韓流バブルとAKB48

 ファミリマートに寄ったら、ぺ・ヨンジュンが微笑んでいた。傍らにKARAのポスターもある。ファミリーマートはLove韓流らしい。ローソンに行けば、名前は知らないが、明らかに韓流と判るタレントのグッズプレゼントとのことである。韓流は、割とブームなのに違うタレントを使えば同業間でもかぶり感が無いので便利である。この同業種におけるかぶり感の少なさは、間違いなく韓流が普及した理由の一つだろう。全盛期のジャニタレや小室系アーティストにもそういう構造は有ったが、好みが細分化した近年では、何かの大きなカテゴリーがまとめて流行っている、という状況自体が珍しい。それで、はて、セブン・イレブンは、ちょっと前にAKB48を推してたやに記憶するがと調べてみたら、少しだけ旧聞に属するが、実はセブンも含めた大手コンビニ三社が、販促に韓流タレント使用で揃い踏みとのことだった。

コンビニ大手3社に“韓流”の動き ローソンがチャン・グンソクと年間広告契約に合意
 コンビニ各社に韓流スターやK-POPグループとのモデル契約やコラボ商品を発売する動きが相次いでいる。ローソンは15日、チャン・グンソク と年間広告モデル契約に合意したと発表した。ファミリーマートも6月末にペ・ヨンジュン との年間契約を結んだほか、セブン-イレブンも今月より東方神起、少女時代 とのコラボ商品を展開。
〜[中略]〜
女性客層の拡大を目指すローソンはこれまでにもスイーツや弁当類など女性ターゲットの商品を次々と発売しており、日本の女性からも高い人気があるチャン・グンソクに白羽の矢を立てた。
〜[中略]〜
ペ・ヨンジュンを起用したファミリーマートは、韓流ブームの火付け役となった『冬のソナタ』に魅せられた団塊世代の女性を中心に、“おとな世代”への訴求を狙った。
〜[中略]〜
セブン−イレブンは、弁当類、スナック類のほかTシャツやマスカラ、ポーチなどの限定商品も用意。対象商品を買うとオリジナルの携帯電話待ち受け画面やPC動画がもらえるキャンペーンも実施するなど、若い世代向けの商品・サービス展開が特徴だ。
○2011年07月15日 Oricon Life

 ローソンのタレントの名前をこの記事で初めて知った。ジャニタレと同程度か、それ以上に韓流タレントへの興味は無い。ただ、日本の流通の雄たるコンビニが揃いも揃って韓流タレントを使った事については、経営の視点としての興味は湧いた。なぜ揃って三社が韓流タレントを使ったのだろうか。理由は多分凄くシンプルで、記事の通り、それぞれのタレントが、特定のある層に刺さっているからだろう。僕は最初てっきりコストが安いのだと思い、そして直近は、円高ウォン安で、その安さは益々際立ち、工場がコスト高の日本から逃げだそうとしているのと全く同じ事が芸能界で起こっているだけという仮説を持っていたが、どうやらそれは違っていて、韓流タレントのコストは結構高い様だ。
○韓流パブリック・ブログ「チャン・グンソク, 日本 CF出演料 12億7千万ウォン」
 この辺りを見ると、ソースがフライデーというのがイマイチではあるが、先ほど知ったチャン・グンソクなるタレントはCM一発で9000万円、KARAやペ・ヨンジュンは5000万と、嵐には及ばないが福山雅治や篠原涼子あたりの日本のトップタレントと全く変わらない。という事は、多少ブームだからとはいえ、高コストが合理性を持つ程度に、特定層の支持度合いが強いのだろう。冒頭の記事では、三社は揃って女性層の拡大を目指している様に見え、ローソンとファミマは大人の女性をターゲットにしていると思しきことから、日本の妙齢の女性層は、右翼色が強い2ちゃんねるの既婚女性板とは傾向が異なり、韓流タレントを強く支持していて、そんなデータを元にコンビニはこれらのタレントを使う判断をしたのだと思われる。
 また、もう一つの要素として、韓流という言葉そのものが、結構広い概念を持った言葉なのに、うまくバズワード化して旬となったのは見逃せない。以前はてなー仲間であるCHNPK氏が、AKB48とは、

  • たくさん集まるとなんとなく可愛いような雰囲気になる
  • 一番人気という看板がつくと俄然燃える

という構造から、リーマンショックの遠因でもある証券化商品のCDOとの類似性を指摘していた。

○よそ行きの妄想「AKB48に学ぶ証券化の基礎技術とCDO48」

 それが、韓流もいつの間にか、あれも韓流これも韓流で、イケメン・足がキレイな美女が集まったポートフォリオが自然に形成されて、何となくイケてる雰囲気になった。AKBと同様のバブルである。個別の原資産である各タレントの実力以上に、韓流でグルーピングされる事のプレミアムが乗っている状態だ。流通や消費財みたいな消費者に近い商売は、販促に旬なタレントを使う事が、棚の新鮮度を保つ意味で宿命みたいなもんだ。だから、上記の記事が出た7月頃は、どの層に誰が刺さっているかという上記の論理に加えて、とりあえず韓流バブルに乗っとけと言う事もあって、その中でトリプルA格であろう一番人気のチャン・グンソクとペ・ヨンジュン、東方神起に少女時代をかき集めた側面もあるだろう。皮肉なことに、まさにその直後の8月になったら、一天にわかにかき曇り、反CXデモに反花王デモと、嫌韓の流れが続発した。韓流バブルに突如としてサブプライム・ショックみたいなのが起きて世界が一変したって事だが、これは、まぁバブルって常にそういうもんだよね、と金融界の住人には親しみやすい状況である。
 そんなバブルに続けて乗っているのがセブン・イレブンだ。セブンは、記事の時分では東方神起と少女時代だが、冒頭の通り、以前はAKB48を使っていた。AKB48は男のオタと、低年齢の女の子に刺さっているタレントだ。今回セブンが東方神起と少女時代を使ったのも、若い世代向けと冒頭の記事には記されているので、セブンは継続的に低年齢の女の子向けを頑張ってる様子である。記事から3ヶ月が過ぎた今は、韓流を使った販促は終わって、アニメのワンピースに移った様だ。バブってるものに乗っかるポリシーが明快でよろしい。たぶん、ワンピースが終わったら、芦田愛菜あたりを使うんじゃ無かろうか。
 考えてみれば、上記の様なファン層のAKB48とは、日用品の購買力が低い層にしか刺さっていない、企業には結構使いにくいタレントである。特定のコアなファン層で食べていく事には大成功しているが、20-40代の女性とか、ちょいワル系の男性とかの、購買力がある層に余り支持されていないから、稼げる広告市場では今イチな存在だろう。だから、AKB48は結構うまくTVや雑誌に露出したものの、広告としては、セブンの他はグリコやUHA味覚糖などの子供向けが多く、化粧品/トイレタリー・薬・清涼飲料・金融保険・携帯電話、後はそれこそコンビニやスーパー、みたいなCM出稿企業の中核業態には、WONDAやハイチオールB位しか出れていない。SMAPや福山雅治が高齢化する中、この間隙を縫って女性市場に進出したのが韓流という構造なのだろう。AKB48もブームではあったけど、妙齢の女性、例えばOLが、自分よりうんと若く、ずば抜けて可愛い訳でもないスクールガールが下着みたいな服着て踊ってるグループのファンになる可能性は、羽柴誠三秀吉がどこぞの選挙に勝つ可能性より低そうだ。
 そんな韓流とAKB48のセグメンテーションを考えてみると、AKB48が最近しきりに、中心メンバーのピン立ちを試しているのも判る気がする。AKBは、CDO的にまとめる事が価値なのに、個を切り出してどうする、という突っ込みは極めて真っ当なものの、AKB48の限定されたファン層を打破すべく、これまでのファン層とは違う市場を、ピン立ちで取ろうとしているのでは無いだろうか。だから、子供やオタにウケる、「ちょっとセクシーなスクールガール系」で揃えた既存のAKBメンバーとは明らかに一線を画す、「普通のお姉系」の板野を、総選挙で順位が低いにも関わらず、やたらとピンで推してるのだ。その様に「普通のお姉系」が好きな僕は考察している。