今日の産経ニュース(2025年1/4日分)(副題:夫婦別姓で今日も珍論を展開する産経)

夫婦別姓がもたらす未来とは どんな副作用が起こるか、十分に議論されているのか モンテーニュとの対話 「随想録」を読みながら(193) - 産経ニュース*1
 今日の産経ニュース(2025年1/1日分) - bogus-simotukareのブログ
 今日の産経ニュース(2025年1/2、3日分)(副題:夫婦別姓で今日も珍論を展開する産経、ほか)(追記あり) - bogus-simotukareのブログで批判した「夫婦別姓での珍論(1/1、1/3記事)」に続き今日も珍論の産経です。
 「国鉄分割民営化(その後、ローカル線の廃止が相次ぐ。JR北海道や四国、貨物の経営が危機的)」等と違い「副作用(重大な弊害)」など特にないと思いますが「あるならその時点で修正すればいい」だけの話です。
 そもそも産経のいう副作用とは

 国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は昨年10月末、日本政府に対して、婚姻後の夫婦同姓を強制する民法の規定を改正すべきだとの勧告をした。女性が夫の姓を名乗ることを余儀なくされることが多く、それが差別的だというのだ。
 安倍晋三元首相の暗殺後、リベラル派に乗っ取られた感のある自民党*2のなかにも「導入すべきだ」と考える者が少なくなく*3、うかうかしていたら、すぐにでも(ボーガス注:夫婦別姓を導入した)民法改正が実現してしまいそうな勢いだ。
 私が家族制度にこだわる*4のは、フランスの歴史人口学者にして家族人類学者であるエマニュエル・トッド*5の『新ヨーロッパ大全*6』(藤原書店、石崎晴己*7訳)の影響だ。
 トッドは家族型を親子関係が権威主義的か自由主義的か、きょうだいの関係が平等か否かによって分類する。そこから導き出されるのが、①親子関係が自由主義的できょうだい関係が不平等*8(長子優先)=絶対核家族、②親子関係が自由主義的できょうだい関係が平等=平等主義核家族、③親子関係が権威主義的できょうだい関係が不平等=直系家族、④親子関係が権威主義的できょうだい関係が平等=共同体家族―の4つである。
 たとえばパリ盆地を中心とするフランス北部は②の平等主義核家族であり、それゆえにこの地が「自由・平等・友愛」を唱えるフランス革命の担い手となった。
 ①の絶対核家族が優勢なのはイングランドと、その移民の子孫であるアメリカだ。この家族型が、個人の自由を絶対視し平等に無関心な強欲資本主義の母体となった。
 ④の共同体家族は、西ヨーロッパにはまれで、ロシア、中国、ベトナム、東ヨーロッパに多いという。この家族型がもたらしたのは言うまでもなく社会主義革命である。
 ちなみに戦前の日本は間違いなく③の直系家族だろう。このなかで育まれた心性が、明治以降であれば天皇に対する態度、日本軍のありように投影されていたように思う。
 私は邪推する。女性差別撤廃を掲げる彼らの本当の狙い*9は、家族を精神的に解体*10し、さらには(ボーガス注:現行の家族単位の?)戸籍制度も廃止*11して、日本人をバラバラにすることではないかと。そのうえでバラバラになって寄る辺なく浮遊する日本人*12を④の共同体家族*13としてまとめあげようとしているのではないかと。

 つまり

 別姓派は家族を精神的に解体し、日本人をバラバラにした上で左翼思想の元にまとめあげようとしているのではないか?(俺の要約)

と言う完全な陰謀論だから話になりません。「別姓で家族解体(崩壊)」も陰謀論なら「その後、左翼思想で」云々も完全な陰謀論です。
 そもそも別姓支持派には野田聖子*14など右派もいるし、別姓を採用してる国(米英仏独など)も必ずしも「左翼国家」でもない(例:米国のトランプ政権、フランスのマクロン政権、ドイツのメルケル政権)のに何でそんな話(左翼陰謀論)になるのか。というかその産経の理解だと「夫婦別姓の影響」もあって別姓を採用してる国(米英仏独など)は軒並み家族崩壊なのか?
 というか、そんなこと(明らかな陰謀論)を気にするより、地方における「地域社会の崩壊(地域交通機関の廃止やそれらの生活困難による人口流出など:いわゆる消滅自治体問題、過疎問題)」でも気にしたらどうなのか。別にこちらも「自民党政権が意図的に地方を解体してる」わけでもないでしょうが。
 なお、トッドの主張は彼の仮説にすぎず通説ではありません(勿論、トッド説を支持したところで産経の夫婦別姓反対論が正しくなるわけでは全くないですが)。トッド著書は未読ですし、素人なので上手く反論できないものの、産経が紹介する①の英米、②のフランス理解も怪しいと思いますが、私見では一番怪しいのは④(家族制度の影響で社会主義国化)ですね。
 東欧の共産化は「家族制度」云々より、ナチドイツが東欧侵略して「権力の空白状態」になったところに「ソ連が解放軍として進出してきたこと*15」が大きいでしょう。ナチドイツの侵攻がなければ、ソ連がつけいる隙もなく共産化しなかったのではないか。
 大体その理解だと「資本主義国・西ドイツと共産国・東ドイツ(同じドイツなので恐らく家族制度は同じ)」はどう理解されるのか。
 中国にしても家族制度云々よりも「日本の侵略」で政治混乱する中で共産党が結果的に勢力を伸ばしていったという面が大きい。
 果たして日本の侵略がなければ、共産党が内戦で勝利できたかどうか?
 だからこそ「完全な陰謀論(デマ)」ですが「盧溝橋事件・中国共産党陰謀論(中国共産党が盧溝橋事件を起こし、日本と蒋介石を戦わせることで漁夫の利を狙った)」もある(盧溝橋事件・中国共産党陰謀論への批判として盧溝橋事件 中国共産党陰謀説を紹介しておきます)。
 ベトナムも「北ベトナム」と言う共産国が最終的には戦争に勝利したものの、一時期「南ベトナム」が存在したことはどう説明されるのか?(同じベトナムなので恐らく家族制度は同じ)


韓国、男性中心の家守る夫婦別姓「女性は同じ家の人間と認められない」 米国も8割が同姓 ごまかしの選択的夫婦別姓議論 - 産経ニュース*16
 タイトルで脱力しますね。
 まず韓国の別姓ですが、韓国は「強制的夫婦別姓」であり「選択的別姓」ではないし、その前提には「家父長的な家制度」がある。
 日本の別姓希望者の「別姓」とは制度内容が全然違うのだから「韓国の別姓が女性差別的」というのは全く、日本での「選択的別姓」反対の理由にならない。
 米国の「同姓8割」というのは「選択的別姓でも多くは同姓を選ぶ」というのだから産経の言う「別姓を認めたら別姓だらけになって家族の絆が壊れる」という主張を否定する事実だし、一方で「2割は同姓以外、つまり別姓あるいは新姓(双方の姓をハイフンでつなげる)」というならそれこそ「選択的別姓の必要性」を示す事実でもある。
 なお、産経作成の比較表では「中国、英国、ドイツ」も別姓なのに、「米国、韓国」と違い、「特に問題点がないのであえて触れずにネグった」のか、「取材する力がなかった」のかはともかくこれらの国については記事本文では全く触れないこと(ドイツについては後述するように筒井氏のコメントがありますが、それしかなく、産経が筒井氏に質問しなかったのか、彼が中国、英国の制度に詳しくないのかはともかく、中国、英国についてはそれすらもない)で反対論の説得力を落としています。

 立命館大の筒井淳也*17教授(家族社会学)は「夫婦の姓に関する制度は国の慣習によって異なる。時代や価値観の変化に合わせて利便性や公平性などの観点から米国やドイツでは夫婦別姓が選択できるようになった」と言及。
 一方で、両国では夫婦同姓を選ぶ人が多数派を占めている現状について、「子供も同じ姓になったほうが親としての証明が容易となるメリットがある」と指摘した。

 筒井氏の主張が「単なる事実の指摘」にすぎず、「別姓支持者」が主張してもおかしくない内容でしかないことが興味深い(筒井氏が別姓支持なのかどうかは確認していません)。
 筒井氏の業績をどう評価するにせよ、彼は

◆『仕事と家族:日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(2015年、中公新書)
◆『結婚と家族のこれから:共働き社会の限界』(2016年、光文社新書)
◆『未婚と少子化:この国で子どもを産みにくい理由』(2023年、PHP新書)

という「家族社会学の著書」を出してるし、

筒井淳也 - Wikipedia
 2008年、論文「親密性の社会学 : 縮小する家族のゆくえ」により一橋大学博士(社会学)。審査員は、平子友長*18、町村敬志*19、安川一*20

ということで「専門論文で博士号も取得してる(審査員もそれなりにまともな学者のよう)」ので「専門外の分野にウヨ学者(例:西岡力、西修、秦郁彦、百地章、八木秀次など)がデタラメ言う」という「産経でよくあるケース」ではなさそうです(そもそも彼は西岡や西のような産経文化人でもないですし)。不思議なこと(?)に今回は「一応専門家がコメント」のわけです。

*1:モンテーニュ『随想録』(邦訳は『エセー』の名前で岩波文庫、『随想録』の名前で国書刊行会)が関係ない珍論(夫婦別姓反対論)に「モンテーニュとの対話:『随想録』を読みながら」とタイトルをつけられるモンテーニュもいい迷惑です。ネトウヨがアニメアイコン使うくらい「迷惑な話」でしょう。

*2:「同性婚合法化」「外国人地方参政権導入」ならともかく「夫婦別姓程度でそこまで言うか?、今の自民の何処がリベラルなの?」ですね。まあ確かに安倍が存命では「夫婦別姓を巡る政治状況」が今のようになったかどうかは何とも言えないことは確かでしょうが。

*3:やれやれですね。自民党内にすら賛成派がいるのに何で反対するのか?

*4:家族問題にこだわるのなら別姓反対よりも「児童虐待」「介護問題(老老介護、ヤングケアラーなど)」「空き家問題」とかにこだわってほしいですね。

*5:著書『移民の運命』『経済幻想』(以上、1999年、藤原書店)、『世界像革命』(2001年、藤原書店)、『帝国以後』(2003年、藤原書店)、『世界の多様性:家族構造と近代性』(2008年、藤原書店)、『デモクラシー以後』(2009年、藤原書店)、『アラブ革命はなぜ起きたか』(2011年、藤原書店)、『グローバリズム以後』(2016年、朝日新書)、『家族システムの起源』(2016年、藤原書店)、『エマニュエル・トッドの思考地図』(2020年、筑摩書房)、『パンデミック以後』(2021年、朝日新書)、『老人支配国家・日本の危機』(2021年、文春新書)、『第三次世界大戦はもう始まっている』(2022年、文春新書)、『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』(2022年、文藝春秋社)、『トッド人類史入門・西洋の没落』(2023年、文春新書)、『西洋の敗北』(2024年、文藝春秋社)等

*6:Ⅰが1992年、Ⅱが1993年刊行

*7:1940~2023年。青山学院大学名誉教授。著書『エマニュエル・トッドの冒険』(2022年、藤原書店)等

*8:「きょうだい関係が不平等」の意味が産経記事だけではよく分かりませんが「相続の関係(長子優先相続)」ですかね?

*9:夫婦別姓を主張する個人、団体のうち、左翼政党「社民党、共産党」ならまだしも立民党や「国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)」が「左翼」だとは陰謀論にも程があります。

*10:同姓家族でも「DV」「児童虐待」等の問題行為があれば、神奈川金属バット両親殺害事件 - Wikipedia(1980年、現在の観点だと今週の週刊漫画ゴラク(2024年12/1記載) - bogus-simotukareのブログで触れた教育虐待に該当するのではないか?)等のように当然「家族崩壊」なのに何をバカなことを言っているのかという話です。

*11:当たり前ですが「別姓支持」は「現行の戸籍制度廃止」を必ずしも意味しない(少なくとも別姓支持派の多くはそうした立場ではない)し、「現行の戸籍制度廃止」の是非はともかく、そうした廃止論を産経のように理解するのは陰謀論でしかない。

*12:現状でも「中高年ひきこもり」「高齢単身者」等は「バラバラになって寄る辺なく浮遊する日本人」ではないかと思いますがそういう認識はこの記事の筆者にはないようです。

*13:「共同体家族=ロシア、中国、ベトナム、東ヨーロッパ→社会主義革命」という無茶苦茶な話の展開のようです。そもそも日本左翼の立場はあえて言えば「②親子関係が自由主義的できょうだい関係が平等=平等主義核家族(つまり自由主義と平等の重視)」だと思うのですがね。

*14:小渕内閣郵政相、福田、麻生内閣科学技術等担当相、自民党総務会長(第二次安倍総裁時代)、第四次安倍内閣総務相、岸田内閣少子化等担当相を歴任

*15:この点では北朝鮮の誕生も「日本の敗戦」で「権力の空白状態」になったところに「ソ連が解放軍として進出してきたこと」が大きいでしょう。

*16:なお、この記事につけたブクマを誤って削除してしまったので改めて付け直しました。

*17:著書『制度と再帰性の社会学』(2006年、ハーベスト社)、『親密性の社会学:縮小する家族のゆくえ』(2008年、世界思想社)、『仕事と家族:日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(2015年、中公新書)、『結婚と家族のこれから:共働き社会の限界』(2016年、光文社新書)、『社会を知るためには』(2020年、ちくまプリマー新書)、『数字のセンスを磨く:データの読み方・活かし方』(2023年、光文社新書)、『未婚と少子化:この国で子どもを産みにくい理由』(2023年、PHP新書)等

*18:1951年生まれ。一橋大学名誉教授(マルクス哲学)。日本MEGA編集委員会全国グループ代表、日本哲学会理事等を歴任。著書『社会主義と現代世界』(1991年、青木書店)、『遺産としての三木清』(共著、2008年、同時代社)、『マルクス抜粋ノートからマルクスを読む』(共編、2013年、桜井書店)、『資本主義を超えるマルクス理論入門』(共編、2016年、大月書店)、『21世紀のマルクス:マルクス研究の到達点』(共著、2019年、新泉社)等

*19:1956年生まれ。一橋大学名誉教授。日本都市社会学会会長、日本社会学会会長等を歴任。著書『「世界都市」東京の構造転換:都市リストラクチュアリングの社会学』(1994年、東京大学出版会)、『越境者たちのロスアンジェルス』(1999年、平凡社選書)、『開発主義の構造と心性:戦後日本がダムでみた夢と現実』(2011年、御茶の水書房)、『都市に聴け:アーバン・スタディーズから読み解く東京』(2020年、有斐閣)等

*20:1959年生まれ。一橋大学名誉教授