのプレー姿を見かけないどころか、どの公園にも当たり前のようにあった、ゲートボールの道具を入れる物置すらなくなっているのだ。

全国の公園ではどこでもゲートボールをする高齢者の姿を見かけたが…(写真=アフロ)
全国の公園ではどこでもゲートボールをする高齢者の姿を見かけたが…(写真=アフロ)

 物置は、記者が育った大阪南部では当たり前のようにあった風景だった。もしかしたら大阪南部だけが異質だった可能性はあるが、ゲートボール人口そのものが減っているのではないか。そう思い、公益財団法人・日本ゲートボール連合(東京都港区)の担当者に聞いてみたところ、「残念なことですが、確かに愛好者は減ってきています」との答えが返ってきた。

 ゲートボール連合の統計によると、2014年の加盟団体の会員数は11万8985人。正式な統計を取り始めた1996年時点の会員数は56万7232人で、右肩下がりに減少している。

 ピークはバブルが崩壊した1991年頃。記者が野球にハマっていた時期とも符合する。当時の会員数は60万人に上っていたとみられ、その頃と比べ、6分の1に減ったことになる。

ピーク時の愛好者は200万人

 もっとも、この数字は加盟団体の会員数に限ったもの。団体に所属せずにゲートボールを楽しむ人はいる。20年前の総務省の推定では、愛好者は200万人いたとされる。彼らの実数までは把握できていないが、残念ながら大幅に増えたという話は聞こえてこない。

ゲートボール加盟団体会員数の推移
ゲートボール加盟団体会員数の推移
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小学校高学年にゲートボールを奨励している新潟のように、盛んな地域は一部に残る
●2014年の都道府県別の加盟団体会員数
都道府県人数
ベスト
1新潟7049
2長野5392
3鹿児島5039
4東京4984
5神奈川4507
ワースト
1高知299
2青森520
3鳥取565
4山口741
5石川766
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