LINEヤフーの川邊健太郎会長が、日本の現状は「デジタル後進国」だと危機感を募らせている。政府の規制改革推進会議の委員に就任し、ライドシェアをはじめ規制改革を提言する。巨大ネット企業を率いた川邊氏に、デジタルトランスフォーメーション(DX)の処方箋を聞く。
日本を「デジタル後進国」と呼んでいます。なぜでしょうか。
川邊健太郎会長(以下、川邊氏):当社の「LINE」や電子商取引(EC)の「楽天」「Amazon」など、民間ではデジタル技術のイノベーションが進んで来ました。一方、行政機関では対面やはんこ、FAXが長い間残ってきた。新型コロナウイルス禍で露呈したのが、そうした行政機関の取り組みの遅れで、給付金やワクチン接種で大混乱が数多く起きました。マイナンバーカードの普及やデジタル庁の誕生など改革もありますが、こうした遅れが「デジタル後進国」と呼ぶときの念頭にあります。
民間と比べて行政が遅れた理由をどう見ますか。
川邊氏:まず、既存のユーザーに対して優し過ぎたのだと思います。デジタル庁は「誰一人取り残さないデジタル化」をコンセプトに掲げていますが、これではうまくいかないと私は考えています。デジタル化はできる人から優先し、できない人は役所の窓口でスマートフォンの操作などのサポートをする。こうした2段構えが必要です。ある種の「悪平等」というか、最も使えない人に合わせようとするから、進みが遅いというのが1つです。
もう1つの理由は、既得権益に対して優し過ぎること。これまでの不景気の中で、企業を倒産させず、失業者も出さないのが政治的に最重要だったのでしょう。既存のプレーヤーは最も雇用を生み出してくれている存在ですから、そこに対して優しくするのは必要性のある措置でした。しかし、今はそれがもう完全に供給力不足になって、企業ももっと競争力を持って賃上げしなくてはいけない局面です。パラダイムが転換したのにもかかわらず、現状は既得権益に対して優し過ぎると思います。
デジタル化を進めようとしても、口座情報のひも付けなどトラブルが相次ぐマイナンバーカードに対しては否定的な声も聞かれます。
川邊氏:日本人は特に行政に対して(誤りを許さないという)無謬(むびゅう)性への要求が強い。こうした考えを捨てなければ、デジタル後進国は脱せられないでしょう。医療費が財政を非常に圧迫する中、マイナンバーカードと保険証のひも付けは進めるべきです。
LINEヤフーも(サイバー攻撃などの)事故を起こして、申し訳ないのですが、巨大なシステムに事故はつきもの。事故が起きる前提で説明し、再発防止策を制定して、国民も慣れもらうことも必要でしょう。その上で、サービスの利便性に触れてもらっていけば、理解が広がるのだと思います。
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