何の意味も無い検査

■<ストロンチウム>別の2カ所でも検出 横浜市発表 (毎日新聞 - 10月14日)
 横浜市港北区のマンションで放射性ストロンチウムが検出された問題で、市は14日、同区内の別の2カ所でも1キロ当たり最大129ベクレルの放射性ストロンチウムを検出したと発表した。同区大倉山のマンション屋上の堆積(たいせき)物を住民の依頼で「同位体研究所」(同市鶴見区)が測定した結果、1キロ当たり195ベクレル検出されたため、市が改めて同研究所に依頼していた。
 市によると、9月12日に採取していた同区大倉山の道路側溝の堆積物から1キロ当たり129ベクレル、同区新横浜の停止中の噴水の底で乾燥した泥から同59ベクレルが検出された。最初に検出されたマンション屋上の堆積物も改めて測定したが、市は「マンション管理組合の了解を得ていない」として、数値を公表していない。【杉埜水脈】
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この分析結果では、福島原発由来と言う事はできない。

理由は、前回の日記で書いた理由と全く同じ。
http://d.hatena.ne.jp/akatibarati/20111012/1318437469

その要点をもう一度簡単に整理しておくと、

・ストロンチウム89を分析していないし、
・堆積物の分析結果を、これまでの分析結果との比較になんか使えないし、
・濃縮度合いを考えると、過去のフォールアウトから考えられる範囲内

ということ。


ストロンチウム90(半減期29年)はこれまでの核実験フォールアウトでその辺にあるので、分析すれば検出されても不思議じゃない。
だから、最近の放出由来であることを掴むために、半減期50.5日のストロンチウム89を分析する必要があるのに、前回も分析していないし、今回も分析していない。

今回の分析は横浜市のやることだから、手間とお金はかかるけど、ストロンチウム89を判断できる放射化学分析を行って、より正確な判断を行うのかと思っていたら、前回市民が持ち込んだのと同じ民間分析機関に持ち込んで、同じようにストロンチウム89を判別できない分析を行ったとのこと。

これじゃあストロンチウムが出るのは当たり前、というか出るのはやる前から分かってる話で、分析する意味は無いよ。
原発由来かどうかを正確に考えるなら、キチンとしたストロンチウム89の分析を行って判断するべきなのに。
横浜市は、一体何をやっているのだろうか。


それに、今回分析したのも、側溝とか噴水とかの堆積物だし。
そういう場所の堆積物は濃縮されて高い値が出るから、開けた場所のサンプルで分析している、これまでの分析結果と比較なんかできないんだよ。

これまでのフォールアウトの分析結果は15Bq/kg程度、福島の分析結果は77Bq/kgで、横浜の分析結果は59Bq/kgや129Bq/kgだったから、「これは原発由来と考えられる」って、そんなこと言えるもんか。
比べているサンプルが違うんだよ。サンプルが。
そんなもん比べてどうするよ。
横浜市役所には、マトモな科学知識を持つ職員はいないのだろうかねぇ…


で、今回129Bq/kgを出した場所では、セシウムも39000Bq/kg検出されてるみたいだけど。
6〜7月に行われた、横浜市内の庭とか植込みとかの分析結果では、セシウムは130〜400Bq/kg程度だよ。
39000Bq/kgって、明らかに濃縮されているんだよ。
普通の環境ならあり得ないような値なんだよ。

横浜市の一般的な周辺環境のセシウムを、400Bq/kgと高めに見積もった場合でも、39000Bq/kgってのは100倍くらい濃縮されてるんだよ。
普通の環境の場所よりも。

だから、39000Bq/kgの場所でストロンチウムが129Bq/kg検出されましたなんて言っても、100倍くらい濃縮されてると考えられるわけだから、周辺環境ベースで考えると、1.29Bq/kg程度に過ぎないんだよ。
こんなの過去のフォールアウトの15Bq/kgという値からすれば、充分範囲内の値。

ちなみに、この1.29Bq/kgという濃縮度合いを加味したストロンチウムの数字は、前回のマンション屋上で同じように考えた場合の1.2Bq/kgという数字とほぼ一致する。
たまたま一致したのか、それとも横浜の元々の周辺環境がこのくらいなのかは分からんけど、いずれにせよ前回の195Bq/kgも今回の129Bq/kgも、比較になんかとても使えないような値だ。
濃縮されてるんだから。

セシウムの39000Bq/kgという数字を見て、横浜市の職員は疑問を感じなかったのかねぇ。
こりゃとてもじゃないが比較に使えるようなサンプルでは無いと、そう思えなかったのかねぇ。

堆積物をサンプリングして、濃縮度合いも考えずにこれまでの数字と比較しちゃうなんて、とてもじゃないが考えられないような話だ。


横浜に原発由来のストロンチウムが飛んできたかどうか。
それを知りたいなら、公園とかグランドとかの開けた場所の土を取って、キチンとストロンチウム89を分析すればいいだけの話。

何も難しい話じゃ無い。
国がこれまでそうしてきたように、横浜市もそうすりゃいいだけの話。

それが何故か、堆積物をサンプリングして、ストロンチウム89を判別できない分析をして、濃縮度合いも考えずに別の数字と比較する。


まったくもって考えられないような話。
何も知らない一般市民とか、不安を煽りたい市民団体とかがやっちゃうことはあるにしても、(一応県と同格の)横浜市がやっちゃダメだろう。
こんなこと。
こんな分析で原発由来と言えるなら、沖縄でだってフランスでだってアフリカでだって、どこでも原発由来と言えるわい。


もう一度言うけど、こんな分析じゃ原発由来と言う事はできない。
原発由来かどうか考えたいなら、比較できるようなサンプルを取って、キチンとした分析をしろと。
今からでもいいからそうするべきだと。

これで終わりにしちゃったら、横浜市は不安を煽りたい市民団体と同レベルだよ。


最後に、もし幼児がこのストロンチウムが129Bq入りの堆積物を1キログラム食べたとしても、ストロンチウムからの内部被曝は0.0061mSv。
ぜんぜん大した値じゃ無い。と言うかそもそも側溝の堆積物を1キロ食べること自体が考えられない。
もし仮にこの129Bq/kgが全て原発から飛んできたものであったとしても、健康を心配するレベルじゃ無い。



【追記】

たまたま、横浜市の記者会見を聞くことが出来た。
それによると、日本分析センターにストロンチウム89の分析を打診したが、分析が混み合っていてたとえ自治体の要請でも対応できない、と断られたとのこと。
まぁ確かに、これを受け入れることによって、東日本数百市町村のストロンチウム89分析要求が来てしまったら、分析がパンクして、より重要な原発周辺の分析も出来なくなるから、断られるのはやむを得ない結果か。

そんなわけで、横浜市としてもストロンチウム89分析の必要性を認識はしていたみたいだ。
で、そのあたり、ストロンチウム89の分析が出来ないもんかどうかを、文科省と相談するとのこと。

まぁそんなわけで、今回はストロンチウム89の分析が出来なかったので、やむを得ずに取り急ぎ判別の出来ない分析をしてしまったようで、横浜市としても苦しい立場だったのは分かった。
それは分かったが、それだったら、高く出て当然の堆積物ばかりじゃなく、普通の、開けた場所の土壌も分析してみるべきだったろうな。

そうすれば、この堆積物の分析がいかに比較に値しないようなものか、これじゃ原発由来かどうかを考えることが出来ないということを、もっと分かりやすく示すことが出来ただろうに。


それにしても、始めにストロンチウムが出たと言った市民、こうなることを予想していたとしたら、相当な策士だな。
それがきっかけで、横浜市も苦しくなったし、市民の不安も広がったろうし。