中学二年生のふたつの物語
「沈黙の町で」(奥田英朗)は、長編小説だが、長さを感じさせない。
<中学二年生の名倉祐一が部室の屋上から転落し、死亡した。屋上には五人の足跡が残されていた。事故か? 自殺か? それとも……。やがて祐一がいじめを受けていたことが明らからになり、同級生二人が逮捕、二人が補導される。閑静な地方都市で起きた一人の中学生の死をめぐり、静かな波紋が広がっていく。被害者家族や加害者とされる少年とその親、学校、警察などさまざまな視点から描き出される傑作長編サスペンス>
本書は事件の関係者(警察、学校、家族)の思惑を丁寧に描くことによって読む者の緊張感を持続させてくれる。事件の真相解明が暗礁に乗り上げたかにみえた中盤から、被害者と加害者と目された中学二年生の日常のエピソードが描かれはじめ、そしてラスト、事件の真相が明らかになる。登場人物たちは一様に内向きで母親は子供を、教師は学校を、警察は威信を、子供たちは自分を守ろうとする。登場人物それぞれの内面を丁寧に描くことによってその思惑がリアルに迫ってくる。見事だ。
「アーモンド入りチョコレートのワルツ」(森絵都)は、中学二年生を主人公にした三つの短編集。
「沈黙の町で」が他人を受け入れられないで起こった事件を描く物語なら、こちらは他者を受け入れる過程を描いた物語だ。慣れ親しんだ人たちとの再会、ふとした出会い、新しい出会い、そして別れ。その中で主人公たちは相手の身勝手さや嘘によって傷つくが、それらの底には自分に対する優しさが秘められていることに気づいてゆく。三つの物語それぞれの底に流れるのは「他人への思いやり」と優しさだ。この作品は児童文学のジャンルに入るのだろうが、角田光代さんではないが(本書の解説を書いている)
「読み始めてすぐに思った。どうして私が中学生のときに、この作家に会えなかったのか!」
このジャンルでは男性作家なら川上健一さん、女性作家なら佐藤多佳子さんが一番だと思っていたが、う~ん。