10月1日を期して、防衛庁の外局として「防衛装備庁」という新たな役所が発足することが、15日の閣議で決定したのだそうだ。

《1800人体制で防衛装備品の研究開発や調達、輸出を一元的に管理し、コストの削減を図る。自衛隊の部隊運用業務は自衛官中心の統合幕僚監部に集約し、内部部局の運用企画局は廃止する。中谷防衛相は記者会見で「新たな組織の下で、防衛省・自衛隊がより能力を発揮し、適切に任務を遂行できるようになる」と語った。》

 と、読売新聞は書いている(こちら)。

 なるほど。
 不意打ちを食らった気がしているのは、単に私の現状認識が甘かったということなのであろう。

 思えば、つい1週間ほど前、日本経済団体連合会(経団連)が、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を公表したというニュースが伝えられたばかりだった。

 経団連がまとめた「提言」の具体的な内容は、こちらで読める(「防衛産業政策の実行に向けた提言」)。
 ページ検索をしていただくと分かるが、「軍需」という言葉は一言も出てこない。すべて「防衛」で置き換えられている。

「現在、国会で審議中である安全保障関連法案が成立すれば、自衛隊の国際的な役割の拡大が見込まれる。自衛隊の活動を支える防衛産業の役割は一層高まり、その基盤の維持・強化には国際競争力や事業継続性等の確保の観点を含めた中長期的な展望が必要である。」

 なんという臆面の無い言及であることだろうか。

 安保関連法案に反対する世論が高まり、議事堂を囲むデモに関するニュースが連日紙面を賑わしているこの状況下で、こういう我田引水の「提言」をいけ図々しくも公表してしまえる経団連の神経の太さというのか、自信の大きさにあらためて驚愕させられる。

 彼らは、安保関連法案が成立し、日本の軍需産業がスタートを切る日のことを既に織り込み済みの事実としてものを考えている。そのうえで、現状を分析し、未来を予測し、経営計画を立案し、あまつさえ政府に対して国家戦略の変更を提言することまでやってのけている。

 結局、カネの出入りをベースにものを考える人間は、人の生き死にを基本に考えを進めている人間よりも、はるかに具体的な計画を立案することができるということなのであろう。それが、どんなに生命を毀損するプランであっても、だ。

 思うに、今週中にも成立が見込まれている安保関連法案は、6月に成立済みの改正防衛省設置法と、ひとつのセットであると見なすべきだ。
 してみると、安倍政権と経団連も、ひとつのタッグとして見るのが妥当だ。

 つまり、2014年の4月に、「武器輸出三原則」が、「防衛装備移転三原則」という名称に改められた時点で、すでに今日あることは決定していたということだ。

 なんだか空しくなる。

 「武器輸出三原則」の見直しは、「武器」を「防衛装備」、「輸出」を「移転」と言い換えただけの、ただの言葉の遊びではない。これは、明らかな国策の変更だ。私たちの国は、すでに、官民一体となって、武器輸出を「国家戦略として推進」するべく舵を切っている。そういうふうに考えなければならない。

 安保関連法案のための外堀は、とっくの昔に、埋まっている。いまこうしてあることは、総選挙を通じて私たちが政権に現状の議席を与えた時点で、既定の方針になっていたということだ。

 この先、自衛隊(←この名前も、遠からず「国防軍」に改められるのであろう)が、実際に海外での戦闘行為に参加することになるのかどうかはともかく、われわれの産業界は、これまで手付かずだった新しい市場を開拓するべく、すでに、動き出している。たぶん、日本経済は、その、戦後日本が自制してきた魅惑的な産業分野からの収益抜きには未来を思い描くことができなくなって行くに違いない。

 「死の商人」という言葉を安易に振り回すつもりはない。
 ただ、兵器はアルコールに似ている。
 客に酒を供することを始めた喫茶店は、それまでとは別の種類の店になる。その変化は、好むと好まざるとにかかわらず、不可逆的だ。

 酒を出すことによって手に入る利益は、酔客が引き起こす面倒事とワンセットになっている。
 逃れる術は無い。

 しかも、一度でも酒を出すことで代金を得た店は、二度と酒を出す前の静かな店に戻れない。もちろん、酒を出すことによって失われた客も、二度と帰ってこない。蛙がおたまじゃくしに戻れないのと同じように、アル中のオヤジは二度と再び紅顔の美少年に戻ることができない。まあ、当たり前の話だが。

 現在審議中の安保関連法案の主たる問題は、それが、そもそも憲法に違反していることだ。

 が、現状を見るに、違憲であれ何であれ、法案は、どっちに転んだところで、いずれ近日中に成立する。
 と、違憲だと考える学者が何百人いたところで、ひとたび国会で成立した法律は、少なくとも違憲であることが証明されるまでの間は、効力を発揮し続ける。

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