有気音
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/16 04:28 UTC 版)
有気音 | |
---|---|
◌ʰ |
無気音 | |
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◌˭ |
有気音(ゆうきおん)または帯気音(たいきおん)は、破裂音、摩擦音および破擦音において、調音器官の開放より少し遅れて母音の声帯振動が始まる子音。閉鎖の開放後に息の流れる音(破擦音の場合は摩擦音)が聞こえる。対義語は無気音。
表記
国際音声字母では [ʰ] 、X-SAMPAでは [_h] であらわされる。
- 古くは [ʻ] を用いることもあった。
ラテン文字表記では h や '(アポストロフィ)を加えることで表されることがある。
- 例: タイ → Thai、平壌 → P'yŏngyang
また、有声音を音素として持たない言語のラテン文字表記では、有声音の文字で無気音を、無声音の文字で有気音を表すことがある。中国語の漢語拼音、朝鮮語の文化観光部2000年式などを参照。
各言語の例
中国語や朝鮮語などでは、有気音と無気音とが弁別的な対立をなしている。
- 中国語の例
- 有気音: 踏 tà [tʰa]
- 無気音: 大 dà [ta]
タイ語では無声有気音、無声無気音、有声音の3種が弁別的に用いられている。
ヒンディー語、ウルドゥー語など、インド系の多くの言語には、有気音と無気音の対立に加え、有声音と無声音の対立を組み合わせて、同一調音部位で4つの子音を弁別的に用いているが、このうちいわゆる「有声帯気音」は音声学的には息もれ声をともなう有声子音であり、無声の帯気音とは機構が異なる。
- 例: ヒンディー語の軟口蓋音 क [ka], ख [kʰa], ग [ga], घ [gʱa]
古典ギリシア語には破裂音に無声無気音・無声帯気音・有声音の三項対立が存在した。現在では無声帯気音は摩擦音に変化している。
アルメニア語の東部方言には無声無気音・無声帯気音・有声音の三項対立が存在する。西部方言では有声音が無声帯気音に合流し、逆に無声無気音が有声音に変化したため、二項対立になっている。
フランス語には有気音は存在しない。リエゾン、エリジオンを起こさない h aspiré を、「有気(音)の h 」と訳す場合がある(「有音の h 」と呼ぶのが普通)が、音声学でいう有気音とは関係ない。
英語では強勢のある音節頭位の無声破裂音(s に続く場合を除く)が、ドイツ語では無声破裂音すべてが、帯気している。しかし無気音と音韻的に異なる音素ではない。
現代アイスランド語の破裂音には有声音がなく、無声無気音と帯気音の対立がある。母音のあとの位置では前気音(ぜんきおん) [ʰp ʰt ʰk] を有する。
参考文献
- Ladefoged, Peter and Sandra F. Disner (2012) Vowels and Consonants, Wily-Blackwell, 『母音と子音:音声学の世界に踏み出そう』田村幸誠・貞光宮城訳、開拓社、2021年. ISBN 978-4758923514
外部リンク
- 子音
肺臓気流 両唇 唇歯 歯 歯茎 後部歯茎 そり舌 硬口蓋 軟口蓋 口蓋垂 咽頭 声門 破裂 p b (p̪) (b̪) (t̪) (d̪) t d ʈ ɖ c ɟ k ɡ q ɢ ʔ 鼻 (m̥) m ɱ (n̥) n ɳ ɲ ŋ ɴ ふるえ (ʙ̥) ʙ (r̥) r ʀ はじき (ⱱ̟) ⱱ ɾ ɽ (*) (*) 摩擦 ɸ β f v θ ð s z ʃ ʒ ʂ ʐ ç ʝ x ɣ χ ʁ ħ ʕ h ɦ 側面摩擦 ɬ ɮ 接近 (β̞) (ʋ̥) ʋ (ɹ̥) ɹ ɻ j ɰ 側面接近 (l̥) l ɭ ʎ ʟ 非肺臓気流 吸着 ʘ ǀ ǃ ǂ ǁ 入破 ɓ ɗ (ᶑ) ʄ ɠ ʛ 放出 pʼ (t̪ʼ) tʼ kʼ (qʼ) sʼ その他 同時調音 ʍ w ɥ ɕ ʑ ɧ (k͡p) (ɡ͡b) (ŋ͡m) 喉頭蓋音 ʜ ʢ ʡ 舌唇音 (t̼) (d̼) (n̼) (θ̼) (ð̼) その他側面音 ɺ (*) (ɫ) 破擦音 p͡ɸ b͡β p̪͡f b̪͡v t͡θ d͡ð t͡s d͡z t͡ʃ d͡ʒ ʈ͡ʂ ɖ͡ʐ t͡ɕ d͡ʑ c͡ç ɟ͡ʝ k͡x ɡ͡ɣ q͡χ t͡ɬ d͡ɮ ʔ͡h 記号が二つ並んでいるものは、左が無声音、右が有声音。網掛けは調音が不可能と考えられる部分。
丸括弧内はIPA子音表(2005年改訂版)に記載されていないもの。- 国際音声記号 - 子音
有気音
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 16:20 UTC 版)
破裂音および破擦音に母音が続く場合、閉鎖開放から声帯振動の開始までの間に比較的長い気音(息の音)や無声摩擦音を伴うことがあり、これを有気音という。中国語の有気音や朝鮮語激音などでは、無声破裂音と無声破擦音の有気音が音韻体系化されており、上記の「声」より「気」の有無のほうが重要である。英語やドイツ語にも無声破裂音や無声破擦音に有気音があり、日本語の場合も語頭や語気を強めて発音する無声破裂音や無声破擦音が有気音になることがあるが、これらは音韻体系として確立したものではない。無声音だけでなく有声音にも有気音の体系を持つ言語(ヒンディー語など)も少数ながらある。
※この「有気音」の解説は、「子音」の解説の一部です。
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有気音
出典:『Wiktionary』 (2021/08/16 04:18 UTC 版)
名詞
- 《言語学》 破裂音・破擦音のうち、破裂の際に息だけの音(帯気)を伴うもの。たとえば、中国語をピンインで表記する時のbで表される音/p/とpで表される音 /pʰ/、朝鮮語の바 /pa/と파 /pʰa/のうち、後者の/pʰ/(朝鮮語では激音という)にあたる。有気・無気については日本語や英語のように弁別しない言語体系も少なくないが、一方で中国語や朝鮮語のように有気・無気は弁別するが有声音と無声音を弁別しない言語体系や、ヒンディー語のように有気・無気と有声・無声を組み合わせ弁別する言語体系も存在する。
発音(?)
東京アクセント
- ゆ↗うき↘おん
類義語
対義語
関連語
翻訳
「有気音」の例文・使い方・用例・文例
- 音声学における有気音という音
有気音と同じ種類の言葉
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