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大人は一種類じゃない。 文具の新潮流
・新しい大人向け文具シリーズの登場
 一般的な文具、いわゆる事務用品に新しい変化が起こっている。
 これまで文具店で売られている商品のバリエーション化には、中高生向け/子供向けを意識したものが大きく目に付き、成人向けはロングセラー商品を中心とする一般事務用がほとんどだった。
 ところが、昨今コクヨが10月に出した「KOKUYO ME」、トンボ鉛筆が6月に出した「スモーキーカラーライン」などは、成人層がターゲットになっている。 
 また、ペンなどは昔から持つ人の個性の表れる場所としてバリエーションが多かったが、個性を強く出した高級なペンと普及品の間の中間の価格帯で、よりマテリアルやカラーのバリエーションが増えている。

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 トンボ鉛筆の「スモーキーカラーライン」。モノブランド、ピットブランの色違い。その名の通り少しくすんだグレー調のカラーで統一。 www.tombow.com

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 KOKUYO ME。ノート、大型付箋、ペン、ファイルなど16品目に、男女差のないユニセックスカラー「TOFU WHITE」「GRAYISH BLACK」「SMOKY SKY」「GOLDEN GREEN」「SHELL PINK」「CHIC PLUM」のくすみのある色から強い色合いまで6種の色展開。疑似エンボスやカッパー(銅色)をアクセントに、普及品とは違う質感を見せている。www.kokuyo-st.co.jp/stationery/me/


 これまでこうしたファッション性のある文具がなかったわけではない。家具や雑貨も扱うライフスタイルショップなどで、外国製や外国製風な色調の文具などは頻繁に目にする。ただ、値段が高かったり限定的なショップでのみ購入可能できるもので、コクヨやトンボ鉛筆といった国内大手メーカーの製品とは違う、という認識ではあった。
 これらはあくまで雑貨であって、オフィス文具、つまり真面目さの求められるものとしてはやや過剰な主張に見えたり、恒常的な購入や品質の安定が求められるものとしては少し物足りなかったように思える。

 そんな中、大手メーカーがファッション性のある大人向けの文具シリーズに乗り出したというのは興味深い。実際、そうそう簡単な事ではない。KOKUYO ME、スモーキーカラーライン共、消しゴムや糊、ペンというように紙やプラスチックの異素材でのカラーバリエーションとなる。大手の場合、素材が異なれば作る工場も異なるため、微妙なニュアンスの色合いを揃えるには、幾度となく試作や色合わせを行う必要がある。それ以前にすでにある工場のラインに変化を加えたり、新しいかつ少量でも対応できるような印刷や成型の機械(の導入)が求められる。
 そのハードルを越えても新しいブランドを出した背景にはどんな理由があるのだろうか。

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・大人が変わった?

 スモーキーカラーラインでは「女性や女子学生」と大人を視野に入れた層を対象、KOKUYO MEではさらに細かくミレニアル世代(1981〜1996年生)、ゼニアル世代(1977〜1985年生まれ)を対象としている。
 ミレニアル・ゼニアル世代は年齢にして20代半ばから40代半ば、と20年の幅があるがこれほど大きな幅に共通点はあるのだろうか。KOKUYO MEを出しているコクヨに話を聞いた。

「KOKUYO MEは多彩な商品カテゴリーをまたいで、様々な色使いや素材、加工を施した商品を「選び」「組み合わせ」て楽しんでいただくことにこだわっています。世代の幅があっても「自分らしさを求める」という点では共通した部分もあると感じています」

 学生を終えて社会人になっても、社会人になって20年を超えても、自分らしさを求める新しい大人はいる、という考え方は多くの人の共感を呼ぶ事だろう。加えて、職場環境の変化もある、とコクヨは言う。

「クールビズの浸透や、オフィス空間自体のカジュアル化の傾向もあり、服装や持ち物についてもカジュアル化が進んでいると思います。リーマンショック以降、文具は企業による共同購入から個人購入への移行が進み、個人の好みがより反映されやすくなったと考えています」

 そう言われてみれば、企業の中でもお堅そうな銀行に行くと、窓口の人の使っている文具が、昔は同じだったのが、最近はペンや計算機など明らかに自分のものだと分かるものを使っていると気付く。
 個人購入での文具であれば、確かに買い手の個性が出て来る。それを許容する職場環境の変化が背景にあるというわけだ。
 服装も制服やスーツだったものが、徐々に自由さを増しているように、服装に合わせたカバンなどの持ち物、さらにはその中に入っている文具も個性を出す時代へと入ってきている。

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・さらに今後は?

 気になるのは今後の展開だ。期せずしてコロナ禍による在宅ワークは個人購入をさらに促す事になった。当たり前だが、在宅であれば職場共通を使用する理由はない。より在宅ワークが普及すると思われる今後の日本の仕事環境では、仕事に使う文具もより個別化の道に進んでいく事だろう。
 さらにこのミレニアル・ゼニアル世代も年齢を経て行った際、それに続いて新社会人になっていく層は個別化が普通になっているだろう。また、この世代よりも上の世代も感化され自分に合ったものを求めるようになるのではないだろうか。

 大手企業の細かいバリエーション化は、既存のロングセラー商品を作り続けるよりも難しい。とはいえ、一度消費者のニーズに応えたバリエーション化や選ぶ楽しさが与えられた場合、消費者はその選ぶ楽しさが失われると物足りなさを感じてしまう。これに応えるメーカー側の体力と、細分化した少量生産でも可能な機械の開発が求められる。
 これは私の推測だが、後者の機械の開発はさほど難しい事ではないように思える。恐らく今後焦点となってくるのは、ファッション業界のように敏感にトレンド情報を収集、商品に反映させるメーカーの在り方だろう。

by dezagen | 2020-06-19 19:14 | プロダクト・パッケージ
『これ、誰がデザインしたの? 続(2)』
渡部千春著、デザインの現場編集部編
美術出版社刊
04年以降の連載記事をまとめた2冊目の書籍。連載で紹介したアイテムのほか、名作ロゴやパッケージ、デザインケータイなどを紹介。
 
これ、誰が書いているの?
 
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