PCRの技術的制約
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/13 05:20 UTC 版)
「ポリメラーゼ連鎖反応」の記事における「PCRの技術的制約」の解説
PCRには原理と実際の作業は非常に簡単で、結果を迅速に得ることができ、また非常に感度が高い、といった多くの利点がある。定量PCR(qPCR、quantitative PCR)ではさらに、ターゲットとなったDNA領域の定量化もできる利点がある。一方で、PCRには様々な技術的制約や限界も知られている。 PCRの技術的な制限の1つに、選択的増幅を可能にするプライマーを生成するために、ターゲット領域の配列に関する事前情報が必要なことが挙げられる。すなわち、PCR実施者は通常、プライマーとテンプレートが適切に結合するように、事前にターゲットとなるDNA領域の前後の配列情報を知っておく必要がある。そのため、配列情報が完全に未知のターゲットに対しては、PCRをかけることは原則的に不可能である。また、他のあらゆる酵素と同様であるが、DNAポリメラーゼ自体もDNA合成時にエラーを起こしやすく、生成されるPCR増幅物の配列に変異が生じることがある。さらに、PCRはごく少量のDNAでも増幅できるため、誤って混入したDNAを元に増幅が起きてしまい、曖昧な結果や誤った結果が生じることがある。 このような問題を回避し、PCR条件を最適化するため、多くの手法と手順が開発されている。例えば、サンプルが外来DNAの混入によって汚染されてしまう可能性を最小限に抑えるために、試薬の準備とPCR処理・分析、の各ステップで別々の部屋を利用することで、両者を空間的に分離することが有効である。また、サンプルや試薬の操作には常に使い捨ての新品チューブ類やフィルター付きピペットチップを使用し、作業台や機器は徹底的に洗浄して常にきれいな空間で作業することが有効である。PCR産物の収量を改善して偽産物の形成を回避する上でプライマー設計を見直すこと、バッファーやポリメラーゼ酵素の種類を検討することも、また重要である。バッファーシステムにホルムアミドなどの試薬を添加すると、PCRの特異性と収量が増加する場合がある。プライマー設計を支援するための、理論的なPCR結果のコンピューターシミュレーション(Electronic PCR)も開発されている。
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