「王様の結婚」
「王様の結婚」(佐藤正午)は中編の「王様の結婚」と短編「青い傘」の二本立て。「王様」は小説家志望の男と病院に勤める女の煮え切らない恋愛模様と男の同級生の歪んだ殉愛を描く。
<これまでにもいくつか恋をして、いくつか恋を喪って、そのたびに三日で立ち直ってきたじゃないか。しっかりしろ!
ジョン・レノンが死んだ日にふられた男の消すに消せない恋の記憶…。以来、すっかり落ち込んだ日常T輝かしい甘美な過去を交錯させて、男に再び訪れた新しい恋の季節を、ホロ苦いユーモアで描く青春小説。>
ここで言う「ユーモア」は、アメリカのハードボイルド小説で描かれるものに近いものがある。
「青い傘」は、10年ぶりに再会した高校の同級生から借りた傘を返しに行く高校の国語教師の物語だ。その同級生とは一夜限りのはずだったが、彼はその強烈な体験が忘れられず、「もう一度だけ」とこの一週間思い続けている。ラスト、その傘はどうなったかというと—―
<ここまで来たのだから、傘を持って女の部屋へ行き、女のそばへ寄り、女のワンピースをたくし上げ、女の匂いをかぎたい。今度こそ首まで一気に、もう一ぺんだけ。(中略)
男の手の先で力を失った雨傘が舗道軽くはねかえる。鮮やかな青の大輪が濡れたアスファルトのうえに短い弧をえがく>
青春期の欲望とためらいを描いて見事だ。
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