日経ビジネスは昨日、「ユニクロ、パートとアルバイト1万6000人を正社員化」として、ファーストリテイリングの大規模な経営方針を報じた。

 3月11日、柳井正・会長兼社長は、この決断を、半年に1度同社が開催する巨大会議「FRコンベンション」の場で従業員に打ち明けた。FRコンベンションに集まったのは、国内外のファーストリテイリンググループに務める店長や幹部たち約4100人。柳井会長は壇上から、およそ1時間かけて自らの新たな経営方針を語った。

 臨席する機会を得た記者は、その言葉の強さに圧倒され続けた。「180度変える」「全部中止」「失敗」。自らの過去を否定する言葉が次々に飛び出してくる。

 柳井会長が従業員に最も訴えたかったことは何か。ファーストリテイリングはこの先、どこへ向かうのか。日経ビジネス3月24日号特集「ユニクロ大転換 柳井正の決断」では、柳井会長が目指す新たな経営方針の全貌を詳らかに解説した。その発売に先駆けて、取材班が柳井改革の方向性を知る上で大きなヒントを得た、FRコンベンションにおける柳井会長の演説を本誌発売に先駆けてお届けしたい。

 要約、整理することもできたが、枝葉末節に思えるようなエピソードや発言にこそ柳井会長の考えが込められているように感じたので、あえて解釈を差し挟まず、ノーカットでそのまま掲載することにした。長文になったが諒承いただきたい。

3月11日、パシフィコ横浜には約4100人のファーストリテイリング従業員が集まった。彼らを前に、柳井会長が口火を切った(撮影:古立 康三)

「働き方を変えないといけない」

 (会場に集まったのが)4000人以上ですか、すごいですね。

 でもこれ、決して大会社ではありません。我々はベンチャービジネス。1店舗1店舗は小さい店ばかりです。その中で、皆さんが賢明に頑張っている。そういった会社です。

 (大画面に表示したプロゴルファー、アダム・スコット氏の写真を指して)我々のグローバル・アンバサダーのアダム・スコットです。彼は去年4月、マスターズでオーストラリア人として初めて勝ちました。その時の写真です。

 彼は普段、ガッツポーズはほとんどしない人物です。ですが昨年、PGAで最優秀選手に選ばれた時に、こういう表情をしました。

 我々も、我々の業界で、マスターズで勝たないといけない。

 そのために必要なこと。

 まず、世界一を実現するために、あなたたち一人ひとりが考え方を変えないといけない。私も変えます。あなたも変えてください。

 今年の我々のテーマは、「Global is local, local is global.」。

 これは、日本で最高のモノを作り、米国で最高のモノを作る。フランスでも最高のモノを作る。セオリーで最高のモノを作り、GU(ジーユー)でも最高のモノを作る。それぞれが、FR(ファーストリテイリング)で最高のモノでないといけない。

 この最高水準(のモノ作り)は、一足飛びには実現できません。少なくとも3年や5年はかかる。あるいは、一生作り上げられないかもしれません。けれども、それでも作り上げる。そのために働き方を変えないといけないと思います。

 ここに集まった4000人以上、そして世界で働く7万人以上の人の夢を叶えるために、会場に集まった人たちがどう変われるか。

 我々はベンチャービジネスで、しかも将来に夢を持っています。そんな会社は世界に何社もないでしょう。日本でも何社もない。そして我々は、グローバル企業になりたいと思っている。そのためには、一人ひとりの夢が叶わないとダメだと思います。

 そのために商売の仕組みを変える。チェーンストア(経営)や製造小売業から個店経営や個人経営。そういった変化です。独立自尊の商売人に変わっていく。そういうことを、一人ひとりがやっていく。

 店長だけではないですよ。本部の人だけでもない。店舗で働く一人ひとりが自立して、一人ずつ自分の夢を実現させていく。サラリーマンでなく、独立自尊の商売人になっていく。我々のモットーは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」ですから。

 時代は変わりました。先行きが不安で、人々が安定した生活を求めるようになっています。残念ながら、先進国では安定を求める人がすごく多くなりました。

 グローバル化はどんどん進み、移動する人はどんどん移動しています。けれど、日本や欧米のように成熟した社会になると、物的な欲望よりも、精神的な安定を求める人が多くなります。安泰で終わりたいという人が多くなりました。この流れは、いずれ発展途上国にも来るでしょう。

 日常生活で成長する人生。そういう生き方を認めるような世の中になったと思います。ですから、そういう人たちの生活を守ることが店長の役割です。

「一番大きな失敗は、店長を主役にしたこと」

 今まで、私は数多くの失敗をしてきましたが、その中で一番大きな失敗が、「店長」を主役とした会社にしようとしたことでした。そうではなくて「店舗のスタッフ一人ひとり」を主役にする。そのために我々が全員でサポートしていく。そう変えようと思います。(スタッフの)生活を守ることが、我々の一番の仕事だと思います。

 本当に(スタッフの)生活を守ろうと思ったら、仕事の水準を上げないといけません。残念ながら、まだまだ世界最高水準とは言えていない。

 少子高齢化が進み、日本を含めた先進国では、今からどんどん人材が枯渇してきます。中国でもそう。韓国でもそう。アジアの国々も将来的はそうなっていく。

 日本では、時給1000円で集まる人の数がどんどん減っています。だからこそ、一人ひとりを本当に大事にしないといけない。

 年収300~4000万円の世の中に変わってきたということです。

 今までは、年収が400~600万円、あるいは年収600~800万円で、亭主が稼いで妻は専業主婦という家庭が多かった。それが今では、夫婦2人で稼いで、(世帯年収が)400万~800万円といった世界になっています。

 そういった中で、最高の人材を採用して、その人たちを育成し、もっと良い生活ができるように、もっといい給料がもらえるように、もっと余裕のある生活が送れるように、長期間働ける環境を作ることが必要なんです。

 一人前になるには、2~3年(の経験)では無理でしょう。店を一つずつ磨き上げていかないといけない。

 だから、腰掛け店長や腰掛け販売員は必要ありません。選りすぐった人たちや普通の人たちが、自分で自分に磨きをかけ、あるいは店長や本部スタッフが磨いて、新しい情報をいろいろな国から入れて、海外と同期を取りながらローカルで生き残る。これをやっていきたい。

 毎日の仕事をやりきって質を高めていけば、必ずグローバルで通用するようになると思います。毎日の積み重ねがすごく大事です。我々は小売業で、労働集約的な産業ですけど、毎日の積み重ね以外に大事なことはありません。

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