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2014年11月の記事一覧

東京・霞が関といえば中央省庁やその関連施設が多く、どちらかというとお堅い感じ
の街である。
しかし驚くなかれ、このような場所に我々本好きをワクワクさせる書店さんがある。
書原 霞が関店のことだ。

一見間口の感じだと、それほど広くなさそうに見えるが実はそうではなく、奥行きが
あり、何よりも本の匂いにあふれ、規則性があるかと思えばそうでもなく、乱雑そう
に見えて、実は計算されつくした所も見え、とにかく一日居ても飽きない、本のディ
ズニーランドと言っても良いくらい楽しい場所なのである。

私はPOPなどの拡材と呼ばれる宣伝用の厚紙を駆使して売り場を作っているお店もも
ちろん好きなのだが、ここにはそれがない。いやないのではなく、それぞれの本がそ
の役割も演じているのである。
例えば、水木しげるの本の隣には井上円了の『妖怪学講義』があったり、澁澤のごっ
つい幻想文学の隣にはエルンストやパニッツア全集があったり、『月と六ペンス』の
隣には地球の歩き方シリーズ『タヒチ』があったりと、その陳列がPOP以上に目をひ
くのである。よくぞこんな本見つけてきたなあと思うものもたくさんある。もうそう
なると時間も何も関係なくなり、博物館を巡っているような幸せな気分になれるので
ある。

あとすごいのは文庫棚。そもそも岩波や河出、ちくま、講談社文芸文庫など、
一癖も二癖もあるラインナップが続くが、注目したいのはその配置。一番奥の
趣味の棚の近くにそれらの文庫があるものだから、店頭からの陳列と蔵書の妙に
頭が洗脳されてきてしまい、文庫棚に到達した時の期待感がハンパないのである。
もう表情は緩みっぱなし。密かにニヤけてしまうのだ。棚什器もあたたかみのある
木材を使っていて、かすかに感じる湿度が心地いい。ふと気がつくと文庫を両手で
愛でている自分がいるのである。

もう幸福感いっぱいで何冊か買うべき本を携えながら、レジに行く。
そこでまた衝撃が走る。なんとレジ前に人文思想のコーナーである。
通常、レジ前と言えば衝動買いしやすい手軽な文庫やベストセラーが置かれる場所。
「なんでやねん」とツッコミを入れながらもフーコーを手にとってしばらく躊躇する
のだが、もう心は夢心地。感謝の念で買ってしまうのである。それはスーパーでお会
計をする際にレジ横のお菓子をついついカゴに入れてしまう感覚に似ている。

ある調査によると国民の53%が1ヶ月に1冊くらいしか本を読まないらしい。
ただ今日紹介した書原さんのような本屋さんもある。普段本を読まない人でも、まず
は書店さんの中に入り、店頭にあるたくさんの本の中から一冊を選ぶという楽しみを
味わえば、もう少し国民読書量は違ってくると思う。本屋さんはこんなにも楽しい場
所なのだから。

(営業部・田丸慶)

◎書原 霞が関店
東京都千代田区霞ヶ関3-2-3
霞が関コモンゲート官庁棟アネックス1階
電話:03-3595-8045
http://www.geocities.jp/books_shogen/tenpo.html

(初出:『かわくらメルマガ』vol.53 2014/8/25)
熊本に長崎書店という老舗の書店がある。近年様々な企画で話題になることも
多い書店なので、熊本界隈ご在住の方はご存知の向きも多いかもしれない。

私が以前営業で九州地区を担当をしていた頃、そちらの社長(店長兼務)の長
崎健一さんには大変お世話になった。年が近い先輩ということもあり、なんと
なく気安くて、伺うたびに食事などご一緒させていただいて、長崎書店の今の
こと、熊本の街のこと、商店街の現在など、タメにも刺激にもなる話をたくさ
ん伺ってきた。

長崎書店は、創業1889年(長い社史においては西南戦争の戦火に罹ったり、熊
本大洪水にみまわれたり...参照:長崎書店社史 )。
長崎健一さんは四代目社主ということで、2009年に社長に就任されている。

そう聞くと、なんともいかめしい重厚な様子の書店が連想されそうだが、実際
の長崎書店は小ぶりで、いかにも使い勝手と居心地が良さそうで、適度に洗練
された雰囲気の街の書店である。店内をそぞろ歩くと、各コーナーでは折々の
ちょっとしたフェアや、担当店員さんからのオススメ本や、児童書コーナーの
洒落たディスプレイなど、そこかしこに楽しい(本好きを捕える危険な)ワナ
が仕掛けてあって、ついつい立ち止まってしまう。落ち着いているのに、賑や
かである。空間がさざめきに満ちている。

熊本界隈で活躍する作家、アーティスト、著名人ら本好きが選ぶ文庫100冊フ
ェア「La! Bunko」など、地域を巻き込んだ取り組みで文化発信の静かな中心
地ともなっているようで、全国的にもそのような目立ったアクションを起こし
ている書店はそう多くなく、出版社の者としても長崎書店の動向から目が離せ
ない。(そんな長崎書店も一日にして成ったわけではなく、長崎さんが店を継
ぎ、大リニューアルを行うにあたって参考にし、教えを乞うたのは、福岡の粋
な書店・ブックスキューブリックの大井社長であったとか、書店を巡る物語は
連綿とつづく...)

いま長崎さんは、商店街の同世代経営者の方たち(ほとんど皆幼なじみだとか)
とともに、商店街全体として接客の価値観を共有し、ひとつのブランドを作り
上げていく、というプロジェクトを推進されているそうで
こちらにお写真も。かっこいいな~)、
これまた現代的かつ革新的な取り組みだと思う。

(ファンなので)長崎さんのことばかり述べてしまったが、長崎書店を訪れる
人が今日も安らぎと知的興奮を同時に享受できるのは、スタッフの方々の弛ま
ざる創意工夫と真心ある接客の賜物であることは言うまでもない。

熊本界隈にお住まいの幸福な方々は今日も新しい出会いを求めて訪店していた
だき、遠方ですぐにそれが叶わない方はご旅行の際、ぜひ旅程に加えていただ
けたらと思う。きっと旅の素敵なアクセントになる。

(営業部・小尾友宏)

◎長崎書店
熊本県熊本市中央区上通町6-23 長崎書店ビル 1F
電話:096-353-0555
http://nagasakishoten.otemo-yan.net/

(初出:『かわくらメルマガ』vol.48  2014/6/10)
お暑うございます。焼けるような熱気が列島を覆い尽くしておりますが、こう
いう季節の書店さんは救いの場、暑さに耐えかねてちょっと逃げ込んだつもり
が、あちらを手にとり、こちらに目をやり、気づけば数冊、小脇に抱えてレジ
に並んでいる...なんてご経験も、皆様おありではないでしょうか。夏こそ書店
さんの季節、といっても過言ではありません。

さて、好評いただいております当コーナー、今回担当・片山の遅筆により大変ごぶ
さたしてしまいました。お待ち下さっていた会員の皆様には、心よりお詫び申
し上げます。このたび紹介させていただくのは、東京都内の書店さん、
BOOKS隆文堂さんです。

東都西方、西国分寺。文化の香り高いJR中央線と、近年開発の進むJR武蔵野
線が交わる郊外駅です。ゆるキャラ「にしこくん」のご当地と言った方が、ピ
ンとくる方もいらっしゃるかもしれません。駅のまわりは閑静な住宅地。地域
住民でにぎわう駅前は、20年以上も前からあるショッピング・モールを中心
に商店街が広がり、隆文堂さんのお店も、このモールの中にあります。

エスカレーターで2階へ上がると、まずは新刊台とフェア・コーナー。そこか
ら左手に、エスカレーターをぐるっと取り囲むように、約150坪のお店が広が
っています。雑誌を中心に、児童書・コミックを比較的広めにとり、文庫もた
いへん充実の品揃え。ご近所の主婦、学生、お年寄りでお客さんの絶えない店
内はまさに、古き良き「ザ・街の本屋さん」のたたずまいです。

地元の特集がある雑誌や、地元を題材にした書籍なども精力的に扱っておられ
ます。こちらは雑誌コーナーの一角。中央線は地域柄、地元発行のミニコミ誌
のようなものも多く、他地域の書店さんではなかなかお目にかかれないタイト
ルも並びます。いわば文化の地産地消。沿線住民でなくとも、つい興味をそそ
られます。

もうひとつ、強烈な印象で初めてのお客さんの度肝をぬくのが、エスカレータ
ーの壁面ガラスいっぱいの「にしこくん」。でっかいのなんの。そしてその手
前では、フェア台を埋め尽くす『ブンブンブック にしこくん』(講談社刊)。
レジに近づけば、書籍以外にも携帯ストラップやタオルなど、「にしこくん」
グッズが勢ぞろいです。

実はこれ、隆文堂さんの高橋社長が「にしこくん西国分寺サポーターズクラ
ブ」の会長もつとめておられるのです。「ご当地だから」と率先して応援して
こられた経緯があり、お客さんの中にはこの「にしこくん」を目当てに、遠方
からはるばる訪れる方もいらっしゃるとのこと。ゆるキャラ恐るべし。もちろ
んファンブックは、お店の週間ベスト10にも常連で、たいへん好調な売行の
ご様子です。

「地域密着」にもいろいろな形がありますが、これぞまさにワン&オンリー。
「近所の本屋さん」としてのニーズにきちんと応えながら、「ここでしかでき
ないもの」もビシッ!と打ち出していく姿勢には、地域からも厚い信頼が寄せ
られているように感じます。もしお近くに御用の際はぜひ、ぶらり途中下車さ
れてみてはいかがでしょうか。「にしこくん」のゆる~い笑顔が、訪れる皆様
をお待ちしております。

(営業部・片山郁)

◎BOOKS隆文堂
Twitterアカウント
東京都国分寺市泉町3-35-1 西国分寺LEGA内
JR中央線西国分寺駅南口すぐのビル内
tel: 042-324-7770
営業時間 10:00~22:00 定休なし

(初出:『かわくらメルマガ』vol.21 2013/8/21)