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「ぼっち・ざ・ろっく!」の感動がハイレゾで蘇る! 昨年10月期注目アニソン
2023年1月10日 08:00
昨年のハイレゾ周りのトピックを振り返ってみると、この企画とは切っても切れない、ハイレゾサブスクの一つであったmora qualitasのサービス終了(2022年3月末)は個人的に強く印象に残っている。Amazon Music Unlimitedは、対応オーディオ機器の広がりが乏しかったが、ITF NET-AUDIOの登場(実用化)によって、今後の展開に期待が集まっている。
e-onkyo musicと事業提携をはじめたQobuzは、両者のライブラリを活用したストリーミングサービスを準備しているという。そして、Apple Musicは昨年10月にわずかに値上げを行ない、時代の荒波の厳しさを痛感した。
ハイレゾをより高音質で楽しむために、ダウンロード購入を選ぶというのは、まだまだ推していきたい手法ではある。データを手元に残しておけるという安心感はもちろんだが、ダウンロード音源は、その再生方法の違いからはじまり、PCオーディオやネットワークオーディオの音質対策でもこだわり甲斐があって、奥が深く面白い。今、サブスクで聴いている方も、機会があったらぜひともお試しいただきたい。
本企画は、音楽的にも音質的にも注目のアニソンを紹介するもの。さっそく、2022年10月期の注目ソングをみていこう。試聴はもちろん、ダウンロード購入した音源を使用している。
「ぼっち・ざ・ろっく!」5話挿入歌「ギターと孤独と蒼い惑星」(48kHz/24bit)
説明不要な今季一番の話題作。最近のCloverWorks制作のアニメは超ハイクオリティな作品ばかりで、実に興奮させてくれる。本作も緻密な背景を中心とした映像美と、特徴的な崩し絵(?)や実写映像のミックスなど、作り手の尋常ならざる熱量を感じたワンクールだった。
筆者は2003年に上京して早々、インディーズバンドという存在を知ってファンになり、19年経った今でもライブハウスには通っている。下北沢や渋谷などには、20代のバンドファンの自分にとって懐かしいハコがいくつかある。解散してしまったバンドもあるが、好きだったバンド経由で他のバンドを好きになり、またそのバンド経由で……と連鎖的に好みのバンドが増えていくのは、ライブハウスの魅力でもある。
ぼっち・ざ・ろっく!の音楽は、そんな自分が若かりし頃に聴いていた、ギターロックを中心とした音楽シーンに近い懐かしさがあり、カッコいいんだけどどこか未完成な感じとか、好きな音楽を一心不乱に貫いているストイックさが滲み出ていてツボに入りまくりだ。ほとんどの楽曲を編曲している三井律郎氏が、現役のギタリスト&バンドマンである影響は少なくないだろう。
結束バンドのアルバムから、あえて挿入歌を選んだ。ライブ出演を決めるオーディション中、ひとりがこのメンバーと一緒にバンドをやる理由を見出すシーンがとても胸熱で、何度もリピート再生した。編曲を担当したakkin氏は、下北沢でよくライブをしていたバンドマンだったとか。
ハイレゾ版を聴いた。地上波オンエア版で聞いていた頃と別世界のようなライブらしさに感動。Aメロでタムの「ダムダムダム!」という連打音は厚みと密度感があって、テンションが上がる。2番に入るときのブレイクは、一瞬の静寂に響くドラムの残響が息を呑む迫力。喜多役の長谷川育実のボーカルは第5話で「上手すぎる!」と驚いた感動が蘇った。
バンドオケの方は、シンバルのハイハットはきめ細やかに、エレキギターの音は演奏のニュアンスも含めて緻密に再現。キーボードがいないので、音数が少なくなりがちだが、ドラムの音を太めに作っていることもあって、サウンドに厚みはあり物足りなさは一切感じない。
ところで、「48kHz/24bitってCDよりはマシって感じでしょ?」と思っている方はいないだろうか。いろんな意味で完全に否定はしないものの、案外そうでもないと筆者は言いたい。まず、(マスタリングの手法にもよるが)48kHzからCDの44.1kHzへの非整数倍のサンプリング周波数変換は、楽器のディテールを歪ませてデジタル録音臭さを付けてしまう。量子化ビットは、16bitだとなんだか詰まった窮屈なダイナミクスに聞こえがちだが、24bitは伸び伸びと生楽器の躍動が感じられる。試しに、ミックスも良好な女性ボーカルのロックバンドCDを聴いてみたが、いかにも録音物って感じでショボンとした。単体で聴くと悪くないのに、ハイレゾと比べるとその差は歴然である。
- Amazon Music Unlimited:ハイレゾ配信
- Apple Music:CD音質配信
【moraで購入】
【e-onkyo musicで購入】
「虫かぶり姫」ED主題歌「革表紙」(48kHz/24bit)
アイリスNEOから刊行されている同名ライトノベルを原作にしたTVアニメ。
本が好きすぎる公爵令嬢エリアーナと幼少期に運命的な出会いを果たした王太子クリストファー殿下。“本好き令嬢の勘違いラブファンタジー”と銘打っているものの、中盤以降はどう見ても相思相愛な2人を、貴族の勢力争いや国家間を巡る駆け引きなどが邪魔をする王道展開が見ていて微笑ましい。
エリアーナがその博学さと民を思う真摯な気持ちを武器に難題を解決する度、殿下がベタ惚れになっていく過程がムズキュン必至だった。
殿下の隣にいるのはエリアーナ以外あり得ないと、話数を重ねるごとに思わせてくれる展開が最大の魅力だったように思う。女性向け作品らしく、エリアーナの周りには殿下以外にも美男揃いなのに、本人がまったくなびかないのも好印象だった。
EDは、シンガーソングライターの伊東歌詞太郎が担当。編曲は、プロデューサー・作曲家・キーボード奏者など幅広く活動する横山裕章氏。
イントロのピアノのあとに入ってくる美央ストリングスによる弦パートは、おそらくカルテットだと思うのだが、かなり距離が近く感じるオンマイクな音作りだ。リバーブが控えめで、音が生々しく鮮度感が高い。ピアノの左手側の低音域は、ベースがいないこともあってか、かなり下の帯域まで入って(残して)いて、口径の大きいスピーカーやヘッドフォンで鳴らしてあげたい重厚さ。伊東のボーカルは、音域の広さにまず耳を奪われる。やや声の音像が大きい気はするが、オケとの融和に違和感はない。
演奏のダイナミクスは、スタジオその場で聴いているようなリアルさで、何があっても途中で停めたくない気持ちにさせてくれる。96kHz制作なら、もっと空気感や生楽器の柔らかさを出せたと思うので、ちょっともったいないくらい良質なバラードであった。
- Amazon Music Unlimited:CD音質配信
- Apple Music:CD音質配信
【moraで購入】
【e-onkyo musicで購入】
「アキバ冥途戦争」ED主題歌「冥途の子守唄」(96kHz/24bit)
CygamesとP.A.WORKS制作によるオリジナルTVアニメ。
第一話が放送されると、P.A.WORKSのいつものお仕事モノを想像していたアニメファンの動揺の声がネットに多く見られた。方向性がわかった後も、思った以上にハードな任侠ものだったので、毎話毎話どう受けとめていいのか分からないくらい混乱したのは本音だ。
そんな動揺を吹き飛ばすくらい痛快なギャグの数々に爆笑をさせてもらい、切なくも痛々しいドラマには「銃なんてないアキバ」を願う気持ちにいつの間にかシンクロしている自分がいた。萌えはいいけど、暴力はダメ絶対。
EDテーマは、本作のもう一人の主役でもある万年嵐子(CV.佐藤利奈)が歌う任侠映画を思わせるド演歌だ。作詞・作編曲は磯崎健史氏が手掛ける。作曲家の磯崎氏は、ゾンビランドサガなどへの楽曲提供でも活躍している。
OP主題歌「メイド大回転」も一緒に試聴してみた。90年代の音楽シーンを思い起こさせるサビが筆者のようなアラフォーにはビシビシと響く。ハードなダンスミュージックということで音圧は高めだが、音場の広がり感は驚きだ。打ち込みの音が前後左右に乱舞し、まるで真横にスピーカーがあるような広範囲のサウンドを楽しめる。
「冥途の子守唄」は、佐藤利奈の歌いっぷりが面白くてしょうがない名曲。適度にこぶしの入ったボーカルは思わず笑いが込み上げるほどの生々しさ。ブラス隊とドラムのセッション感が尋常ではないレベルだ。管楽器とドラムは一緒に録ったのでは? と思わせるほど。96kHz制作によるハイレゾ版は、時間軸の解像度が高まるため、ライブでミュージシャン同士のタイミングがぴったり合ったあの息を呑むような感覚がより深く味わえる。トランペットの高域の伸び、鮮烈なハイトーンの立ち上がりの鋭さ、肉付きのよい実在感のあるテナーサックス。生楽器の情報量がとても贅沢に耳に降り注ぐ。
- Amazon Music Unlimited:ハイレゾ配信
- Apple Music:CD音質配信
【moraで購入】
【e-onkyo musicで購入】
2022年もアニメ映画が豊作な一年であった。作品数が多く全て劇場に見に行くことはできない筆者だが、年末超弩級の感動作を観賞させていただいた。「かがみの孤城」である。2018年に本屋大賞を受賞したポプラ社刊行の原作を元に、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』や『河童のクゥと夏休み』を手掛けた原恵一監督が紡ぐ、共感必至の青春ストーリー。
ジャンルがファンタジー“ミステリー”ということもあるので、詳しくは述べられないが、とにかく観てほしい。人間の醜い部分と同時に、普遍的な優しさを描かせたら天下一品な監督の作風が2010年の『カラフル』以来、久しぶりに炸裂している。
主題歌のメリーゴーランドは「ドライフラワー」の優里が手掛けており、J-POPにまったく明るくない自分も配信で何度もヘビロテしてしまった。ハイレゾ版が無いことに唇をかみ締めたのは言うまでもない。2023年も劇場アニメを通じた新たな音楽との出逢いに期待が膨らむ。
【使用機材】
- NAS/ネットワークトランスポート「Soundgenic RAHF-S1」SSD 1TB (アイ・オー・データ機器)
- USB-DAC「NEO iDSD」(iFi audio)
- プリメインアンプ「L-505uXII」(ラックスマン)
- スピーカー「RUBICON2」(DALI)
- ポータブルプレーヤー「PLENUE R2」(COWON)/ HPH-MT8(YAMAHA) / IE 400PRO(ゼンハイザー)