2025-11-12

俺はヴァンパイア一族末裔だ。といっても、もう血を吸うわけでもないし、日光の下でも多少は歩ける。現代日本じゃ吸血鬼定職について税金を払う時代だ。俺も例外じゃない。

ただ、一つだけどうにも克服できない習性がある。

中華料理が、好きでたまらないのだ。

あの熱気、あの油、そしてニンニク

そう、ニンニクだ。俺たちの一族にとっては最も忌むべき毒。皮膚が焼けるように痛み、喉の奥が焦げるように熱くなる。にもかかわらず、あの香りを嗅いだ瞬間、理性が吹っ飛ぶ。

毎週金曜の夜、仕事帰りに立ち寄るのは駅前の小さな中華料理屋「福龍」。店に入った瞬間、漂うあの香ばしい匂いで胸が震える。

「いつものニンニクチャーハン回鍋肉ね?」

女将の声が聞こえる。俺は苦笑してうなずく。

一口目で舌が痺れる。

二口目で喉が焼ける。

三口目で視界が少し白くなる。

それでも箸は止まらない。痛みと快楽が渦巻く。体の奥から何かが溶け出していくような、危険で甘い感覚。額から汗が滝のように流れ、心臓がドクドクと跳ねるたびに、まるで血が暴れているようだ。

食べ終えるころには、指先が冷え、頭がふらつく。けれども、店を出た瞬間に夜風が肌を撫でると、心のどこかで思う。

今夜も、生きてるな。

そうして俺は、フラフラしながらも笑って帰る。

来週もまた、同じ苦痛快楽を味わうために。

  • つまりニンニクでハイ(灰)になるー!という感覚を楽しんでいるのだな。

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