U-NEXTは素晴らしい。出世作『ケス』に先立つ、
ローチ監督の長編デビュー作が視聴できるなんて。
全編ロケーション撮影による、即興演出。
ヒロインの心情吐露、詩的なモノローグ。
そしてキャメラへ向け、つまりは観客へ向け、インタビュー形式の語りかけ。
オーソドックスな映画文体を逸脱した技法は、
ヌーヴェル・ヴァーグのそれである。しかし、
ヌーヴェル・ヴァーグとは劃然と一線を画す。
ヌーヴェル・ヴァーグには、およそ生活感ってものがない。
それがまた、シュールな雰囲気を醸し、堪らなくカッコ好いのだが。
対して、ローチ作品にはもう、生活感が溢れまくっている。
煉瓦工の父親とお針子の母親を持った、監督の血肉なのだろう。
表層的にはヌーヴェル・ヴァーグだが、本作の、
本質的なリアリズムは、今村昌平のドキュメンタリー映画、
『にっぽん戦後史・マダムおんぼろの生活』を想起させる。
栴檀は双葉より芳し。その後のローチ作品を貫く、
不撓不屈のテーマ「犯罪有理」は、本作に於いても鮮烈だ。
社会から疎外され抑圧され、虐げられた人間が、それでも、
生きるために犯さざるを得ない犯罪は、罪ではない。
♪~八百屋の裏で泣いていた 子ども背負った泥棒よ
キャベツ一つ盗むのに 泪はいらないぜ〜
この哲理を是とするのが、ローチ作品の真骨頂。
他の追随を許さぬ、厳しさであり、深さであり、勁さである。
ヒロインと彼女をめぐる男たちにとって、
犯罪は生きる手段であり、罪悪感の持ち合わせなどない。
性に対するルーズさも同様。道徳って、きっと贅沢なものなのだろう。
生まれ落ちた時からそうした境遇にあり、育って来たのだから。
だが、半ば私生児として産んだ子どもは、そうさせたくないと、
ヒロインは決意している。ヒロインの決意が叶いますようにと、
観客である僕は、祈らずにはいられない。照らせ、
生きてあることのかなしみを。そう、夜空に星のあるように。
犯罪を生きる手段にしなければならない人間がいるなんて、
絶対に、間違っている。何が、間違っているのか。
ローチ作品を観る者は、つねに、この問いに、突き動かされる。