蕎麦屋の恋
「蕎麦屋の恋(」姫野カオルコ)は一種の純愛を描いた短編集だ。もっと言えば恋愛かどうかよく「わからない」男と女のお話だ。あとがきにはこうある。
<「恋愛小説」でなく「恋愛できない小説」はいくつか書いた。今回はふつうの生活にある「ふと」をできるだけ穏やかに書いた。穏やかとはある一方の立場だけからものごとを見るのではなく、いろいろな人の立場に立ってみるということ>
私的には表題作が「ほっこり」していて一番好きだ。
<小さくも苦い過去の思いを抱え、新しい恋は、通勤電車から始まった――。ふとした喜びやせつなさを描く短編集
秋原健一、四十三歳、ふつうの会社員。波多野妙子、OLを辞めた三十歳。それぞれに過去の小さくも苦い思いを抱えた男と女は、通勤の京浜急行で出会い、途中下車した駅の蕎麦屋でせいろをすすり、ただテレビを観る。淡く、不思議な甘さに包まれながら――。爽やかな感性の触れあいを描いた表題作他二編収録。日常に潜むふとした喜びやせつなさを掬い取った可憐な短編集。>