[BD]「サマーウォーズ」

田舎の大家族、電脳空間で世界を救う!?
構成力で魅せるテンコ盛りな満腹作


 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

■ 2作品連続の日本アカデミー受賞



サマーウォーズ

(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
価格:10,290円
発売日:2010年3月3日
品番:VPXT-71081
収録時間:約115分(本編)+特典
映像フォーマット:MPEG-4 AVC
ディスク:片面2層本編+特典ディスク
画面サイズ:16:9(ビスタ) 1080p
音声:(1)日本語(リニアPCMステレオ)
    (2)日本語
      (DTS-HD Master Audio 5.1ch)
    (3)日本語
      (ドルビーTrue HD 5.1ch)
    (4)コメンタリ
発売/販売元:バップ

 今回取り上げるのは、5日発表の第33回日本アカデミー賞で、最優秀アニメーション作品賞を受賞したばかりの「サマーウォーズ」。

 手掛けたのは細田守監督。2006年夏に公開され、同年のアニメ関連の映画賞を総なめにした「時をかける少女」の監督であり、「時かけ」は第30回の日本アカデミーで最優秀アニメ作品賞も受賞済み。つまり、細田監督は2作品連続で受賞しており、一昔前は“知る人ぞ知る”監督だったが、もはや名前だけで観客が集まるヒットメーカーになったと言えるだろう。

 細田監督の作品に共通する特長は、頬や首など、キャラクターの体に影が無いこと。アニメに詳しく無く、細田監督の名前を知らない人でも、「サマーウォーズ」の映像を見ると「時かけに似てるな」と感じるのはそのためだ。スタッフ陣もキャラクターデザイン・貞本義行、脚本・奥寺佐渡子など、「時かけ」の主要スタッフが再結集して作られている。

 毎度個人的な話だが、私がこの作品に初めて触れたのは、2009年3月の「東京国際アニメフェア2009」での制作記者発表会。偶然にも、前回紹介した押井守の「宮本武蔵」と同じイベントだ。

 イベントレポートでは固い文章で書いたが、プロモーションビデオを見た率直な感想は、「時かけ」うんぬんではなく、「おお! 普通の人向けに、もう一度“デジモン”をやるのか!」というものだった。

 「時かけ」(DVD版)の買っとけでも書いたが、“デジモン”とは“デジモンアドベンチャー”という子供向けアニメの事。細田監督は劇場版「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム」(2000年)という名作を生み出し、その名をアニメファンに知らしめたという経緯がある。

「東京国際アニメフェア2009」で行なわれた製作発表会には、細田監督と、ヒロイン・夏希役の桜庭ななみさん、健二役の俳優・神木隆之介さん、ゲームが得意な少年・佳主馬役の谷村美月さんに加え、38歳、太めの主婦・陣内役で出演している、「時かけ」で主人公・真琴を演じた仲里依紗さんが登場した(写真左から)
 横着して、以前の買っとけから引用すると、「デジタルワールドに生きる動物(デジモン)と、人間の少年少女がパートナーになって様々な冒険を繰り広げる、というような作品で、映画版ではデジタルデータの敵モンスターが、NTTの交換機に潜入。日本中のネットワークをダウンさせることで、主人公達に反撃の手段すら与えない。そこで少年達はNTTの回線を経由しない衛星携帯電話をパソコンに接続して、そこからネットワークへ。でも、世界中から寄せられた激励メールがネットのトラフィックを圧迫して」というような、「すいません子供向けアニメでしたよね?」という作品になっている。

 面白いのは、ネットワークを掌握して核ミサイルのボタンまで握ったバケモノを倒すため、右往左往する子供達を、デジタルワールドに関心が無い大人達が“ごっこ遊び”程度にしかとらえず、まったく危機感を抱かないというデジタルデバイド的な“対比描写”。また、現実と仮想現実を並行に描く基本部分は、後述する「サマーウォーズ」の設定と良く似ている。

 ただ、いかんせん“デジモン”という段階で、ある程度以上の年齢の人にお勧めしても、観てもらいにくい。そんな悩ましさを抱えていたので、サマーウォーズのプロモを見て「あの作品を、幅広い層が楽しめるようになるかも!?」と、興奮したのだ。だが、蓋を開けてみればこの「サマーウォーズ」、その期待に応える以上に、現代社会の問題も取り入れた、テンコ盛りな力作に仕上がっている。


■ OZを理解できるかどうかが重要

 舞台は現実世界と同じように、ネットワークやPC、携帯電話、携帯ゲーム機が普及した2010年の日本。少し違うのは、それらが“OZ(オズ)”と呼ばれる仮想空間に接続できる事。そこには都市や遊び場、ビジネスの場まで設けられ、人々は自分のアバターを使い、遊びや仕事に活用している。アバター同士が格闘できるバトルフィールド、カジノに加え、仕事面では業務の決済や交通システムなどのインフラ、ライフライン管理までOZを通じて行なわれている。

健二のあこがれの先輩・夏希
(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
 17才の少年・健二は、数学オリンピックの日本代表にあと一歩で選ばれなかったものの、天才的な数学力の持ち主。それ以外は弱気で人付き合いも苦手な普通の少年だ。彼は能力を活かし、“OZ”で保守点検のバイトをしている。そんな高2の夏休み、健二は憧れの先輩・夏希からアルバイトを頼まれる。2人が辿りついたのは、長野にある彼女の田舎。出迎えたのは総勢27人の大家族。夏希の曾祖母・栄は、室町時代から続く戦国一家・陣内(じんのうち)家の当主であり、一族を束ねる大黒柱だ。

大家族が世界の危機に立ち向かう
(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
 栄の誕生日を祝うために集った、個性豊かな「ご親戚」の面々。そこで健二は突然、夏希から「フィアンセのフリをして」と頼まれる。それがアルバイトの内容だったのだ。必死にフィアンセの大役を果たそうとする健二。そんなある夜、彼の携帯に謎の数字が書かれたメールが届く。それが数式だと気付いた彼は、思わず解いて返信してしまう。翌朝、世界は大きく一変。OZのセキュリティが破られ、健二を騙る何者かが、OZを通じて世界を混乱に陥れていたのだ。お尋ね者になった健二。だが、彼を信じる栄は「私たち一家でカタをつけるよ!」と一喝。健二と夏希、そして陣内家の面々は、一致団結して世界の危機に立ち向かうことに……。

 現代の日本とほとんど同じ世界だが、1つだけ違うのが“OZ”と呼ばれる仮想空間が普及し、その世界でのアバターを使って、ネットワークサービスやコミュニケーションを行なうのが一般的という点。現実世界で例えるなら、「セカンドライフ」や、PS3の「Home」、「ai sp@ce」あたりをタイムふろしきでくるんだようなシロモノだ。


OZではスピード感のある格闘や、花札を使ったバトルなどが繰り広げられる
(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

 興味深いのは、携帯電話でメールを送受信したり、通話するにもOZへのログインが必要な事。ネットのアバターは、メールアドレスさえあれば幾らでも作れるような気軽なモノだが、OZのアバターは携帯電話回線やSIMカードに紐付くような、簡単に増やせない貴重なもので、ネットワーク上における“自分自身”と同義語であるという点。だからこそ、インフラ制御のような重要な業務にも使用されると言うわけだ。そして、OZのセキュリティは2,056桁の暗号でガードされている。これは鑑賞前に抑えておきたいポイントだ。

数学が得意な主人公・健二。“得意”というレベルを超えた能力を発揮して、キメる所はキメてくれる
(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
 このような設定だと、主人公は“天才プログラマー”あたりになりそうだが、健二は数学が得意なだけの少年で、世界を救う自信も、技術も、設備も無い。そんな彼を支えるのが、陣内家が誇る“家族”という原始的なネットワーク。むしろ主役は“家族全体”と言ったほうが良い。仮想空間でアバター達が迫力のアクションを繰り広げる一方、操作してるのは携帯の電波が入るかどうかも不安な、長野の山奥の古民家という対比が強烈だ。

 また、OZの混乱だけでなく、、“健二の成長”や“健二と夏希の関係”、“誕生日を控えた陣内家の騒動”、“寡黙な少年・佳主馬の成長”など、様々な物語が折り重なる。なにせ陣内家で総勢27人もいるので、各キャラクターの性格も描き分けなくてはならない。同時に重なるストーリーも展開させ、なおかつ最後に綺麗に収束させる必要がある。それを綺麗にやってのける構成力は見事と言うほかない。全てが収束するラストは、疾走にも似た快感であり、「時かけ」から続く細田監督の持ち味とも言えるだろう。

 映像面では、東京駅から新幹線に乗り、上田電鉄・別所線に乗り換え、バスで家に向かう冒頭だけで絶句していた。普通に見ているとなんでもないシーンだが、駅の雑踏の人々や、バスや電車の揺れ具合など、映画なのだからクオリティが高いのは当然だが「アニメでここまで細かいことやるか」という映像が連続。大家族が集まり、食事するシーンも鬼のように動くので、Blu-rayに払った金額など序盤で頭から消え失せていた。

 繰り返し描かれるのは、コミュニケーションやネットワークの“本質”だ。横文字で書くとIT技術を連想しがちだが、OZと陣内家が対比で描かれる事で、大家族や人脈もネットワークであり、黒電話や手紙も立派なコミュニケーションツールだった事に気付く。中でも“家族”は最も原始的で、強力なネットワークと言えるかもしれない。映画ではその象徴として、皆で一緒に食事をするシーンが頻繁に登場する。

 食卓の崩壊が家庭の崩壊に繋がると叫ばれて久しいが、最近では携帯電話や携帯ゲーム機、PCが子供達を虜にして、そもそも部屋から出てこないなんてケースもある。陣内家のような“一家団欒”は貴重なものになりつつあり、テレビではPCやインターネットが暗いイメージで紹介される事も多い。

 この映画の良い所は、OZと大家族を対比させつつ、優劣は付けず、むしろ互いの似た所、良い所を強調している事だ。考えてみれば、携帯メールやアバター、ネットゲーム、ブログ、Twitterなど、普及しているサービスの大半は“コミュニケーションへの欲求”を原動力にしている。繋がる相手や繋がり方が変化しているだけで、人間の本質が変化したわけではない。そんな“人間への信頼”が、映画全体を包む温かさとなって現れているように感じた。


■ 必見のクライマックスシーン

「時かけ」と同様に、今回も夏の空や入道雲の白さが印象に残る
(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
 映像はノイズ少なめでクリア。青や白の抜けが良く、全体的にコントラストが低めで、夏の日差しの強さを感じさせる「時かけ」と良く似た傾向だ。そんな中に登場する陣内家は、木造の重厚なお屋敷で、欄間や太い木の柱などが濃い色合いで描かれるため、一層重量感が増す。また、長野県・上田市の自然が本当に美しく、聖地巡礼欲をかきたてられる。BDパッケージ内に上田観光コンベンション協会によるロケ地マップまで封入されており、なんかもう至れり尽くせりだ。

 映像的な見所は、無数のアバターが登場するOZでのバトルシーン。OZを混乱させる敵・ラブマシーンとの戦闘の最中、周囲を逃げ惑うアバター達が多数登場するのだが、コマ送りで確認すると、便器のようなものや、パンダのようなものなど、1体1体しっかりとデザインされ、ディテールもキッチリ描写されている事に驚く。

 さらに、蟻の大群のように無数のアバターが登場するクライマックスシーンは圧巻。数が多過ぎて、もはや“黒い霧”だが、近づいて来ると○や□で誤魔化しているのではなく、本当に1つ1つ異なるアバターで構成されている事がわかり、“凄い”を通り越して“恐ろしい”と感じるほど。カリカリにシャープというわけではないが、個々の形状情報はしっかり表示されており、Blu-rayの解像度/ビットレートの凄さを再確認できる。ビットレートは全編を通じて35Mbpsを中心に増減しているようだ。

 音も良い。特に印象に残るのが、セミや鳥の声の繊細な表現だ。古い日本家屋である陣内家は、各部屋の風通しが良いので、外の音が家の中に入ってくる。それを活かし、連続したシーンでも、部屋が異なるとセミの声までの距離が変化する。外に面した縁側では大きく、家の奥では小さくといった塩梅。後半のバトルシーンではウーファを使った空間表現や、音源の移動感も良く、映画ならではの迫力も味わえる。



■ 使い勝手の良い「サマーウォーズ・ナビ」

 特典ディスクの特徴は、BD-Jを使った「サマーウォーズ・ナビ」というナビゲーション機能。効率的に特典を楽しめるもので、再生すると、画面左側の中央に配置された小画面で本編映像がスタート。音声は標準でコメンタリトラックとなり、スタッフ同窓会の音声が流れる。参加者は細田監督、伊藤助監督、作画監督の青山浩行さん、アクション作画監督の西田達三さん。これとは別に、本編ディスクにはキャスト陣が参加したコメンタリが収録されている。特典のコメンタリは、作画やCGなど、作品に関してのよりマニアックなトークが展開する。

 小窓の本編は、最後まで全て収録されており、コメンタリを本編音声に切り替える事も可能。本編に連動する形で、画面右側に絵コンテ、その下に関連するスタッフ、キャストのインタビュー映像が配置。画面一番下のラインには、作品の豆知識が表示されるというインターフェイスになっている。

 これにより、コアな内容のコメンタリを聞きながらもう一度本編を楽しみつつ、右側に気になる絵コンテやインタビューなどが表示されたら、その小画面を選べば、全画面でコンテンツが再生できる。再生終了後はまた、本編+コメンタリに戻るといった使い方ができる。さらに、ポップアップメニューでは、いつでも陣内家の家系図や、アバターとキャラクターの対応表を呼び出す事ができるので便利。

 普通のBD/DVDの特典は、インタビューはインタビュー、メイキングはメイキングと、種類ごとにバラバラになっている事が多いが、「ナビ」では本編を再生しながら枝分かれ的に楽しめるので、いちいち本編のシーンを思い浮かべる必要が無く、頭に入りやすい。「ウォッチメン」のBDを参考に作られたというが、素材が多いアニメに良くマッチするシステムだと感じる。

 特典で面白いのが、アニメ評論家の氷川竜介さんによる「サマーウォーズガイド」。例えば長野に向かう新幹線で、通路を挟んで座る健二と夏希のシーンを見ながら、2人の間にある通路が、2人の関係性(距離)を説明しているといった演出の分析が読める。確かに夏希が健二にバイトの内容を打ち明け、協力を願って手を握るシーンでも、2人の間に柱が描かれており、夏希がその柱を飛び越える事で2人の距離が縮まる。専門家の解説を交えて鑑賞すると、本編をまた違った視点で楽しめるだろう。

 違った見方と言えば、コメンタリも忘れてはならない。監督と作画スタッフが参加しているので、「このシーンは○○さんにお願いした」、「やっぱり○○さんは凄い上手い」など、アニメーターの名前が連発。かなりアニメの知識が無いと置いてけぼりになるが、人物名はともかく「どんなポイントに注目すると、“絵の上手さ”がわかるのか」、「この動かし方で、どんな気持ちを表現しているのか?」など、作画の裏側がわかって非常に面白い。「走るときに手を振るか振らないか」、「座る時に手を付くか付かないか」、説明を聞かないと見逃してしまう一瞬にも、驚くほどこだわりを持って描かれているのがわかるっだろう。

 だからこそ、コメンタリは「打ち上げ」と銘打たれているのに、途中から「ここはこうした方が良かった」などの反省のコメントが多くなり、反省会のような雰囲気になっていくのが面白い。ほかにも、画面を覆い尽くすほど登場するアバターが、1体1体ちゃんと作られている事、どうやってそのバリエーションを生み出したか? など、見逃せない内容が多い。


■ 気になるのはBDの価格設定

 OZの設定や、アバターというシステムへの理解が求められるが、幅広い年代の大家族が、それぞれに頑張る物語であり、大人からお年寄りまで楽しめる作品だ。故郷から離れて1人暮らしをしている人には、より胸に迫るシーンもあるだろう。もしかしたら、Watch読者だと「OZのあのシーンはどういう意味?」と、質問される役回りになりそうなので、その点は注意して欲しい。

 OZを支配する敵・ラブマシーンや、ヒロイン・夏希の立ち位置の弱さ、疑問点の多いOZのシステム面など、細かな不満も無くはないが、作品としての魅力を大きく損なうものではない。個人的に細田監督の作品は、洗練された構成と、文句がつけられない完成度の高さというイメージがあるので、“重箱の隅”レベルのアラが目立つだけだろう。

 とにかく情報量の多い作品なので、繰り返し再生して再発見を楽しむためにも、BD/DVD購入をオススメしたい。画質/音質的には、BD視聴は必須だ。しかし、気になるのはBDが10,290円と、高価な事(通販サイトでは7,500円程度/3月9日現在)。前述のように特典ディスクの完成度は高く、封入特典として、花札セットや背景画集、フィルム・ブックマーク、OZ公式ステッカーなどが色々付いていて満足度は高い。これはこれで良いのだが、普段アニメを見ないような人でも楽しめる作品なので、できれば本編ディスクのみで、5,000円くらいの低価格版BDを用意して欲しかった。

 空想の物語ではあるが、技術的にOZはそれほど未来の話というわけでもない。かつてないほどコミュニケーションの手段が多様化し、情報も氾濫する現在、押し寄せる情報に流されて何をやっているのかわからなくなる時もあるが、その根底にある事の大切さを再確認させてくれる作品だ。同時に、「頑張んなさい、あんたならできるよ」とお婆ちゃんに背中を叩かれた気がして、鑑賞後に背筋がのびる、清々しい気分が味わえた。


●このBD DVDビデオについて
 購入済み
 買いたくなった
 買う気はない

 


前回の「宮本武蔵 -双剣に馳せる夢-」のアンケート結果
総投票数505票
購入済み
42票
8%
買いたくなった
328票
64%
買う気はない
135票
26%

(2010年3月9日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]