新国立競技場の整備費をめぐって、舛添要一都知事と下村博文文部科学大臣の間で論争が起こっている。
発端は、舛添知事が26日の記者会見で、国が都の負担分を580億円と試算した点などを取り上げ「全くいいかげん。支離滅裂だ」と批判したことだった。
これを受けて、翌27日、下村文科相は「(試算は)途中段階として首相官邸に報告したもの。詳細が分かり次第、随時都に説明したい」と、負担分の説明が遅れた経緯を伝え、あわせて「コストダウンをはかりながら期限を守ろうとしている。(新国立競技場を)都も活用するわけだから、一緒に前向きに考えてもらいたい」と理解を求めた。
また、一連の発言の中で、下村文科相は、舛添都知事に対して「当事者意識をもってやってもらいたい。開催都市の知事だとの自覚で、一緒にやろうという思いを持ってほしい」と、その姿勢に注文をつける言葉を残している(ソースはこちら)。
舛添都知事は、さる連載コラムで《新国立競技場の建設について、誰が最終的に責任を持つのか!?》《根拠不明な都の拠出額「500億円」 文科省は新国立競技場問題に誠実な回答を!》という寄稿をしている(こちら)。
一読する限り、私の目には、舛添都知事の言い分は極めてまっとうに見える。
彼が指摘している通り、新国立競技場建設に関する国の説明は、まったくもって当事者意識のかけらもない、葬儀屋の挨拶みたいな空虚な文言に終始している。
もっとも、新国立競技場は、下村文科相が指摘するまでもなく、東京が開催都市となる2020年東京オリンピックのメーン会場である。その意味では、東京都自身、「国立」という名前にもたれかかって知らん顔を決め込んでいて良い立場ではないのだろう。
とはいえ、逆に考えれば、東京都としては、自分のところで開催する五輪のメーン会場であるからこそ、その予算の使われ方や、工期の管理や見積もりのされ方について、口を出す権利を持っているはずでもある。
とすれば、事前に何の説明もない状況下で、いきなり580億円もの負担増が耳に入ったら、舛添都知事ならずとも腹を立てる。当然の話だ。
そこへ持ってきて、言うに事欠いて「当事者意識」である。
これはいったいどういう理路から発せられた言葉なのだろう。
借金を踏み倒しにかかっている側の人間が、貸主に対して
「これだけの金額が丸々不良債権になったらあんただって自分のクビが危ないんじゃないか?」
と、盗っ人猛々しくも、追い貸しを催促するという話は聞いたことがある。
しかしながら、どんな図々しい借り手であれ、カネを受け取る側の人間が、カネを出す相手に向かって「当事者意識をもってやってもらいたい」と説教をカマすなどというバカげた話は聞いたことがない。文科相は何か悪い夢でも見ているのではなかろうか。そうでないのだとすると、日本の子供たちの教育を統べる立場の人間としてあまりにも礼を欠いている。できれば目を覚ましてほしい。
新国立競技場の建設については、はじめからおかしなことだらけだった。
デザインの公募のされ方(応募資格が厳格すぎて、事実上はじめから「世界的有名デザイナー」が設計することになっていた)、審査員の人選、選定の経緯、発表のされ方などなど、設計から建設に至るプロセスのすべての段階で、そもそもの最初から批判の声が渦巻いていた。
「なんだこりゃ」
「こんなの1300億でできるのか?」
「完成予想図を見ると、日本青年館周辺の建物は全部ひっくるめて更地にするみたいだけど、土地の収用やら立ち退きやらは間に合うんだろうか」
「ゼネコンの関係者以外でこの巨大廃墟を喜ぶ都民がいるようにはとても思えないわな」
「っていうか、屋根が総武線の線路を超えて慶應病院の門の前まで届きそうになってるけど、いったいどこのガミラス帝国と戦うつもりでこんな宇宙基地を作るんだ?」
現時点で明らかになりつつある様々な問題点も、ひとつひとつ検討してみれば、2012年11月に新国立競技場の設計案が「新国立競技場 国際デザイン・コンクール」によって、最終的にロンドンを拠点に活躍する建築家のザハ・ハディド氏の案に決定した時点で、多方面の専門家によって指摘されていたものばかりだ。
私自身、デザイン案が発表された当時の悪評をよく覚えている。
というのも、私は、国立競技場を建て替えて、あの場所に巨大な陸上トラック付きの総合競技場を新築することに当初から反対の意見を持っていたからだ。
反対していたのは私だけではない。
サッカーファンの大部分は、陸上トラック付きのデカい競技場にはネガティブな印象を抱いている。ということはオダジマならびにサッカーファンの意見は、ある面でサッカーへの利益誘導を旨とする、我田引水の見解であることを免れ得てはいないわけで、だから、私は、大威張りで自説を押し出そうとは思っていない。
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