或る債権投資ファンドの死

 カーライルグループの住宅ローン投資ビークルと説明されているカーライルキャピタルが金融機関から担保実行され、実質的に破綻したようだ。たぶん、であるが、構造はこういう事であろう。

  • カーライルキャピタルは、投資家から資金を集めて、それに金融機関からのローンでレバレッジを掛けて、住宅ローンに投資をしていた。つまり、BSで言えば、資本が投資家、負債が金融機関、そして資産が住宅ローンということだ。ユーロネクスト・アムステルダムに上場している様だが、その公表情報によれば、負債の額は昨年末の数字で2.1兆円にのぼる様で、資本は670億少々、多分資本の内訳の中のPaid-in capitalが投資家出資額だから、それは380億である。実にレバレッジは50倍である
  • そこに折からの信用収縮と住宅市況の悪化によって、主要投資対象である住宅ローンの価値が値下がりした
  • 金融機関からのローンには、資産時価がある所を切ると投資家が金融機関に対して、マージンコールと呼ばれる追証を入れなくてはならない条件が入っており、それに投資家が応じきれずに金融機関が担保実行して、資産の住宅ローンを取得し、マーケットで売却して回収に入った(つまり、投資家は全損)

 これによって13〜14日のマーケットは大揺れとなったが、このカーライルキャピタルは、バイアウトで世界最大級のカーライルとは、当然だが倒産隔離がなされている。だが、下記を見ると、必ずしも影響なしとは言えないようだ。カーライルのパートナーの私財からと思しき150億円の保証が既に提供されている様だが、さらに全損となった投資家に損失補填みたいなことも考えているとのこと。これは、バイアウトにせよ何にせよ、ファンドは集めてきたお金をハイリターンで回す→投資家からの信頼→更に大きなお金を集める、というバリューチェインのため、幾ら倒産隔離が為されていても、経営者としては投資家に対して配慮をしないと、バイアウトを含めた他の投資ビジネスにも資金が集まらなくなってしまう、ということなのだろう。

米カーライル、カーライル・キャピタルの投資家支援を検討=仏紙

 米プライベート・エクイティのカーライル・グループは、傘下のカーライル・キャピタルへの投資で損失を被った投資家の支援を検討する意向を示した。カーライルの共同創業者、デビッド・ルーベンシュタイン氏が仏紙レゼコーのインタビューで明らかにした。

○ロイター通信

 あと、注目すべきは担保実行した金融機関で、報道によれば、メリルリンチとベアスターンズ、ドイツ銀行、クレディスイスが実行し、シティバンクはまだホールドしているとのこと。どこもサブプライムでは損失を出しているが、対応が分かれたのは、今後のカーライルグループとのビジネスに気を使える状況か否か、と考えるのはうがちすぎだろうか。特にベアスターンズは一時期の山一證券への日銀特融みたいな状況に追い込まれているので、担保実行して資金回収しないと、自分の借金を返せない。

 しかし、本件とは直接関係ないが、レバレッジデット市場の冷え込みに伴い、1年前はわが世の春だった米国のバイアウトファンド業界も様変わりである。日本はまだ、金融機関のバランスシートは健全だし、ファンドも増えているし、M&A市場自体も成長している。しばらくは、日本においてはバイアウトファンドも成長余地があるだろうし、世間への認知も増えていくだろう。だが、業界が、鼻もちならない形でマスコミに語られだしたりすると、そろそろやばい気がするのである。一寸先は闇で、何か、例えば投資先の破綻とかを原因にして、一気にバッシングされだしてもおかしくない。若い業界、企業というのは毀誉褒貶あって成長していくものだが、波は小さい方が望ましい。そもそも、投資というのは人が目を付けていないところにお金を張って、裁定を取るのがリターンの基本だから、目立って得することは何もないのである。

 さて、話をカーライルキャピタルに戻すと、13日の東証は、日本証券新聞が伝えるところによると、この報道でカーライルが投資しているキトーが連想安したものの、名前が似ている東日カーライフは影響なく逆行高だったとのことである。