『美少女図鑑』はなぜ幻なのか



名前は聞いたことがあっても、その姿はなかなか見れない


そんなフリーペーパーがある。その名を『美少女図鑑』という。毎回だいたい2万部ほど印刷されている。これを東京で配るとなると、いささか量が少ないように思えるが、配布場所は東京じゃない。新潟をはじめとする地方都市がメインなのだ。


にも関わらず配本、すなわち所定のラックに置かれるや否やなくなってしまう。だから幻のフリーペーパーと呼ばれる。裏を返せばそれだけ熱心な読者がついているのだ。そりゃ『美少女図鑑』なんでマニアックな名前がついてるぐらいだから、ちょっとやらしい系のフリーペーパーなんでしょう。だったらマニアが狙っていくのも無理ないじゃん。などと軽々しく考えるなかれ。


このフリペの熱心な読者は女性なのだ。そして『美少女図鑑』に登場するのも女性である。一体、何がどうなっているのか。


そもそも『美少女図鑑』とは、地元の女の子をモデルに、地元のちょっといいスポットで、カッコいい写真を撮って、写真のよさを引き出すようにデザインされたフリペである。ビジュアルのクォリティがとても高いのだ。フリペといえば基本的に広告を集めるための媒体、というか広告で成立する媒体、だから広告以外の誌面はあくまでもオマケに過ぎず、よってクォリティなど考えもしない、のが相場である。


ところが『美少女図鑑』は、その真逆をいった。なぜか。ここからは私の単なる想像に過ぎないが、『美少女図鑑』は初めにお金ありきではスタートしていないと思うのだ。金儲けのためにやったのではなく、まずは志が原点にあったのではないか。第一号が新潟で生まれたことを思えば、この考え方はそうそう間違ってもいないと思う。


では、その「志」とは何だろうか。ひと言で表すなら、自分たちの暮らす街の活性化だろう。これを発行元では「地方都市に美少女を増やそう」ということばで表現している。恐らくは新潟を元気にしたい。そんな思いをもったクリエイターないしはプロデューサーが、この企画を思いついた。だから従来のフリペモデルとはまったく違った発想によって、『美少女図鑑』モデルは組み立てられている。


街を元気にするためのシンボルが、街の美少女である。だから、彼女たちの魅力をフルに引き出した写真を撮りたい。しかも、街にこだわるのだから絵になるスポットを見つけて、そこで写真を撮りたい。まともに考えればコストがかかる。そこでプロデューサー氏が採った策は、若いクリエイターたちの起用だった。


デジカメの普及によって、以前よりはるかに低いコストでカメラマンをめざせる時代だ。カメラマン予備軍はたくさんいる。こうした若くて、それがゆえに発表の場を持たないクリエイターに発表の場を提供する。その代わりギャラはない(もしくは経費のみといったレベルか)。


でも、自分が撮った写真が2万部も印刷されるとなれば、モチベーションはいたく刺激されるだろう。これでカメラマンは確保できる。とはいえ、人物写真をそれなりのクォリティで撮るためには、もう一つ欠かせない要素がある。スタイリングである。


スタイリストは、プロとアマの違いがはっきり出る。しかもヘアースタイリングともなれば、これはプロにしかできない。そこで『美少女図鑑』は、スタイリングにはプロの手を借りた。が、ここがうまいところで,プロとは地元の美容師さんである。


彼らには撮影協力や広告スペースの提供をバータとして提供している。だからフリペ最大の弱点となりがちなビジュアル面で、異色ともいえるクォリティを確保することができた。しかもオマケがついた。協力してくれた美容室や小物ショップの売上が明らかに上がったのだ。


これが素晴らしいと思う。


もしこうした美容室や小物ショップが単に広告を出していたなら、結果はどうなっていたか。広告効果などほとんどなかったのではないか。広告を出す(金を払って枠を買う)のではなく、『美少女図鑑』の志に共鳴したから協力する。その結果が吉と出る。


これが根底に志をもつビジネスの素晴らしい所以だろう。単なるフリペビジネスとは、根本的な発想が異なる。だからお金の流れは似ているようでいて、そのお金の意味が違う。モデルとしてフリペを使ってはいるが、そこに込められている魂がまったく異なるのだ。


この志なら行政だって乗れない話ではないだろう。もちろん全国展開可能である。実際に全国に広がりを見せている。という話が広まってくると二番煎じをやろうとするところが出てくるのだろうけれど、そこがどれだけの志を持っているものか。素晴らしいビジネスの根源には、そのビジネスに賭ける人の思いがある。そんな当たり前のことを確認させてくれる事例だと思う。


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昨日のI/O

In:
『甦る怪物』佐藤優
Out:
N社「インタビュー式営業術」デモ研修


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