先週、「就活面接の無断録音『公開すれば法的問題も』」というタイトルの記事が、SNSで話題になった。
面接を録音? 誰が??
企業。そう、私はてっきり企業側が録音し、
「う~ん、ハキハキ答えてるわりには、内容がないな~」
「こっちの学生は……味のあること言ってるなぁ」
「素直な感じはするけど、営業でやってけますかね?」
「キミだって入社当時、ひどかったぞ。こんなしゃべり方してたら、お客さんは途中で寝ると思ったもんな」
「(冷汗)あの頃はウブでした」
「そういうのはウブとは言わない(笑)」
「でも、あれだよな。ペラペラ上手くしゃべるより、こういうぼくとつな方がお客さん受けするんじゃないかな」
「よし! じゃあ、ハキハキ学生を落として、味のある方にしますか?」
「(全員)意義なし!」
なんて具合に、面接官がその場で決める通常のスタイルではない、新手の採用方法が問題になっているのだと、タイトルをみて勝手に理解していた。
これまで散々、「面接官がA採用した新人が、全く使えないただの“就活エリート”だった」というぼやきをフィールド・インタビューで聞かされていたので、余計に納得していたのだ。
ところが、である。
なんと「学生」。
そうなのだ。
記事をきちんと読んでみると、就職活動で、学生が面接官とのやり取りをスマートフォンで無断録音するケースが増えている、というではないか!
知っていた人には「何を今さら。そんなことも知らんのか!」と怒られてしまうかもしれないけど、知らんものは知らんのです。
学生から「録音していいですか?」なんて聞かれたことも、面接官を務めた「お父さんたち」から「録音されちゃって」と相談されたことも一切なく、不覚にも全く知らなかったのである(すみませんです)。
いったい何のための録音なのか?
記事によれば、
……改善??? ふむ。模擬試験ならまだしも、本番の面接を録音して、改善もなにもないだろう? と思うのだが、記事では実際に就活での「無断録音」を活用した大学生を次のように紹介していた(抜粋し要約)。
学生はネットに「録音の体験談」が掲載されているのをみて、「皆がやってるなら」と7社のうち、3社の1次面接を録音したが、後ろめたさもあり会社には言わなかった。
「(録音を聞き)自分の話は要点がわかりにくいと気づいた。その後の面接では、結論を最初に述べ、話す時間も短くした」(学生談)
結局、録音したうちの1社から内定を得て、就活を終えた。
……要するにあれだ。
本来なら「面接録音したいんですけど、よろしいですか?」(学生)と聞きたい。 が、
「聞き直して、勉強するのか?」(採用担当)
「はい! 面接、僕、苦手なので……」(学生)
「えらいな。どうぞ、録音して、次の面接に備えて来い!」(採用担当)
「ありがとうございます! 次回からがんばります!」(学生)
なんてやりとりが成立するわけがなく、聞くこともできず録音する。
いくつもエントリーして、内定もらっても「もっといい企業の内定」を目指すのが当たり前の時代だから仕方がないってことなのだろうか?
とにもかくにも私の脳内は「????」だらけ。まったくもって理解不能だ。
そこで学生数人に確認したところ、
「圧迫面接対策だよ」
とのこと。
ん? 圧迫面接対策??
「公開されて困るような面接をする企業が悪い」
そうなのです。記事に書いてあったような「面接スキル」向上を目的としているのではなく、圧迫面接対策が主たる目的だと、みな口を揃えた。
実際、先の記事にTwitterでは、
「どんどんやればいい。公開されて困るような面接をする企業が悪い」
「自分も圧迫面接だらけだった。録音しとけばよかった」
「パワハラは録音されてオッケーなんだから、圧迫面接でもありだろ」
「圧かけといて、マナー違反も何もない」
「新聞記者は録音して許されるのに、就活生がなんでダメなんだよ」
「法的問題のおそれ、とかわけわかんない」
「問題は録音ではなく、録音されては困るような面接」
etc……。
というわけで前置きが長くなったが、今回は「圧迫面接」について、アレコレ考えてみる。
まずは学生とのやりとりから。
「録音は『圧迫面接対策』のためにやるんです。
圧られて(圧迫されて)、メンタル低下しちゃったヤツとかいるし、就活アドバイザーに『面接は密室だから危険。企業に危機感を持たせる上でも、面接の録音は必須』って言われたりするみたいです」
「圧迫面接って、どういう面接なの?」(河合)
「『死ね』『そんなんで給料もらえると思ってるのか』
とか、
『大学の成績、頭悪すぎだろ』って言われたっていうのを聞いたことはあるけど、実際に言われたって人は周りにはいない。
でも、『なぜ責め』は多い。みんななぜ責めにやられるんです」
「なぜ責め?」(河合)
「なぜ」とずっと聞かれ泣き出す人も
「例えば『キミ、海外留学してるけど、なぜ留学したのか?』とか」
「それ、普通に聞くでしょ?(笑)」(河合)
「いや、それだけじゃなくて、なぜなぜなぜ、ってず~っと聞いてくるんですよ。例えば『米国の文化に触れてみたかった』って留学の理由を答えると、『なぜ、米国だったのか?』『米国の文化って何か?』とか。とにかく答えるたびに、言葉尻を捉えてツッコミまくる。学生が答えられなくなるまで圧かけて、女子とか泣き出す人もいるって」
「面接する側は、ホントに知りたいから聞いてるだけなのでは?」(河合)
「でも、泣き出すまで圧かけるのって、ひどくないっすか? 普通に聞けばいいと思うんだけど」
「録音したものは何に使うわけ?」(河合)
「訴えるときに、自分の正当性を示すためですよ。就活アドバイザーに聞いてもらって、圧迫面接か判断してもらうヤツもいるって」
……ふ~む。なんだかなぁという感じなのだが、どの学生とのやりとりもこんな感じだった。
泣き出すね。う~む。
かれこれ10年近く学生に講義していて感じるのは、今の学生はプレゼンしたり、意見する力は高いが、ツッコミに弱い。とんでもなく弱い。
「それ、なんで?」と聞いただけでひるみ、とりわけ根本的な質問を聞くと貝になる。「聞かなかったこと」にする学生までいて、「えええ?? わ、私の質問スルー??」と問いかけると、バツ悪そうにそのままうつむいてしまったりで。怒る気にもならなかった。
子どもの頃から「大丈夫? あれは? これは? どう?」と、常にオトナたちに気にされて育ったため、ゼロから文脈を組み立てる力が極めて低いのである。それに拍車をかけたのが「プレゼン教育」である。
学生たちのプレゼン力は本当に高い。パワポや動画を巧みに使うので、「それ、教えて!」と何度も学生に教えを請うた。が、常に彼らのコミュニケーションは、一方通行で、とりわけ予期せぬ「返し」に過剰なまでビビる。
だから、面接でも、ちょっと答えに窮する=圧迫面接、と受け止めてしまうのだろう。それに輪をかけるのが、学生を支える「オトナ」の存在である。
就職のための専門学校は私たちの時代からあるけど、今は面接対策のために家庭教師を雇う家はめずらしくない。
「内定をもらう」ために何社も受ける就活から、「もっといい企業から内定をもらう」就活へ変わった今。親御さんたちの気持ちがわからないわけでもないけど、なんだかなぁと思うわけです。
なんてことを考えながら原稿を書いていたら、「保護者向けの企業見学会」なるものの告知がテレビで流れ、
「子どもの就職活動のフォローをする際、カギになるポイント」や、「わが子の働く姿をイメージしながら、就業の現場を見学し、事業説明や若手社員の話を聞くことで保護者としての不安が解消できる」とのこと。
いずれにせよ、「就活」という一大イベントが過剰なまでに拡大し、「本当に学生のためになっているのか?」と。「オトナがオトナのためにやってるイベントでしかないのでは?」などと、暗澹たる気持ちになってしまうのである。
確かに数年前までは、学生を心理的に追いつめることを目的に圧迫面接する企業があった。だが、メディアが騒ぐほど行っている企業は多くない。さまざまな機関によるアンケートでは「圧迫面接経験あり」とする学生は1~2割だった。そして、今、そんなことをやっている企業はよほどのブラック企業しかないと思う。
だって、私が知る限り今は数年前と比べものにならないくらい企業側は学生の扱いに気を配っているのである。
圧迫面接の効果は科学的に検証されていない
そもそも「圧迫面接」とは何か?
英語では「stress interview」。米国で20年ほど前に流行った面接手法だが、何がしかの確固たる理論で始まったものではない。
「面接で候補者に冷や汗をかかせれば本性がわかるだろう」
「候補者を不安にさせればストレス耐性がわかるだろう」
「面接で追いつめれば臨機応変にたいおうできるかどうかがわかるだろう」
といった思い込みで始まった面接手法である。
どれひとつとして、その効果は科学的に検証されていない。
だいたいこんなことで本性などわかるわけもなければ、働く上で必要なストレス耐性でもない。
臨機応変なんてものは、仕事を理解し、経験を積む上で鍛えられていくのだ。
長年、付き合っている相手だって、本当の姿などよくわからないわけで。相手の人となりを知るのは、意外とちょっとした無駄話だったり、会社の外で偶然会った時だったりする。
それに、へなちょこに見えた人ほど、一大事にあたってしぶといことだってある。
ってことは?
「圧迫面接対策」で録音するという発想自体が、とてつもなく「トンチンカン」ってこと。
就活アドバイザーだかなんだか知らないけど、考えれば考えるだけ意味不明だ。
とまぁ、あれこれ書いてきたが、録音の是非について書いておかねばならない。
私は「したきゃすればいいけど、そんなもの意味ない」と考えている。
もし、仮に人格を否定するような面接をされたなら、それは圧迫面接でもなんでもなく、ただのイジメである。
そいうった会社は日常的にパワハラが横行し、それが黙認され、奴隷のように働かせるだけ。そんな企業には採用されない方がいいのだから、その場から去ればいい。
録音して、ネットで公開して、訴える?
その時間とカネと体力は無駄。そう。無駄だ。
自分の世界から完全に切り離して、先に進むためにエナジーを投入すべきだ。
「仲間」を見極めるのが「採用面接」
また、「面接の改善点を見定める」必要もない。
採用する側は就活アドバイザーたちに飼いならされた「面接の達人」たちにうんざりしている。言葉に詰まろうとも、上手くしゃべれなかろうとも、気にしなくていい。
それより、「なぜ、その会社じゃないとダメなのか?」「自分にとって働くとはどういうことか?」をきちんと考えることの方が大切である。
だいたい企業側だって、はなから「あなたたちを信用してません!」というような学生をとりたいわけがない。
自分の会社の一員となる「仲間」を見極めるのが「採用面接」である。
本来であれば、たとえ採用されようと採用されなかろうと、互いに信頼関係のもとに行なわれるのが「採用」であり、面接はおたがいを知るための大切な時間である。
その上で、だ。
企業は
- 学校の成績を重視する。
- 採用を年間を通じて行う。
- 採用は人事部ではなく、各部署の責任者が行う。
- 採用には個々人の経験、職業スキルを基準とする。
とし、真っ黒なリクルートスーツに身に包んだ、就活という名を借りた「化かし合い」をやめるべき。
「働く人」という役割を演じるスタートである「就職活動」を、もっと人間的な温もりあるものに変えることが、優秀な人材を得ることにつながると信じている。
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