だれかのいとしい人
「だれかのいとしい人」(角田光代)は8編の短編集。帯には「はっきりとした恋愛にはおさまらない微妙な感情を鮮やかに描く新しい形の小説集」とあるが、「鮮やかに」は言い過ぎ。あとがきで角田さんは本書についてこう述べている。
<恋愛、だとか、友情、だとか、幸だとか不幸だとか、くっきりとした輪郭を持ったものにあてはまらない、あてはめてみてもどうしてもはみでてしまう何事かがある。その何事かの周辺にいる男子と女子について書いた。それは、夢と現実のごっちゃになった記憶を掘り返す作業と、どことなく似ていて、物語のなかで彼女や彼が見た、ひまわりや地味な夜景や、黄色い電車や花の咲く野は、いつのまにか私自身のひどく個人的な記憶になってしまった>
私には最後の「海と凧」が面白かった。「靴下のたたみかたのことを話しながら言葉外でほかのことを主張する、というような特技を、この二年間で私たちは完璧に取得したように思える。主張するだけでなく、言葉外のことを正確に相手に伝えることもできる」という書き出しは「くっきりとした輪郭をもったもの」の私には感じられた。
<どうにもならない恋ってあるの?
仕事も何となく続けているし、恋愛もいくつか経験した。将来も見えてきたような……そんな負け犬予備群たちのものがたり。
転校生じゃないからという理由でふられた女子高生、元カレのアパートに忍び込むフリーライター、親友の恋人とひそかにつきあう病癖のある女の子、誕生日休暇を一人ハワイで過ごすハメになったOL…。どこか不安定で仕事にも恋に対しても不器用な主人公たち。ちょっぴり不幸な男女の恋愛を描いた短篇小説集。
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