Plankton Staff Diary

プランクトンのスタッフ日記

二眼レフ

2010å¹´05月16æ—¥ | Pagy
まずテーブルの上に置いてじっくりと眺める。
次に、茶道の茶椀を愛でるのと同じように、大事に手にとってみる。
持ち重りのある重量感が頼もしい。
金属の冷たい感触も、精密な機器としての信頼感に溢れている。
前面には深淵な色のレンズが縦に二個並んでいる。
その眼はあたかも精神の奥深い底まで見通せそうだ。
上部は蝶番で開閉できる蓋状になっている。
上蓋の直下、本体前面上部に冠してある"ROLLEIFLEX"の文字が誇らしげだ。
ドイツのフランケ&ハイデッケ社、1958年製である。

おもむろに上蓋を開けてみる。
側面が折りたたみ式の薄く黒い金属製の囲いが、まるで飛び出す絵本のように立ち上がってくる。
真上から覗いて見る。
その金属製の囲いの底には磨りガラスのファインダーがあり、そこに目の前の光景がぼんやりと浮かんでいる。
まだピントは合っていない。
本体左側面にある円形のノブを回してみる。
するとノブに連動して、上下二個のレンズが同時に繰り出される。
上のレンズはファインダーへ、下のレンズはフィルムへそれぞれ光を届ける。
ファインダーの像がだんだんと輪郭をもってくる。
さらにノブを回す。
ピントが完全に合焦し、ファインダーに光景が結像する。
しばしその凛とした美しさに見惚れる。

一旦囲いを折りたたみ、上蓋を閉める。
こんどは底部にあるレバーを回しロックを外す。
そしてそのレバーを引くと、底部から背面にかけて大きく開口する。
隠れていた内蔵部が眼前にさらされる。
しかし中は意外と伽藍堂だ。
内部は内面反射を押さえるためにすべて真黒に塗られている。
光を閉じこめる宇宙のブラックホールのように、そこは神秘的で静謐な空間だ。
ブローニーフィルムという紙巻きフィルムを、細心の注意を払い装填する。
フィルムにズレや弛みがないか確認しつつ、開口部を閉じ元通りレバーをロックする。
そして本体右側面に格納されているクランクハンドルを引き出し、グルグルと数回止まるまで回し、一齣目までフィルムを送る。
何かそれは厳粛な儀式のようでもある。

リビングのテーブル上の花瓶を撮ることにする。
ふたたび上部の蓋を開け、上からファインダーを覗く。
デジカメの横長液晶画面にくらべ、正方形のファインダーが目にすこぶる新鮮に感じる。
レンズ基部にあるつまみを回してシャッタースピードを決める。
125分の1秒に設定する。
次に反対側にあるつまみを回して絞り値を決める。
F5.6に設定する。
露出は全て自分で設定しなければならない。
バランスを整え構図を決める。
二眼レフは像が左右逆にファインダーに映るので慣れが必要だ。
注意深くピントを合わせる。
磨りガラスのファインダーに現れた花瓶は、さながら四角い1枚の絵画のようだ。
まるで花瓶の精巧なミニチュアが、カメラ本体の中にあるかのように浮かび上がっている。
レンズ右下部にシャッターボタンがある。
両手で本体を包み込むように持ち、右手人差し指をそっとシャッターボタンに掛ける。
ぶれないように息を止め、慎重に、そして慈しむようにシャッターを切る。

カチッという優しく控えめな音とともに、花瓶はブローニーフィルムに定着された。


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