99U:「私たちは繰り返し行動するものである。それゆえに優秀さは行動ではなく、習慣である」

このアリストテレスの名言は、人は一夜にして成功するものではないことを思い出させてくれます。むしろ日々の鍛錬によって現状から飛躍できるのです。

日常生活において行動を習慣づけるというのはなかなか難しいものです。なぜならこれまで慣れ親しんだ古いやり方に戻ろうとしたり、引っ張られるようなことがたくさん起こるからです。

このように逆走せずに前進するためにも、モチベーションの維持や規律・習慣づくりに関する科学的な研究成果を参考にしながら、行動の習慣化に役立つ実践的な方法を一つずつ見ていきましょう。

1.小さなノルマと大きな目標を立てる

モチベーションにまつわる興味深い研究によって、「抽象的思考が規律を育むのに効果的である」と明らかにされています。「大志を抱く」というのは基本的にとても良い教えであるといえます。罰や褒美によって高められる士気よりは、むしろ自らモチベーションを上げることが、行動を習慣化する上でとても大切です。

また、すぐに達成しがたい大きな目標と、日々の活動の間で、バランスを上手く保つことが大事であると、自己決定理論(Self-determination theory)に関する様々な研究によって解明されています。

すなわち、「小さなノルマと大きな目標」を決めることが大切なのです。目標は、あくまでいつの日か達成したいと思っている夢を大きな構図で描いたもの。そして、ここで言うノルマとは、その大きな夢を実現させるために毎日必ず行う最小限の行動です。ノルマは毎日取り組みやすいもので、日々それを積み重ねて行くことによって描いた目標が達成できるような行いとします。

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作家のネイサン・バリーはこのノルマ理論を使って成功した良い例です。彼の知人が何が何でも毎日必ず1000語の文章を書くように強く勧めてくれたのをきっかけにそれを実践したところ、見事自費で本を3冊出版することに成功し、何千ドルもの売り上げを得ました。

2.一連の行動を習慣にする

普段、日常的に行っていることを基に習慣作りをすると、全く新しく取り組もうとするよりもずっと簡単です。これは「もし・なら計画」という考え方で、時間が来たら必ずその習慣を行うという環境要因を利用したやり方です。普段の予定の中に別の新しい行動を入れ、一連の習慣にしてしまうための実践法としても知られています。

たとえば「家をもっときれいにしておく」のではなく、「家に帰ったらまず着替えて、その後すぐ自分の部屋と書斎とキッチンをきれいにする」というように行動計画を決めます。意志を伴った具体的な行動を実践することで、習慣づける際にうまく行動できることが研究でも明らかになっています。もしあなたが次回「もっと健康的な食事をする」と決めたなら、「(もし)ランチなら、肉と野菜だけ食べる」としてみてはいかがでしょうか。

3.余分な選択肢を排除する

自制心に関しては様々な研究が成されていますが、退屈なものには大きな効用があるということが明らかになっています。バラク・オバマ大統領が「青とグレーのスーツしか着ない」と決めているのもその一例です。オバマ氏はこのように述べています。「できるだけ選択を少なくしたいのです。食べることや着る事に関して色々決めたくありません。なぜなら私には他に決定すべき事項が山ほどあるのですから」

このオバマ氏の考え方は自制心に関する研究によって裏付けられており、選択を繰り返すことで、それがいかに平凡でかつ比較的楽しいことであったとしても、精神的エネルギーが消耗されるということがわかっています。ハーバード・ビジネス・レビューの調査では、もし長い間に渡って決めた規律を守りたければ、人生のあらゆる側面において平凡だと感じることを見つけたら、それらを可能な限り型にはめて行うのが良いとしています。要は毎回の意思決定を極力少なくするのです。

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持続的変化のためにあなたが選んだ行い自体が、結局はその後の環境や予定を変えて行くことになるのです。たとえば、間食を止めたいのなら、まずお菓子を買うのを止めることです。意志の力はここでは必要ありません。毎日似た内容のお弁当を詰めるなど、日々の生活において欠かせない選択を、日課や決まり事とすると、大いなる効果を実感できるはずです。

4.行動過程を計画をする(ただし空想しないこと)

ある行動を習慣にしたいと夢見ている時に、「なぜ生活に変化を起こしたいと思うのか」、その理由をはっきりさせないままのことが良くあります。一見、些細にも思えますが、実はこれが徐々にモチベーションを上げていくためにとても重要なのです。様々な研究で、「結果についての過度な空想は、習慣を確立する際に大きな弊害になる」と、わかっています。

UCLAの研究で、予めいかに心に思い描くかで結果にも差が出ることが判明しました。この研究では被験者に語学を習得することを目標として設定。達成するために必要な過程を含め、事前に可視化するように伝え、観察しました。Aのグループには仕事から帰宅したら毎日勉強するということを可視化させ、Bのグループにはパリでフランス語を話していることを可視化させました。結果としては、Aのグループが着実に成果を出したのだそうです。行動過程の可視化には、以下の二つの理由で効果があるとされています。

  • 計画立案:一連の作業を可視化することは、目標達成に必要な行動に集中するのに役立ちます。
  • 感情面:個別の段階を可視化することで、不安が軽減されます。

5.イヤになる要因を外す

新しい習慣というのはしばしば脆いもの。がんばっている途中で「あー、もうやってられない! 努力の無駄だ」と思わず言ってしまいたくなるような瞬間が誰しも訪れます。ですから、堕落してやめてしまうような根本的な要因を取り除いておくことが大切です。人はなぜ新しい習慣を試みている初期の段階で諦めてしまいがちなのか。

>この現象

は科学的にもさらに検証され続けていますが、良い解決策はあるのでしょうか?

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それにはまず自分が決めた習慣自体と、いったいどの段階で計画が狂い始めたのかをしっかり探り出すことが大切です。この良い例があります。作家で99Uのライターでもあるラミット・セシ氏が自身のジム通いの頻度を上げるために、何が原因で行かなくなったのかを探った行程をこのように伝えています。

イスに座って自分がどうしてジムに行かなくなってしまったのかをあれこれ考えていた時、ふと気づいたのです。クローゼットが寝室とは別の部屋にあるということを。着替える時はいつも寒いところを歩いて行かなくてはならなかったので、それならずっとベッドで横になっていたいと思い、気持ちが萎えてしまっていました。

これに気づいてからは、前の晩に翌日の服と靴を寝室に準備しておくようにしたのです。翌朝、目覚めて起き上がってみると、ジムに行くための服が床に整然と置いてあるではないですか。結果的にはジム通いの率は300%も上がったのです。

問題の原因が見つかったら、前述の「もし・なら計画」も合わせて使ってみるのもいいかもしれません。たとえば「仕事から帰ってくるといつも疲れているからギターを弾けない」といった状況であれば、「もし、帰宅して疲れていたならば、20分間だけ仮眠を取ってからモチベーションを上げるために5分間音楽を聴く」というように、習慣にするための行動の決まり事を作ってしまうのです。

さて、あなたはどうしますか? どのように新しい習慣を生活に取り入れますか?

5 Scientific Ways to Build Habits That Stick|99U

Gregory Ciotti(訳:椎野陽菜)

Photo by Thinkstock/Getty Images.