通信業界がまた動き出しそうな気配だ。ソフトバンクは買収合戦の末、米携帯電話3位のスプリント・ネクステルを手中に収めた。最大手のNTTドコモは対「iPhone」の旗頭としてソニーと韓国サムスンのスマートフォンを「ツートップ」に据える。一方で携帯電話会社の主力サービスだった通話やコミュニケーションサービスは、LINEやグーグルのようなOTT(オーバー・ザ・トップ)と呼ばれる事業者に浸食されている。自身も通信業界に身を置き、ICTの世界に精通しているコンサルタント、ローランド・ベルガーの菊地泰敏パートナーにこの先を占ってもらった。
(聞き手は小板橋太郎)
菊地さんは国際デジタル通信(IDC)の出身なんですね。懐かしい会社名です。
菊地:そうです。1985年の通信自由化で、国際、長距離、地域通信の3カテゴリーが自由化されますが、IDCは国際通信部門で、伊藤忠商事とトヨタ自動車、英ケーブル&ワイヤレス(C&W)が共同で設立した会社です。
IDCはその後、どんな運命をたどるのでしたっけ。
菊地:99年にC&WとNTTの買収合戦があって、いちおうC&Wの傘下に入ります。そのタイミングで私もまだ残っていたのですが、C&Wが2005年に日本市場から撤退し、ソフトバンクの傘下にはいりました。私はそのタイミングで辞めてコンサルティングの世界に入りました。
いまメジャーなプレーヤーはNTTとKDDI、ソフトバンクの3社になりましたが、その収束を中と横とで見てきたわけです。
ドコモが描く全体像が見えない
当時は想像もできなかったようなことが通信業界で起きていますね。今日はまず、キャリア(携帯電話会社)とOTTとよばれるプレーヤーとの話から伺いたいと思います。先日も少女暴行殺人事件でLINEが使われたように、こうしたサービスが若者に根を張っていますね。
菊地:全世界的な傾向でこの流れは止まらないと思いますね。日本はもともとキャリアが強かったので、ドコモがiモードでコンテンツに進出したように、通信会社は端末やコンテンツをも支配する、という空気があった。
ところが端末では米アップルやグーグルのような強敵が現れ、コンテンツの分野ではOTTが席巻している。携帯電話会社がもっている通信以外のおいしい部分が両社に持って行かれている格好です。ですから、海外とはちょっと違った現象が起きています。
おいしい部分を持って行かれまいと、抵抗しているわけですね。ドコモは独自にマーケットを作ろうとしています。この動きをどう見ますか。
菊地:ドコモは「総合サービス企業」と銘打って、野菜の宅配会社やレコード会社、その他のサービス分野の会社を買収しています。
米アマゾンや楽天がこれだけネット通販の世界を席巻しているところで、ドコモがどれだけやれるでしょうか。
菊地:ドコモはiモードの成功体験があるので時計をその時まで巻き戻したいと思ってやっているのでしょうね。でもたぶん戻ることはないでしょう。
本当に戻せると思ってやっているのでしょうか?
菊地:だと思いますね。ただ、全体の下絵が描かれていて、そこにピースを埋めていってるというようには見えない。とにかくなんか面白そうなネタがあったらかじってみようという。統一的な方向性が見えない、非常に散逸している印象があります。
コンテンツも端末も牛耳っていたドコモのかつての地位は放棄しなければならない?
そう見ていますね。私が必要だと思うのは、キャリアがOTTプレーヤーと対等な関係を構築することです。iモードの時代はキャリアが通信といっしょにコンテンツをパッケージで売っていたが、それがだんだん分解されてきて、ビジネスモデルは崩れた。アプリケーション層はその専門の人、テレコムはキャリアが提供する。両社が対等な形でお互いに協調関係を築くというのが一番いいモデルだと思います。
それを元に戻したい、というのがドコモが非常に強く望んでいることだと思うんですよ。それは正直いって難しいと思います。
たとえばLINEは、2億人を超えるユーザー数をあっという間に達成してしまった。しかもサービスがグローバルです。国際ローミングで通信料が高くなるなんてことはない。世界中で共通のアプリケーションを使える。それに対してキャリアは基本的には本国、外国という考え方です。いまのところOTTの方がユーザーの要望を吸収しています。
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