テレビ東京アナウンサーの大江麻理子さん(35)が、結婚することになったのだそうで、私の周辺のおっさん界隈は、ちょっとした騒ぎになった。少なくとも、私の属するクラスタにおいて、ここしばらくでは、このニュースが一番大きな話題だった。
「なんと狭隘な世界だろうか」
と思う人もあるだろう。
おっしゃるとおりだ。私は1年の大半と1日のほとんどを、ごく限られた狭い世界で暮らしている。
なぜというに、グローバルな世界には、個人の住むスペースが無いからだ。
仕事の必要や取引上のなりゆきで、われわれは、時に、グローバルな世界とやりとりをしなければならない。
が、そのグローバル・ビジネスマンとて、一個人に戻って、食べたり考えたり笑ったりするためには、小学校の教室よりももっと狭い空間にとじこもらなければならない。
結婚というのも、おそらくは、そういう狭い世界の中のお話だ。
だからこそ、狭いサークルの中の親しい知人の間では、政治経済外交の話題より、顔を知っている誰かの結婚話の方が大事件になるのだろう。
もっとも、私自身は、大江麻理子アナのことをよく知らなかったし、お相手の松本大氏(50)についてはまったく知識を持っていなかった。
なので、最初に「松本大社長」という文字面を見た時には
「ああ、女子アナと結婚する人はこういう揶揄のされ方に耐えねばならんのだな」
という感想を抱いたりした。
念の為に説明すると、私は、「松本大社長」という表記の仕方に
「ほら、要するに大会社の大社長だってなことで、カネのチカラで若い嫁さんをゲットしたわけだよ」
的な記者の悪意を読み取っていたわけだ。そういう読み方をしたのは、私の中にも若干の悪意があったということなのかもしれない。
まあ、どうでも良いことだ。
今回は、「結婚」について考えてみようと思っている。
大江アナの結婚に特段にこだわっているのではない。
ただ、「結婚」という話題になると、色々な人たちの、思い思いの偏見が露呈する感じがして、そういう意味で、つついてみる価値のあるテーマだと考えた次第だ。
今週は、もうひとつ、結婚についての話題が紙面をにぎわした。
以下、引用する。
《セクハラヤジが問題になった東京都議会で16日、男女共同参画社会について議論する総会の後で、会長の都議会自民党の議員が「『結婚したらどうだ』とプライベートの場なら私だって言う」と発言した。--略--総会の後、会長で都議会自民党の野島善司議員は報道各社に対し、次のように述べた。野島都議「女性と何人かで話をしていて『まだ結婚しないの』と言いますよ。平場で」野島議員は「平場とはプライベートのこと」と説明し、議場という公の場で発言したことが問題だという認識を示した。--略--》(ソースはこちら)
この議員さんは、当初、当該発言について「私の生きざま」と説明したりして、あくまでも強気を貫いていたのだが、結局、謝罪することになる。
まあ、お約束の展開だ。
ついでに言えば、くだらない事件だ。
コメントそのもののくだらなさもさることながら、話題として取り上げたメディアの記事の書き方や、発言に反発するご意見のテンプレぶりも含めて、その他、当初、言った言葉を引っ込めずに押し通そうとした態度から、そんなふうに意地を張ったくせに反発が大きくなると一転して謝罪してしまった根性の無さに至るまでの、すべての要素が、全方向的にくだらない。
おそらく、ニュースを見たテレビ視聴者の多くもうんざりしたはずで、だからこそ、このニュースは、早々に大江アナの結婚話にとって代わられたのだと思う。
本件のポイントは、伝えられた愚劣な発言が、よりにもよって男女共同参画社会について議論する総会後の席で、「男女共同参画社会推進議員連盟」の会長という肩書きを持った人間の口から吐き出されたところにある。だからこそ、この発言には、単なる「くだらなさ」を超えた、「救いようの無さ」が宿ることになった。
思うに、野島都議ご自身は、自分の発言をセクハラとは認識しておられない。不謹慎だとも感じていないし、失礼だとさえ思っていない。
「ほんの茶目っ気じゃないか」
と、その程度に考えている。
「だって、世間話だろ?これ」
と。それほど「意識が低い」ということだ。
彼自身としては、そもそも、先の都議会で「結婚したらどうだ」という野次が問題視されたこと自体が心外だったのだと思う。ただ、百歩譲って言うなら、公の場での結婚ネタの野次が不適切だというところまでは認めても良い----でも、私的なプライベートな「平場」の席で、独身議員に結婚をすすめたところで、何ら問題は無いじゃないか----と、野島都議は、かように考えたのだと思う。
こういう人を説得するのは容易なことではない。
このタイプの、自分を疑うことを知らない本音主義者は、自分の発言が自分の正直な気持ちの発露であるというそのこと自体を理由に、全面的に免罪されるべきだというふうに考えていたりする。
「だって、ホントのことなんだから」
「だって、オレ、ホントにそう思ってるんだから」
と。
これは、説得のしようがない。
では、このテのセクハラ発言を撲滅して、真に女性が輝く社会を招来するためには、この種の意識の低い議員を駆逐すれば良いのかというと、話はそう簡単には参らない。
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