メキシコの街マタモロスは米国との国境にあり、麻薬と殺人が常態化している。全国試験で最下位だったこの街の小学校で13年前に異変が起きる。あるクラスの10人が全国上位0・1%に食い込んだのだ。映画はそんな奇跡を起こした実在の教師の奮闘を描く。
前の学校で「何か」があったのだろう。好きこのんですさんだ小学校にやってきたファレス先生はカリキュラムを無視して、あの手この手で子どもたちの好奇心に火を付ける。そもそも娯楽が少ないから子どもたちの目は輝き始め、先生はその中に才能を見いだしていく。無気力だった校長も協力の手を差し伸べて…。
授業中にも聞こえる銃声や悲鳴、すきま風の吹き込む住居、親に代わって幼い弟の面倒をみる日常-国際映画祭常連のクリストファー・ザラ監督は前向きに動き出した学校の描写の折々に厳しい日常を織り込む。子どもたちの生き生きとした描写が心に染み、「可能性は奪えない」という先生の言葉がそれに重なる。
折れそうになっては、再び輝く子どもたちの目には、何度も泣かされそうになった。先生役に「コーダ あいのうた」のエウヘニオ・デルベス。今回も熱い。【相原斎】
(このコラムの更新は毎週日曜日です)