発表! F1の「2024年10大ニュース」 ~史上最多24戦シーズンの悲喜交々を振り返る~
2024.12.23 デイリーコラムF1史上最多の24戦が組まれた2024年シーズン。3月2日のバーレーンGPで開幕、12月8日のアブダビGPで幕を閉じた9カ月間のうちに、実にさまざまな出来事があった。一年の46%の週末を費やし、世界21カ国を転戦したF1サーカスの悲喜交々(こもごも)を、最高峰レースにおける“10大ニュース”として振り返ってみたい。
(1)19勝から9勝、それでもフェルスタッペンにとっては“ベストシーズン”
2023年はレッドブルが22戦21勝、2024年は“レッドブル以外”のチームが15勝(マクラーレン6勝、フェラーリ5勝、メルセデス4勝)。今年は4チームが1-2フィニッシュを決めた史上初のシーズンとなり、最後まで勝敗がわからないエキサイティングな戦いが数多く見られた。
昨季の19勝から9勝にとどまったマックス・フェルスタッペンにとって、今年はベストシーズンとも呼べる一年。競争力を増した強豪を相手に誰よりも多く勝利し、ランキング2位のランド・ノリスに63点もの大差をつけて4連覇達成。コンストラクターズランキング3位に終わったレッドブルの74.2%ものポイントをたったひとりで稼ぎ出した。彼の獲得した437点は、468点でコンストラクターズランキング4位だったメルセデスに次ぐ大量得点である。
時として強引なドライビングが批判の的となることもあったが、4冠を達成した史上6人目のチャンピオンの強さが際立った一年だったことに異論はないだろう。
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(2)ベアマンにコラピント、若手ドライバーが活躍
第2戦サウジアラビアGPを欠場したカルロス・サインツJr.の代役としてオリバー・ベアマンが急きょGPデビュー。フェラーリでの初陣でいきなり7位入賞、さらに第17戦アゼルバイジャンGPでは出場停止のケビン・マグヌッセンの代わりにハースをドライブし10位1点を献上するなど新人らしからぬ活躍を見せ、来季のハースのシートを見事射止めた。
ウィリアムズは不振のローガン・サージェントに見切りをつけ、第16戦イタリアGPからアルゼンチン人フランコ・コラピントを起用。2戦目のアゼルバイジャンGPでは8位入賞、第19戦アメリカGPでも10位とポイントを稼ぎ、さらに先輩ドライバーにも屈しないずぶとい走りを披露するなどした。
来季はベアマンに加え、アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)、ジャック・ドゥーハン(アルピーヌ)、2024年F2王者ガブリエル・ボルトレート(ザウバー)、さらにアイザック・ハジャー(RB)とフレッシュな顔ぶれがグリッドに並ぶことになる。躍動する若手ドライバーの来季に期待大だ。
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(3)ルノーは歴史あるエンジン開発に終止符、苦戦の真の理由は?
ルノーのワークスチームながらコンストラクターズ選手権6位、トップチームに大きく水をあけられたアルピーヌは、2025年を最後にパワーユニットの独自開発をやめる決断を下し、2026年から「アルピーヌ・メルセデス」として参戦することに。新レギュレーションに合わせた開発コストがリスク要因とされた。
ルノーエンジンといえば、1977年にF1にターボを持ち込んだパイオニアであり、1990年代は「ウィリアムズ・ルノー」として最強エンジンの名をほしいままにした名門ブランドだが、近年はルノー/アルピーヌF1活動の足枷(あしかせ)にもなっていた。
しかし、2005〜2006年以来栄冠から遠ざかるルノーの真の苦戦の理由は、非力なパワーユニットだけではなく、2005年にルノー会長兼CEOとなったカルロス・ゴーンから続く“効率よく(=カネを使わず)勝て”という企業方針にこそあるのではないか。レースごとに対応を迫られる現場と親会社とのギャップが、万年中位という現状につながっているように思えてならない。
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(4)アウディ、F1正式参戦前に株式売却の理由
2026年から正式参戦となるアウディは、今年春にザウバーの株式を100%取得したものの、11月になるとカタールの政府系ファンドと提携し株式の一部を売却することに。フォルクスワーゲングループの経営難で、工場閉鎖など苦渋の選択を迫られているという状況に配慮した決断といわれる。
苦戦したのは今季のザウバーチームも同じ。シーズン終了目前の第23戦カタールGPでようやく得点するもコンストラクターズランキングではダントツのビリ。7月には元ポルシェ&マクラーレンのアンドレアス・ザイドルがCEOを解任され、元フェラーリ代表のマッティア・ビノットの下で立て直し中。満を持してのフォーリングスのF1参戦は、船出前から慌ただしい。
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(5)F1はアンドレッティが嫌い? 11番目のチームは「キャデラック」で決着
F1を統括するFIA(国際自動車連盟)はOK、ただしF1からは「参戦お断り」といわれたアメリカ発の新興チーム「アンドレッティ・キャデラック」。パドックではすこぶる不人気のアンドレッティ(1978年チャンプのマリオではなく、息子のマイケル)がプロジェクトから抜けたことで、大メーカーGMの名の下に「キャデラック」として参戦が認められた。
F1側がこだわったのは、新チームのマーケティングバリュー。興行のもうけをチームで分け合う都合上、パイが拡大しなければ各陣営の実入りは減ることになる。アンドレッティにはその価値がないが、GMだったらもうかりそうだということ。誠に現金な話である。
新チームは2026年からのエントリー、GM製パワーユニットは2028年から。それまではフェラーリからパワーユニット+ギアボックスの供給を受ける。「キャデラック・フェラーリ」という相克するビッグネームの握手に、時代の変化を感じずにはいられない。
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(6)ハース、小松礼雄代表の初年度に躍進、チームはトヨタと提携へ
昨季コンストラクターズランキング最下位だったハースは、小松礼雄がチーム代表に就任した今年ランキング7位に躍進。ニコ・ヒュルケンベルグが予選Q3に11回進出、昨季苦手としていたレースペースも改善されたうえでの立派な結果だった。
そのハースは、10月にトヨタと提携することが発表され、ドライバーを含めたTOYOTA GAZOO Racingからの人的支援や共同開発などに取り組むことが明らかに。ハースは特殊な参戦方法をとっており、シャシーはダラーラ、パワーユニットやギアボックスなど主要コンポーネントはフェラーリから供給を受けている。自前の開発能力に乏しいという欠点を、トヨタのリソースでカバーするというのは理にかなった考えであり、具体的な成果がどう出るか楽しみである。
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(7)どうしたFIA? 続々とスタッフ流出、会長独裁の危機感?
F1を統括するFIA周辺が何かときな臭い。F1のレースディレクターを務めたニールス・ウィティヒをはじめ、広報部長やスポーティングディレクターなどの主要スタッフが次々と退任や解任となり周囲に動揺が広がっている。
2021年からFIA会長を務めるモハメド・ビン・スライエム政権下になってから、F1やドライバーに干渉し問題を起こすことが多くなり、今年はフェルスタッペンが記者会見で不適切な発言をしたことで社会奉仕活動を命じられる“言葉狩り”も見られた。またガバナンスの面でも権力集中が問題視されており、12月のFIA総会では倫理委員会と監査委員会を事実上無力化し、会長と議長に大きな権限を持たせることが決まった。
F1ドライバーによる団体「GPDA」から「ドライバーを大人として扱ってほしい」という異例の書簡が送られたもののFIAは無視を決め込んでいる。権威にのみ基礎づけられた統治には限度がある。求められるべきは対話を通じた透明性ある統括であるはずだが。
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(8)最後の「ハンマータイム」、ハミルトンが12年在籍したメルセデスにお別れ
最終戦アブダビGPのゴール後、メルセデスのレースエンジニア、“ボノ”ことピーター・ボニントンは「時代の終わりだ」と寂しそうに語った。彼の相棒、ルイス・ハミルトンにとってのメルセデス最後のレースは、16番グリッドから最終周にチームメイトのジョージ・ラッセルを抜き4位。チーム代表のトト・ウォルフも「これぞワールドチャンピオンの走り」と称賛していた。
メルセデスでの12シーズンにおけるハミルトンの戦績は246戦84勝、ドライバーズチャンピオンは6回。ポールポジションは彼の持つ最多104回の記録のうちシルバーアローでは78回を数えた。まさに史上最長かつ最強のパートナーシップだった。レース中の踏ん張り時にボノの発する「ハンマータイムだ!」のメッセージは、彼の応援に欠かせないフレーズとなり、ボノやチームのこうした期待に、ハミルトンはいつも応え続けた。
2022年から勝利に見放され苦しんだものの、今年は地元イギリスGP、ベルギーGPと2勝し今もなお健在であることをアピールした。メルセデスのシルバー&ブラックから、来季フェラーリの赤へと衣を変える史上最多105勝ドライバー。われわれも目が慣れるまでしばらく時間がかかりそうである。
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(9)チームリーダーへと成長した角田、惜しくもレッドブル昇格は逃したが……
GP4年目の角田裕毅にとって、今季は速さと安定感を手に入れた一年だった。自身初のドライバーズランキングトップ10入りは惜しくも果たせず、30点で12位。しかし大先輩ダニエル・リカルド(第18戦シンガポールGPまでで12点)、リアム・ローソン(最終戦まで6戦で4点)といずれのチームメイトも上回る活躍で、名実ともにチームリーダーへと成長した。無線交信などで感情的になることもなくなり、コース内外で落ち着いた振る舞いができるようになったのも大きな変化だ。
特筆すべきは予選だ。第21戦サンパウロGPでは雨の中キャリア最高の予選3位を獲得するなど善戦。シーズン平均で11.13位と、アストンマーティンのフェルナンド・アロンソに次ぐ10番目の好成績だった。トップ4チーム8人が上位を占めている実情からすれば中団勢トップクラスであり、マシンの実力やチームの戦略などが影響するレースとは違い、角田の鋭い走りが発揮された結果といっていい。
シーズン終了後の12月18日、2025年もレッドブルをドライブする予定だったセルジオ・ペレスが不振を理由に契約解除となると、その後任にはローソンが選ばれた。中堅トップクラスの角田ではなく、昨季と今季を合わせて11戦しか出場していないローソンが指名されたことに、ファンはもちろんパドック関係者からも驚きの声があがったが、レッドブルのチーム首脳陣や株主らの合議により決まった人事で、ローソンのメンタルの強さ、伸び代がある点が評価されたという。
角田のトップチーム昇格はかなわなかったが、先行きを悲観するのはまだ早い。いまや彼のパフォーマンスは、他のチームすら無視できないレベルにまで到達している。今季の角田ほど、伸び代がまだあることを示したドライバーはいないのだ。5年目のRBで今年以上の活躍を見せれば、ライバルチームも黙ってはいられなくなるはずである。
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(10)大変革の2026年に向けて
今年6月、2026年からのF1新規定の詳細がFIAから発表された。持続可能性とエキサイティングなレースの両立を標榜(ひょうぼう)する新ルールでは、現行型マシンより小型化かつ30kg軽量化し、敏しょうで軽快なマシンが目指される。さらにドラッグは55%、ダウンフォースも30%低減。ストレートでリアウイングの抵抗を減らす「DRS」はなくなり、今度は前後ウイングを可動式とする新たな試みも採用される。
パワーユニットは「MGU-H」が廃止され、運動エネルギーを回生する「MGU-K」のみとなり、その出力は現行の120kWから300kWまで引き上げ、内燃機関である1.6リッターターボとの割合を半々とするなど、F1は大きな変革の時を迎えることになる。
来る2025年は、嵐の前の静けさになるのか? 今季の混戦模様を思い出せば、そんなことはないと断言できるだろう。来シーズンは久々のオーストラリアGPで開幕、3月16日の決勝まで、もう3カ月を切っている。
(文=柄谷悠人)
柄谷 悠人
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