良くも悪くも「素のUbuntu」 今後のモデルにも要注目
ソフトウエア的な面も見ていこう。前述のとおり、NetWalkerのOSはUbuntu 9.04。ARM版で、シャープの手による独自のカスタマイズがされているとはいえ、UbuntuはUbuntuであり、機能カット版ではない。アプリケーションには、Firefoxに電子メールソフト「Thunderbird」、カレンダーソフト「Sunbird」、そしてOfficeスイート「Openoffice.org」といった、Linux系ではおなじみのソフト群が組みこまれており、普通に利用できる。
“素のUbuntu”ということは利点でもある。x86 CPU向けのソフト(バイナリー)をそのまま利用はできないが、ARM用のものはもちろんOK。Linuxの場合、ソフトは「リポジトリ」と呼ばれるソフト置き場からダウンロードして組みこむのが基本なので、そのルールさえ守るならば、CPUの種類などをあまり気にせず、ソフトを組みこんでいける。
またシャープは、NetWalker専用のリポジトリを作り、組みこむ用意をしている、とのことなので、「自分でソフトを探して組みこむ」のも決して難しくはない。ただし、Windowsとはかなりカルチャーが異なるので、多少の勉強は必要になる。
上の画面のように、ランチャー的に見えるホーム画面も用意されているが、これはランチャーではなく、単に「大きめのアイコンを配置したデスクトップ」に過ぎない。Linuxザウルスの時代は、同社オリジナルのランチャーがあったが、そういったオリジナリティーの高いソフトは、NetWalkerには見られない。
ちょっと変わっているのは、「Twitter」へのリンクがアイコンとして配置されているところだろうか。とはいえ、あくまでリンクであり、専用クライアントが組みこまれているわけではなない。Twitterに直接アクセスして利用する。キーボードがあることもあり、「つぶやき」やすいだろう、という配慮だろう。
マウスの代わりにオプティカルポイント
シャープオリジナルのソフトという意味では、ドライバー周りのものが挙げられるだろう。NetWalkerには、キーボードの上にタッチセンサーを使ったクイックスタート・ボタンと、マウス代わりに使う「オプティカルポイント」が組みこまれている。クイックスタート・ボタン右端の「☆」マークは、オプティカルポイントのモード変更に使う。
通常オプティカルポイントは、ノートパソコンのトラックポイントと同様の動作をする。そこで☆マークをタップすると、「スクロールモード」に切り替わる。その状態で指を上下・左右にずらすと、ページがその方向にスクロールする。ウェブやPDFなどの閲覧時に効果的だ。なお、ディスプレーにはタッチセンサーが搭載されており、そちらで操作することも可能だ。
コンパクトですぐに使えて、フル機能のUbuntu+Firefoxが使える、というのがNetWalkerの魅力といっていい。マシンパワーの問題もあり、動作速度は決して速くない。だが「見られないウェブ」もほとんどなく、文書作成能力もパソコンと遜色ない。「パソコンとは違う機器だから」というエクスキューズがいらないのは、Linuxザウルス時代とあきらかに違う。
試作機では、キーのタイプ感がぐらぐらしてあまり感心しなかったが、この点は改良中とのことなので、最終的な評価は製品版でくだしたい。どちらにしろ冒頭で述べたように、机の上に置いて使うより、両の親指で打つのに向いた機器である。
現状では使いこなしにUbuntuの知識が必須であり、Windowsしか知らない人には敷居が高いのも事実だ。しかし、小型・軽量・長時間駆動に魅力を感じる人にはお勧めできる。シャープは今後、継続的にNetWakerブランドの製品を投入していく計画を持っているという。第1弾は「素のUbuntu」であったが、それが最終的にどのような形になっていくか、興味深い。
- オススメする人
- ・かさばらない「ネット端末」を求める人
- ・Windowsのネットブックに物足りなさを感じている人
NetWalkerの主な仕様 | |
---|---|
CPU | Freescale i.MX515 |
メモリー | 512MB |
ディスプレー | 5型ワイド 1024×600ドット |
ストレージ | フラッシュメモリー 4GB |
無線通信機能 | IEEE 802.11b/g |
カードスロット | microSD/SDHCメモリーカードスロット |
インターフェース | USB 2.0、miniUSB 2.0、ヘッドホン出力 |
サイズ | 幅161.4×奥行き108.7×高さ19.7~24.8mm |
質量 | 約409g |
バッテリー駆動時間 | 約10時間 |
OS | Ubuntu 9.04(シャープカスタマイズ版) |
予想実売価格 | 4万5000円前後(9月下旬発売) |
筆者紹介─西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)、「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」(朝日新聞出版)。
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