阻止能とは? わかりやすく解説

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そし‐のう【阻止能】

読み方:そしのう

電子陽子などの荷電粒子物質中を通過するとき、単位距離当たりに失う平均エネルギー損失


阻止能

【英】:stopping power

荷電粒子物質通過するとき単位距離あたりの平均エネルギー損失量。電子顕微鏡でのエネルギー損失はおもにイオン化電子励起である。は試料温度上昇試料損傷程度計算使われる

説明に「阻止能」が含まれている用語

  • 阻止能

阻止能

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/19 07:52 UTC 版)

放射性崩壊、その結果放出される電離放射線、および検出法の関係を表した図。

核物理学および材料物理学における阻止能(そしのう、: Stopping power)とは、荷電粒子(多くの場合アルファ粒子ベータ粒子)が物質との相互作用によって減速しエネルギーを失う程度を表す量である[1][2]。放射線防護、イオン注入核医学放射線治療粒子線治療などの分野で重要な位置を占める[3]

阻止能の定義とブラッグ曲線

粒子は物質を通過するときにエネルギーを失う。これは荷電粒子であるか非荷電粒子であるかによらないが、以下では主に荷電粒子について考える。ある材料の阻止能 S は移動距離 x 当たりに失うエネルギー E と等しい。

空気中を進む5.49 MeVのアルファ粒子についてのブラッグ曲線

通常、阻止能は飛程英語版(粒子が停止するまでに飛ぶ距離)の終端に近づくにつれて増加し、最大値(ブラッグピーク)に達した直後にエネルギーがゼロに低下する。阻止能を材料深さの関数として表した曲線をブラッグ曲線と呼ぶ。放射線治療ではブラッグ曲線は実用上大きな意味を持っている。

5.49 MeVのアルファ粒子が空気中を飛ぶ間に阻止能が増加して最大値に達する様子を右上図に示す。このエネルギーの値は空気中にわずかに存在する気体状の天然放射性同位体ラドン (222Rn) が放出するアルファ放射に相当する。

阻止能の逆数をエネルギーで積分すると、「連続減速近似(CSDA)」における平均飛程が求められる[5]

アルミニウムに入射したアルミニウムイオンについての電子的・核的阻止能を、イオンの核子当たりエネルギーに対してプロットしたもの。核的阻止能曲線は核子当たり1 keV程度のエネルギーで最大値を取るのが普通である。

ヘルムート・パウルは数多くのターゲット物質と入射イオンについて電子的阻止能の実験値をグラフ化するデータベースを作成した[11]。いくつかの数値テーブルでは精度を決定するためにこのデータベースとの統計的比較が用いられている[12]

核的阻止能とは入射イオンと試料原子との弾性衝突の効果を指す。「核的」という呼び方は核力が関わっているという誤解を招く可能性があるが[13]、イオンがターゲット物質の原子核によって減速されることを意味している。核的阻止能 Fn(E) を計算するには、二原子間斥力のポテンシャルエネルギー E(r) の形が分かっていればよい。右図はアルミニウムに入射したアルミニウムイオンに対する核的および電子的阻止能を示したもので、エネルギーが低い領域を除けば核的阻止は無視できる。入射イオンの質量が増加すると核的阻止の効果も増加する。右図では低エネルギー領域で核的阻止が電子的阻止を上回っているのが、非常に軽いイオンが重い物質の中で減速する場合にはすべての領域で核的阻止が電子的阻止より弱くなる。

検出器の放射線損傷の分野では、線エネルギー付与 (LET) の対極として「非電離エネルギー損失」(NIEL) という用語が使われる[14][15][16]。核的阻止は定義上電子の励起を伴わないため、核反応が起こらないならばNIELと核的阻止能は同一の量だと考えられる。

非相対論的な領域での全阻止能は、これら電子的、核的な項の和 F(E) = Fe(E) + Fn(E) となる。阻止能の半経験的な表式は複数が考案されている。現在もっとも広く用いられているのは、SRIM英語版コードのいくつかのバージョンで採用されている[17]Ziegler、Biersack、Littmark(ZBL)によるモデル[18][19]である。

イオンのエネルギーが非常に高いときには[3]、物質中の電界を通過することで発生する制動放射による放射阻止能も考慮しなければならない[13](全阻止能から放射阻止能を引いた部分は衝突阻止能と呼ばれる)。飛来粒子が電子である場合は常に放射阻止能が重要となる。イオンエネルギーが大きい場合、核反応によるエネルギー損失も起こりうるが、通常そのような過程は阻止能としては考えられない[13]

固体ターゲット物質の表面付近では、核的および電子的な阻止はいずれもスパッタリングを発生させる可能性がある。

固体中の減速プロセス

単一のイオンが固体物質中で減速される過程を表した図。

減速プロセスの開始時にはまだエネルギーが高く、イオンは主に電子的に減速されながらほぼ直線的に進む。イオンが十分に減速すると、原子核との衝突(核的阻止)が起こりやすくなっていって最終的に減速過程を支配する。イオンと衝突して大きな反跳エネルギーを受けた固体原子はその格子位置から弾き出され、物質中でさらなる衝突カスケード英語版を生み出す。金属や半導体にイオン注入を行うときに発生する損傷の主要因は衝突カスケードである。系内に弾き出された原子すべてのエネルギーが弾き出しのしきい値英語版を下回るとそれ以上損傷が発生しなくなり、核的阻止の概念は意味を失う。核的衝突によって物質中の原子に蓄積されるエネルギーの総量は nuclear deposited energy と呼ばれる。

右図のインセットは固体に入射したイオンの飛程の典型的な分布を示している。たとえば、1 MeVのシリコンイオンがシリコン固体中で減速されるとこのような分布になる。一般に1 MeVのイオンの平均飛程はμmの範囲になる。

原子核どうしの距離が非常に縮まったとき発生する斥力は実質的にクーロン相互作用と見なせる。それより距離が遠くなると原子核は電子雲によって互いに遮蔽される。したがって、原子核の間にはたらくクーロン斥力に遮蔽関数 φ(r/a) を掛けることで斥力ポテンシャルを表すことができる。



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