筒井康隆一覧

『脳ミソを哲学する』 筒井康隆 – 科学の扉をツツイたら

『脳ミソを哲学する』 筒井康隆・著

salted fish guts (烏賊の塩辛) #7925 (by Nemo's great uncle)
(脳ミソっぽい──イカ)

ホリプロ所属(!)の小説家・筒井康隆さんが、科学者たちと一対一で対談する──という内容です。

「科学者たち」と乱暴にまとめましたが、動物行動学者もいればイカ学者・解剖学者や評論家もいる。いろんなジャンルの人たちが登場します。

インタビュア役の筒井さんを含めた、10 人が 10 人とも一流の聞き手・話し手のため、快適に読めました。「専門家の話」というと、専門用語ばかりが出てきて分かりにくいのでは──という心配はご無用ですよ。

自分が読んだ文庫版は、1995 年に出版された『脳ミソを哲学する [単行本]』が元になっています。対談の内容は、ほぼそのままのハズ。

それにもかかわらず、本書には次の一文が出てきました。

ところで、いま、若者の科学離れということが言われます。

脳ミソを哲学する (講談社プラスアルファ文庫) [文庫]』 p.21

おお、これぞ、最近になって言われている、「若者の○○離れ」ではないですか! なんという、時代を先取りした書籍でしょう……!

ということではなく──、これはただ単に、

マスコミは、いつまでも同じことを言っている

と受け取るべきでしょう。やれやれだぜ……。

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『七瀬ふたたび』 筒井康隆 – 超能力者たちの行く末は

『七瀬ふたたび』

生まれつきのテレパス(人の心を読む超能力者)、火田七瀬(ひだ ななせ)が主人公の第二作目です。

七瀬ふたたび – Wikipedia

「七瀬三部作」は、主人公が七瀬であることは共通なのに、一作ごとに彼女の性格や作品全体の雰囲気が異なるのが、面白いです。

一作目がどろどろした家族ドラマで、三作目がいきなり宇宙にまで大風呂敷を広げた SF でした。

一作目の七瀬はあまり特徴がない(ように努めていた)お手伝いさんだったのが、本作ではそれがどんな美人コンテストであっても、三位以下になることは滅多にない程度の美人(p.12)であることを自覚し始めます。本格的にその容姿を「武器」として使うのは、三作目からですが。

本作は、超能力者の抹殺をもくろむ謎の暗黒組織と、七瀬たち超能力者が戦う、超能力バトル物──というと語弊がありますが、三作の中でも、とくに超能力そのものに焦点を当てた作品になっています。

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七瀬ふたたび (新潮文庫)
筒井 康隆
新潮社 1978-12

エディプスの恋人 (新潮文庫) 家族八景 (新潮文庫) 旅のラゴス (新潮文庫) 富豪刑事 (新潮文庫) 敵 (新潮文庫)

by G-Tools , 2008/08/03

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『家族八景』 家政婦はテレパス

『家族八景』

「七瀬三部作」と呼ばれる三作品の一作目です。自分は、何も知らずに『エディプスの恋人』から先に読んでしまいましたが……。

七瀬は今も『エディプスの恋人』なのか── : 亜細亜ノ蛾

しかし、文体といい雰囲気といい、まったく両者は異なります。──そもそも、筒井康隆作品って、どの作品も似ていないのが凄いですよね。

『家族八景』は、筒井康隆版の『家政婦は見た!』みたいな話(違う)。主人公の火田七瀬(ひだ ななせ)が八軒の家庭に住み込み家政婦として働きに行くのですが、

「家政婦はテレパス(他人の心を読む能力者)」

というワン・アイデアを思いついただけで凄い。

──いや、いまならいくらでも類似作品を見付けることができますが、この作品が初めて刊行されたのは昭和 47 年ですからね。

八つの家庭は、それぞれ「一見普通」。しかし、そこにテレパスの七瀬が入り込むことによって、図らずも微妙にゆがんだ人間模様が浮かび上がる。次第に壊れていく「普通の(幸せな)家庭」──。

初めのほうでは、七瀬は「十八歳の女の子」なのに、あんまり積極的に口説きに来る男がいない──つまり、「それなりのルックス」でした。しかし、段々と女性らしい容姿になっていく七瀬が、身の危険を感じるようになったり、自分から積極的に家庭を壊そうと目論んだり、最後までドキドキしながら読みました。

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家族八景
筒井 康隆
新潮社 1975-02
楽天ブックス: 家族八景改版

七瀬ふたたび エディプスの恋人 パプリカ (新潮文庫) 笑うな 時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)

by G-Tools , 2007/09/26

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『パプリカ』 アニメ映画らしい「悪夢のパレード」の映像

『パプリカ』

パプリカ - オフィシャルサイトパプリカ – オフィシャルサイト

パプリカ (アニメ映画) – Wikipedia

原作の小説版を読んでから、楽しみにしていたアニメ映画です。ちょっと前に見たのですが、感想を書くのが遅れました。

『パプリカ』 筒井康隆・著 女の美しさと男の幼稚さ : 亜細亜ノ蛾

まぁ、とてもじゃないけど、原作そのままを映像化するというのは無理、というのはツツイストならずともわかるはず。

ということで、この映画の見方は、

「『パーフェクト・ブルー』や『千年女優』の監督が、どんな『パプリカ』料理を見せてくれるか」

──ですね。監督の今敏氏も原作者の筒井康隆氏も、超重要人物の声優として出演しているのも見逃せません(聞き逃せません)。

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パプリカ デラックス・ボックス(2枚組)
林原めぐみ 古谷徹 江守徹
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2007-05-23
楽天ブックス: パプリカ デラックス・ボックス

時をかける少女 限定版 鉄コン筋クリート(完全生産限定版) パプリカ オリジナルサウンドトラック 秒速5センチメートル 特別限定生産版 DVD-BOX 映像のための音楽~平沢進サウンドトラックの世界

by G-Tools , 2007/09/18

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『残像に口紅を』 消えていく、おもいで

『残像に口紅を』

これは凄まじい一冊です。筒井康隆氏の、あまりにも有名な作品なのでご存じの方も多いと思いますが、

「現代人なら言語や記号にさえ感情移入できるようでなければならない」(p.16)

という主張の元に書かれた、「言語そのもの」に感情移入させる小説です。

全 66 章で、1 章ごとに世界から「音(おん)」が1音ずつ消えていく。それと同時に、その音が含まれた対象も存在が消える。小説の中で使える文字も段々と減っていくので、最後のほうは(いつものように)ドタバタとしていきます。

たとえば、第 1 章で「あ」が消えているので、自分(asiamoth)は真っ先に消えているわけです(笑) 「あんパン」や「蟻」、「アイスコーヒー」も当然消えているでしょう。

それでは「あなた」や「愛」はどうなるのか。その疑問は本書の 2 章で説明されているので、そちらをどうぞ。

主人公の佐治勝夫(さじかつお)氏は小説家で、明らかに筒井康隆氏本人です。彼の生い立ちを語る場面は必見ですよ。Wikipedia にも出てこない、生々しい父母の話です。

筒井康隆 – Wikipedia

とにかく、このことを思いつき、一冊の小説として書き上げた、というだけで素晴らしい!

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『文学部唯野教授』 異形の物が棲む大学と謎のヒロイン

『文学部唯野教授』

これは凄まじい一冊です。

タイトル通り、大学教授の唯野(ただの)が主人公。彼が大学に内緒で小説を書いていることや、親友が海外出張費を不正に使用したことが、後になって問題になってくる。大学内の利権争いや、いくつかの事件が絡み合い、最後は(いつものように)ドタバタに──。

というのが大きなあらすじですが、何といっても、話の合間に挿入される「文芸批評論」の講義が圧巻。

唯野が講義を進めて行く場面が、何ページにもわたって書かれています。小説自体が全部で 9 章あり、講義の数も 9 つ。全部通して読むと、批評論についてよくわかる、気がします。

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舞城王太郎 『阿修羅ガール』 残酷な主人公の恋心

『阿修羅ガール』

ちくしょー、また騙された! 舞城王太郎め!(満面の笑みを浮かべながら)。という読後感でした。

減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心。

返せ。

『阿修羅ガール』 p.9

──などという、主人公の可愛らしい(?)独白から始まるので、てっきり、女子高生のほのぼの学園生活物語が始まるのかと油断していたら──背後からいきなり刺された感じ。主人公の周りで、次々と(文字通り)奇想天外な事件が起こるのでした。「先の読めない展開」という使い古された言葉が似合う一作です。

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『パプリカ』 筒井康隆・著 女の美しさと男の幼稚さ

『パプリカ』

今となってはアニメ映画の方が有名になった感がある、『パプリカ』の小説版を読みました。

べつやくメソッドクリエーター (BMCreator)でグラフにして表すと、こんな感じ。

『パプリカ』 小説版 べつやくメソッド , パプリカが強すぎる! , 男どもがコドモすぎる! , 夢の描写がスゴイ! , DCミニが恐ろしい…… , 最後はいつものようにドタバタ

ストーリィや SF 要素については、Amazon.co.jp の書評などに譲るとして(ついでに購入してもらうとして)、今回は主人公の女性について書いてみました。

そういえば DVD が出ますねー(白々しく)。

映画版の公式サイトはこちら。

パプリカ – Paprika –

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面白さで越えられない壁、はてなダイアリー「小鹿」

心の刃物を研ぐ

我が座右の書、何度も紹介している森博嗣のミステリィ工作室から印象的な言葉を引用します。エロチック街道(筒井康隆・著)の書評で、次のように語られています。

他の追随を許さない切れ味があって、こんな作品を読むと、書く意欲を失いますね。(……)

実は、あまり何度も読みたくない作品群です。同じ天才でも、サリンジャーの作品などは、僕が真似できないのはもちろんですが、そこからエッセンスをいただいて刃物を研ぐことができます。でも、この本はそういう風にあやかることすらできなくて、危険さえあるのです。おそらく、僕が本当に書きたかったのもこういう世界だからでしょう。

森博嗣のミステリィ工作室(p.153)

「刃物を研ぐ」というのは「心の刃物を研ぐ」の意味です。感性が鈍ってきたときに心を引き締める、ということですね。森博嗣さんにとって、サリンジャーを読むことはプラスになっても、筒井康隆を読むことはマイナスになり得る、と。

──前置きが長くなりましたが、自分にとって「あやかることすらできなくて、危険」なサイトを紹介します。

その名は「子鹿」!

さいきん知った、「子鹿」というサイトが面白いです。


小鹿小鹿

シンプルなデザイン(2007-01-13T22:49:28+09:00 現在)と短い文章が好印象の、日記サイトですね(はてなダイアリーだから当たり前、か)。about ページ を見ると、今日でちょうどユーザー登録から本日までに日記をつけた日数:333日ですね(どこかで聞いたようなフレーズ)(狙っているわけではない)。

初めて読んだ日記は小鹿 – 別にくやしくはなかったで、はてなブックマーク – ネコプロトコルブクマク / 2007年01月11日経由ですね。クスッと笑って(Firefox の)タブを閉じる前に、ふと「まぁ、面白そうだし LDR に登録しておくか」、と。

それがいけなかった。──いや、いけないことはないのですが、過去の日記も読むと──お、面白すぎる。──で、冒頭の森博嗣さんの言葉のような感想になったわけです。自分が「本当に書きたかったのもこういう世界」なんですよね……。

どの記事も「抱腹絶倒! 椅子落ち! 100 ブクマ越え!」──という感じではなくて(失礼)、「日常に潜む、いやむしろ、無理矢理に日常からほじくり出した『クスッ』」を書き連ねる、というスタイル。どの日記を読んでも、どこまでが天然でどこからが計算なのか──。いずれにしても、敵わないです。

ひょっとしたら、人によっては徹底的に面白さが判らないであろうところが、ますます自分好みです。是非ともご自身の目と心で味わってみてください。どこが面白いのか、何故面白いのか、自分に合うかどうかも自己判断で──。


『富豪刑事』(筒井康隆・著) 刑事はキャデラックで登場

小説版

本のタイトル通り、主人公は大富豪でありながら刑事、という神部大介(かんべだいすけ)です。キャデラックとハバナ(葉巻)がトレードマークという、ちょっと他では見たことが無い、特に日本では類を見ないタイプです。

短篇が 4 編収録されていますが、富豪刑事はこの 4 編で完結しているらしく、続編が書かれることは、今のところ無さそうです。しかし、並の作家ならこれだけで 10 冊くらいは本を出せるほど、魅力的な設定とキャラクタが出てきます。

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富豪刑事
筒井 康隆
新潮社 1983-01

パプリカ 七瀬ふたたび 家族八景 エディプスの恋人 笑うな

by G-Tools , 2007/01/04

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