こんにちは。スマートバンクでプロダクトマネージャーをやっているinagakiです。
12月5日にpmconf2024で登壇する機会をいただき、「ストーリーテリングでチームに”熱"を伝える」というテーマでお話しさせていただきました。
今回は、その際お話しした内容そのままを記事として紹介します。
本日はよろしくお願いいたします。ストーリーテリングでチームに”熱”を伝えるというテーマでお話ししたいと思います。 日々働くなかで、プロダクトマネージャーの仕事はいろんな仮説から始まるのではないかと思います。
「こんな課題があるのではないか」「こんな解決策があるのではないか」といったものです。 こうした仮説を持ち、チームを巻き込んでプロダクトを通じた価値提供をしていくことがプロダクトマネージャーの仕事の根幹なのではないかと思います。 一方で、こんなことはありませんか?
これはいける!という仮説をもってチームに共有しても、なかなか共感してもらえない、温度感の違いを感じる… 表情を伺いながら話してみても、まだどこかしっくり行っていない感じがする。
実際、私自身も頻繁に直面するシーンです。 これ、その仮説自体は伝わっているものの、その仮説に対する期待感、ワクワク感、すなわち仮説に対する”熱”が伝わっていないからかもしれません。 プロダクトづくりをする中では、不確実なことや不安なことに日々向き合いながら進める局面が多々あります。
熱を共有できているチームは、こうした不確実な旅路の中で一歩一歩を踏み出し続けられるように思います。 では、どうやってその熱をチームに共有するか?
今日は、仮説をストーリーとして伝えることが重要なのではないかというテーマで、考え方やその伝え方についてお話ししたいと思います。 順番前後しましたが、スマートバンクでプロダクトマネージャーをやっている稲垣と申します。
これまで、ゲームやヘルスケア、金融の領域で、一貫してC向けの事業やプロダクトにおいて、プロダクトマネージャーや事業責任者などをやってきました。 スマートバンクは、B/43という、VISAのプリペイドカードとアプリが一体化した、便利な家計管理プロダクトを提供しているC向けのフィンテックスタートアップです。 今日は、これまでの経験などを踏まえ、お話ししていきたいと思います。
流れとしては、まず”熱”について紐解いてみたいと思います。
その上で、ストーリーを活用することで”熱”を共有しやすいのではないかというお話を。
そして、最後に、そもそもPMが”熱”を自分のなかで持つためにどうすれば良いかについてお話ししたいと思います。
まずは、冒頭でお話しした熱について、もう少し詳しく紐解いてみようと思います。
私自身の原体験から始めたいと思います。
新卒でいわゆるITメガベンチャーに入社したのですが、最初の仕事はゲームの企画職でした。
ゲームというプロダクトは、機能的な価値があるというものではなく、情緒的な価値、すなわち楽しいか否かで全てが決まる世界です。 それを企画するということは、「これ面白いかも」という仮説を持つから始まりますが、なぜそれが面白いを論理だけで説明できるものではありません。
最初の研修でゲームを企画することになりました。 当時流行っていたゲームを分析したり、海外のゲームを調査してみたり。そして、「俺の最強のゲーム」を思いついてしまいました。
それは「走る電車の車窓からデコピンで鉄球を飛ばして街並みのビルのガラスを割るスーパー気持ちいカジュアルゲーム」というものなんですが、息巻いて周囲に説明してみても「う〜ん」という反応で…
いくら追加で説明して、その「これ面白いのでは?」という仮説に対して共感を得ることはできませんでした。 一方で、周囲の諸先輩方を見ていると、説明らしい説明をするというよりも、一緒にゲームをしたり、オセロや花札といった昔ながらのゲームに例えて話をしてみたり、日常の体験から面白さを言語化してみたり。
仮説そのものの説明よりも、それに至るまでに参考にした情報であったり、感じたことを共有するのに時間をかけていました。
そして、何よりも仮説を活き活きと伝え、その仮説に対する”熱”を周囲にどんどん伝播させている様子が印象でした。
そのときに痛感したのは、仮説を論理的に説明するだけでは伝わらず、チームを巻き込むためのコミュニケーションが必要なのではないかということです。 その後、ゲームとは性質の異なる、ヘルスケアや医療、金融といった領域でのプロダクトづくりに関わる中でも、仮説をそのまま説明するだけでは巻き込めないという感覚は常にありました。
特に、0→1フェーズでは普遍的にこの課題に遭遇しましたし、いわゆるグロースフェーズのようなプロダクトでも、小さくても何か新しいことをしようとするときには遭遇しました。 巻き込めていないなというとき、例えば…
PMが持ち出してきた仮説に対して、エンジニアやデザイナーなどチームメンバーに共有してみるものの、
- 反応は渋い…
- どっちの案も正解とも不正解ともわからないなかで、ずっと議論ばかりしていて、アクションが進まない
- それに対して、PMがずっと仮説そのものの説明をしていて、「何かつたわらない」という感覚だけある
- 進まない焦りから、強引に「決めの問題なんでこっちでいきましょう」とするも、チームの反応は煮え切らないまま
- その結果、検証の動きをし始めてみるものの、すぐに「そもそもこれって…」とか「この進め方で良いんでしたっけ?」といった声が出てきて、議論が頻発する
- 最初の検証結果が見え始める頃には、チーム全体にお通夜感がただ良い、良い結果がでないとなると、動きが止まってしまう
一方で、巻き込めているなというとき…
- PMの仮説に対して、チームメンバーが自発的なアクションをとり出している
- そして、早く検証してみましょうというスタンスがあるので、検証の動きは早い。結果的に打席に立つ回数が多い
- 検証結果が良いものでなくても、「だとすると次はこれ試してみましょう」とかといった継続的な仮説検証が進んでいく
- そして何より、PMがいない場で、チームメンバーが熱く自分たちの仮説を他の人に語っている姿を目にする
こうした事例で、うまく行ったとき、いかなかったときを比べてみたときに、何が差分なのか?
振り返ってみると、プロダクトマネージャーの仮説に対する”熱”をチームに共有できていたか、いなかったのかの差分があるのではと思います。 この”熱”、もう少し細かく言うと、その仮説に対するPMの情緒的な期待感のことです。
言い換えると、ワクワク感、すなわちとても情緒的な感覚なのではないかと思います。
これをチームで共有できるということは、仮説に対してチーム一体でワクワクしているということでもありますし、一人一人が主体的に仮説検証に対して向き合えるようになり、チームにとって強い原動力になるんじゃないかと思います。 コミュニケーションにおいて、論理を伝えることも大事だけど、”熱”も合わせて伝えましょうというのは、実はかなり昔から言われていることのようです。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスの「パトス」という概念でも言及されています。 こと、プロダクトチームという視点だと、熱が共有できているチームの特徴をまとめると、はやい・やすい・うまいという特徴があるなと思います。
仮説に対して期待感があるから、早く試してみたいと、動き出しが早くなり、検証の打席に立てる回数も必然的に増えます。 また、根底が揃っているから、チーム内のコミュニケーションも取りやすく、連携がしやすくなります。 そして、一人一人が積極的に関わり、アイデアを出そうとするので、よりよいものが生まれやすくなります。
こんなチーム、よいプロダクトづくりができそうに思いませんか? 熱を共有できると、なんだか良さそうですよね? 一方で、わかるっちゃわかるものの、こうした情緒的な感覚をチーム内で共有するの、難しそうだとも思いませんか?
そのコツを今日はお話ししたいと思うのですが… それが、仮説をストーリーとして伝えることです。
ストーリーというフォーマットで伝えることで、ただ情報を伝えるだけでなく、受け手の想像を喚起し、情緒的な部分をも伝えやすくなります。
これを理解するために、少し、プロダクトづくりにおけるコミュニケーションの構造を紐解いてみようと思います。 プロダクトづくりの初期段階、もしくはそうでなくても新しい取り組みをやるときほど、意思決定・判断をするにあたって、情報量が十分にない状況になります。
そういった状況下では、意思決定や判断の理由を全て説明しきれるわけではありません。なぜAなのか、なぜBなのかの判断理由に一定、というか、結構な比率で直感的なものが存在します。
一方で、いざ伝えようとすると、ビジネスコミュニケーションにおいては説明可能な論理の部分を中心に伝えがちになります。
その結果、自分が直感として良さそうと感じた背景や感覚が伝わらなくなってしまいます。
同時に、熱というのはPMの知ったこと・感じたこと、そして裏側の思考プロセスを経て醸成されるものです。
その裏側が伝わらなければ、仮説が良さそうだということも、そして熱も伝わらなくなってしまいます。
裏を返すと、”熱”を伝えるとは、その裏側を伝えて、自分が仮説にたどり着いたプロセスを相手に追体験してもらう、そして、脳内に”熱”を再現してもらうことなんだと思います。
だからこそ、相手の追体験を促すコミュニケーションフォーマットとして、想像を喚起しやすいストーリーというフォーマットが良いのではないかと思うのです。
次のパートでは、どうやってストーリーで”熱”を伝えるか、その考え方や具体的なTipsを紹介したいと思います。 ストーリーとは、断片的な情報が意味をもって繋がりあった結果の、文脈をもつ情報群のことで、聞き手の想像を喚起するコミュニケーションフォーマットです。
例えば、「結婚を意識して同棲しはじめたカップル」と「都市部では子供の受験戦争が激化していて教育費が高騰している」と「クレジットカードの家族カードは婚姻関係がないと発行できない」という断片的な情報があったとき。
それぞれが繋がり合うと…
「あるところに、結婚を意識して同棲しはじめたカップルAさんとBさんがいます。最近ニュースで、将来の子育て・教育費にお金がかかるという話を聞き、不安を感じています。だから、早めにふたりのお金を管理して貯金していきたいのですが、クレジットカードの家族カードは結婚していないので作れないため、現金などで煩雑な管理をしないとふたりのお金として管理できず、困っています」
という課題があるという文脈がうまれ、ストーリーとして理解できるようになります。
そして、途端に「その課題なんか課題としてありそう」と思えるようになりませんか?
一方で、ストーリー仕立てで説明してといわれても、少し難しい印象もありますよね。 このストーリーというフォーマットを使いこなすためのポイントは型と感情移入と具体です。順に説明していきます。 ストーリーには型があると言われています。その型に合わせて整理することで、”熱”を持つに至ったストーリーを捉えやすくなります。
天地人や起承転結など、一度は耳にしたこともあるのではないでしょうか? どんな主人公がいて、どんな状況に置かれていて、どう展開し、どんな課題に直面し、それがどう解決されるのかといったようにこれらの型は構成要素で整理されています。
逆にいえば、こうした型に則って伝えることで、ストーリーとして伝えることが可能になるのです。 スマートバンクにはThinkN1シートというものがあります。これはユーザーとその課題を明確にし、チーム内で共有するためのドキュメントフォーマットです。
このフォーマットを埋めることで、自然とストーリーの型を満たすことができ、チームに共有する際にストーリーとして伝えることができます。
下のブログが公開されているので、詳しく知りたい方はぜひチェックしてみてください。
少し脱線ですが、こうしてまとまった情報を伝える際にもポイントがあります。
それはストーリーなのだから、ストーリーとして伝えようということです。
業務連絡的に、淡々と伝えてしまっては、せっかくのストーリーを通じて”熱”を伝えることはできません。 ”熱”を伝えるためには、多少演技するくらいの気持ちで、話ぶりも含めてストーリーとして伝えることが重要です。 さて、ストーリーとしての構成要素があるという話をしましたが、どんな粒度で、どう整理するかを考える上で、目指すべき水準感のポイントがあります。
それは仮説ストーリーの登場人物、すなわちターゲットユーザーに感情移入してもらえるようにしようということです。 そもそも、感情移入と共感は似たような言葉ではありますが、厳密には意味合いがことなります。
共感は、対象者と自分が異なる存在としてその感情・心情を「理解」するということです。 感情移入は、自分を対象者に投影した上で、対象者の目線で感情・心情を捉えるということです。
例えば…
「関東郊外に住む共働きの夫婦、保育園に通う子供の将来のために教育資金を貯めていきたい妻は夫を巻き込みたいものの、夫はあまり自分のお金の使い方をオープンにしたくなさそうで、どうしたら良いか悩んでいる」という話があったときに、共感できる人と感情移入までできる人はわかれるのではないでしょうか?
なぜなら、自分と対象者が遠い存在であるほど、その心情を想像することしかできず、近いければより自分の感覚でその心情を理解しやすいからです。
感情移入ができると、より自分の中の論理で理解できるようになり、よりターゲットの課題やその解決に対して情緒的・直感的に捉えられやすくなります。
でも、それってどうやるんでしょうか?
必ずしもチームメンバーがターゲットに近い属性の人とは限らず、むしろそうでないことの方が多いのではないでしょうか?
感情移入するレベルで捉えるためには、ターゲットユーザーを取り巻く環境や心理が動く瞬間を情景的に想像できる必要があります。
逆にいうと、それができれば、ある程度自分の感覚との共通点や生々しい感触を掴みやすくなります。
具体での仮説ストーリーをチームに共有するための考え方やアプローチを紹介したいと思います。
どのくらい具体的か?、それは聞いた人が「脳内でその情景を再生できるレベルで」です。
目を閉じて、自分が映画館のちょうど真ん中の席に座っているのを想像してみてください。右手には塩バター味のポップコーンとコカコーラMサイズがドリンクホルダーに入っています。
スクリーンを見たときに、映画のように、ユーザーの日常を再生してみてください。そのくらいありありと情景を想像できるように伝えられることが必要です。
そのくらい情景をチームに伝えるためには、まず、そもそも自分がとらえている必要があります。
情景を深く聞き出すためのポイントは、「より周辺を」と「より前後を」です。
ユーザーを取り巻く周囲の環境や状況を、ともすると本題には関係なさそうなことまで、幅広く聞き出すということです。
そして、課題を感じるシチュエーションだけでなく、時間軸的にそれ以前のことやその課題を感じた以後のことを引き出すということです。
インタビューなどを通じて一つの重要なエピソードをふかぼる場合に、そういった深さで聞き出すことで、情景として想像できるレベルで具体を把握することができます。
一方で、具体的なものを伝えいようとすると、どうしても情報量が多くなって、逆に伝わりづらくなってしまいます。 それを避けるためにも、絶妙な一般化をしたストーリーとして残していくことが重要です。
ほどよく具体で、ほどよく抽象的で、一般化されたストーリー…
まあ、とはいってもめちゃくちゃ難しいと思います。
端的でありつつ、ユーザーの生々しい感覚が伝えるために、どこを切り取って、どんなキーワードにするかというのは、PM自身の高い言葉選び能力が必要ではないかと最近は痛感しています。
ただ、そうとはいえ、今日は少しでも上手な一般化をするためのポイントを紹介したいと思います。
2つポイントを挙げると…
一つ目はたくさんの人の話を聞く中で、頻出するユーザーの言動に注目することです。
とくに心理的な部分での共通点が重要で、ほとんど同じ言葉遣いで出てくるものに出会えると最高です。そういった言葉はそのまま一般化のキーワードとして使うことができます。
そして、もう一つは「人間らいしな」と感じる言動からキーワードを抽出してみることです。
人間味あふれる言動には、人間の情緒が表れており、ただの言動ではなく、そのユーザーの心理を生々しく捉えられる言動であることが多いです。 いやーでも、良い塩梅での一般化は難しいです…
ここまで、PMがいい感じにストーリーにまとめましょうという話をしてきましたが、最初からストーリーとして仕上がらなくても、チームで同じものをみて一緒にストーリーに落とし込むという方法もあります。
スマートバンクでは定期的にプロダクトチーム全員で一緒にインタビュー動画を見る会というのを行います。
見て、感想を言ってというプロセスを経て、一緒にストーリーをつくると、その過程で自然と”熱”を共有していける感触があります。
さて、PMの仮説に対する熱を共有する方法についてお話ししてきましたが、そもそもPM自身が熱を持てていないと、伝わるものも伝わりません。
最後に、どうしたら熱を持てるのかについてお話ししたいと思います。
みなさんは、今持っている仮説に熱を持てていますか?
大きいものから、小さいものまで、いろんな仮説を持ちながら、日々プロダクトマネージャーとして働かれていると思います。
熱を持てない仮説なら、やめた方が良いのではと思います。
ここまで伝える方法についてお話ししてきたことを、逆に捉えると、
熱がもてない仮説とは、
- ストーリーが存在しない仮説であり、
- すなわちPM自身がユーザーを解像度高く捉えきれていなかったり、
- その課題に対して感情移入できていない
ということかもしれません。
そんな仮説、はたして筋が良いものなんでしょうか?
チームを突き動かすほどの熱を共有するためには、そもそもPMが熱狂しなければ始まらないと思います。
なんなら、その熱狂した姿があれば、より効果的に熱はチームに伝播していきます。
自分が情緒的にも、その仮説がいけると思うためには、まずN1にしっかり向き合うことが重要だと思います。
1人の人間として向き合い、その感情の機微にまで向き合うことで、解決したいと思える課題やワクワクできる解決策を見つけられると思います。
最後にまとめです。
熱が共有できているチームは、プロダクトづくりにおける仮説検証の山あり谷ありを乗り越えていける強い原動力を持てるようになります。
そして、熱は「これ熱いよね」と説明することでは伝わらず、PMが仮説に至った裏側をストーリーとして伝えることで、相手のなかに再現してもらい伝播していくことができます。
ストーリーに落とし込むためには、ストーリーの型を活用し、聞いた人がユーザーに感情移入できるように、情景的具体的にストーリーとしてつたえることがポイントです。
最後に、まさに私自身も、答えのない価値づくりに向き合っています。 本当に日々不安で心配です…それはチームメンバーも同じでしょう。
そんななかで一歩一歩チームが進んでいくことが、よいプロダクトづくりをするためには重要です。
だからこそ、その一歩を踏み出す勇気になるのが、仮説に対する熱ですし、
その熱がプロダクトづくりという冒険を導く松明となるように、PMが火をつけるのが大事なのではないかと思います。
今日の話は以上となります。最後に告知です。
スマートバンクでは、個人のお金の悩みを解決することで、より良い人生に貢献できるようなプロダクトをつくっています。 先日資金調達を発表させていただきましたが、まさにこれから大きな一歩を歩もうとしているタイミングです。 プロダクトマネージャーを絶賛募集中ですので、ご興味ある方は気軽にお声掛けください。