不思議の果実
「不思議の果実」(沢木耕太郎)は、「会う」と題して吉永小百合や美空ひばりとのインタヴューの現場を描いた「水路をつなぐ」、世界陸上、映画、オリンピック等の観戦記をまとめた「不思議の果実」の二つの章で構成されている。興味深かったのはインタヴューの醍醐味と言って良いこんな場面だ。
<インタヴューには、相手の知っていることばかりでなく、「知らないこと」まで喋ってもらうという側面があきらかに存在する。そんなことを言うと、知らないことなど喋れるはずがない、と反論されるかもしれない。だが、質問を投げかけられることで、その人が自分でも意識していなかったことを自身の内部に発見して喋ったり、思いがけないことを口走ったりするということは、必ずしも稀なことではないのである。(中略)
極めて優れたインタヴューに遭遇すると、自分でも意外と思えることを喋っていることがある。そうか、自分はこんなことを考えていたのか、こんなことにこだわっていたのかと改めで気づかされたりする。それは、どこか、格闘技のプレイヤーたちがすぐれた対戦相手をもったときに通常とは異なる力量を発揮するのに似たところがある。自分以上の自分になる契機を与えられるのだ。(「言葉の湖に水路をつなぐ」)>
「質問を投げかけられることで」以下の状況で、喋っているうちに「自分はこうだったのだ」と気づく体験は誰にもあると思う。「考えて喋る」より、「喋りながら考える」ことが。
