激しい競争社会を生き抜くためのヒント 2016.03.30
1.かつて世界の経営者が目指したもの
入山章栄著 「 世界の経営学者はいま何を考えているのか 」 。
この本は、2013 年にベストセラーになりました。
その中で紹介されているのが ・・・
「 ハイパー・コンペティション (激しい競争) の時代 」 です。
その前に、マイケル・E・ポーター著 「 競争の戦略 」 について、ご紹介します。
1980 年に発行され、ビジネス書の代表作として、世界的な地位を確立 しました。
著名な経営者が、最も多く推薦する図書にも選ばれました。
ただし、私には大変難しく、一部しか読んでいませんが。
その要点を超簡単に説明すると ・・・
① 10 年以上、高い業績を維持することが重要
② ① を実現させるためには、適切な産業を選ぶ ( ポジショニング戦略 1 )
③ ② で選んだ産業の中で、ユニークなポジションを取る ( ポジショニング戦略 2 )
2.「 競争 」 や 「 戦い 」 を避けて 「 勝つ 」 が ベスト
適切な産業を選ぶポイントは、以下の 3 点です。
① 競争が激しくない ② 新規参入が難しい ③ 価格競争が起きにくい
つまり、書名は 「 競争の戦略 」 ですが、中身は 「 競争を避けるための戦略 」。
競争の少ない産業を選んで、その中でユニークなポジションをとる ・・・ これが主旨です。
百戦百勝は善の善なる者にあらず。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。
もし戦えば、自分たちも、無傷では済まないものです。
だから、100 戦して、100 勝するのが、ベストとは言えません。
「 戦わずして相手に負けを自覚させる 」、これがベスト です。
これは、中国古典の 1 つ、孫子の一節です。
もともと戦争用のテキストであり、古くは徳川家康など、戦国武将の教科書 としても利用されました。
今日においては、政治家や経営者のビジネス書として、愛読されています。
両者とも、「 争いや戦い 」 と、「 成功や勝利 」 を区別しています。
3.現代は激しい競争社会
やっと本題です。
ポーターは、「 10 年以上、高い業績を維持することが重要 」と述べました。
ところが、この「 10 年以上 」 の部分が、近年は、極めて難しくなってきました。
「 ハイパー・コンペティション (激しい競争) の時代 」 の特徴の 1 つ です。
米国の 2 人の研究者が、統計値を分析したところ ・・・
① 10 年以上、高い業績を維持する米国企業は、全体の 2 〜 5 %
② さらに、年々、難しくなってきている
③ 長期的な成功に見えたとしても、実は 「 連続する短期的な成功 」 だった
かつては、ヒット曲が 1 つあれば、歌手は、一生、安泰でした。
しかし、近年は競争が激化したせいか、小ヒット曲が、たくさん現れ、すぐに消えていきます。
数十年後まで、記憶に残る曲が、果たしてあるのでしょうか。
このような状況下で、成功を維持するためには、どのような戦略が有効なのでしょうか。
4.「 ホームラン × 1 本 」 から 「 ヒット × 4 本 」 の時代へ
現在の状況を、野球にたとえれば、ホームランが出なくなった ようなものです。
「 飛ばないボール 」 に 「 反発力の弱いバット 」 に、ルールが変わった時代もありました。
どうすれば得点を増やすことができるでしょうか。
それは、単発のヒットを重ねることです。
ただし、ホームラン 1 本の代わりに、単発ヒットを 4 本打ち続ける、必要があります。
ビジネスに話を戻すと、それは 「 積極的に競争行動をとる 」 ことです。
競争行動とは、消費者の目に見えるような、自社製品やサービスの動き。
たとえば、以下のような活動のことです。
① 新製品・新サービスの投入 ・ モデルチェンジ
② 大がかりな販促活動 ( バーゲン・景品 )
③ 大幅な値下げ
④ 特殊な販売方法への変更など
5.競争行動のメリット
ハイパー・コンペティションの時代には、以下の点も、求められます。
① めまぐるしい社会の変化に、対応する
② 嗜好の多様化により、多品目を少量生産する
「 積極的な競争行動 」 は、これらの点でも、有利に働きます。
アベノミクス導入以来、円安でしたが、現在は円高。
中国経済が急成長を続けると思いきや、今後 10 年は立ち直れないと言われています。
変化に注意を払いながら、自社の製品やサービスを、変えていく 必要があります。
さらに、その度に、顧客にうまくアピールすべきです。
また、需要が供給を上回ると ・・・
つまり、モノやサービスがあふれると、消費者が個人的な嗜好を高めます。
ニッチ市場が、無数に存在するような状況が、生まれる訳です。
自社の規模に応じて、複数のニッチ市場をターゲットにする、戦略も考えられます。
6.2 代目社長は要注意
米国の研究者が、競争行動とシェアの関係について、データを統計解析したところ ・・・
より多く、より長く、競争行動を取った企業の方が、シェアが拡大する。
つまり、「 積極的な競争行動が有効 」 という結果が出ました。
まずは、「 ハイパー・コンペティション (激しい競争) の時代 」 を、意識することではないでしょうか。
しかし、競争行動に関心の低い企業も、少なくありません。
特に、経営者が 2 代目以上の中小企業は、危機感に乏しい 傾向が見られます。
事業より社交、事業より社内、事業より家庭、事業より趣味、事業より贅沢。
このような状態では、数年以内に、経営危機を迎えることでしょう。
一方では、若い世代が、下から突き上げてきます。
毎年、新しい社会に適合した若者たちが、大勢、流れ込んできます。
かつて優秀だったとしても、40 代以降は、大いに警戒するのが正解です。
日々の勉強を怠れば、仕事さえ失う恐れがあるでしょう。
7.起業家のチャレンジ精神に学ぶ
① 企業のエグゼクティブは、体系としてのマネジメントの、「 経営管理的な側面 」 に、全面的にコミットしている。
しかし、いまや 「 起業家的な側面 」 に、コミットしなければならない。
② この壮大な転換期において、社会の安定を確実なものとするには、既存の組織が生き残り、繁栄術を学ぶ必要がある。
そのためには、起業家として成功するための方法を、学ばなければならない。
① ② ともに、ドラッカーの言葉です
何を言っているのかと言うと ・・・
経営者はこれまで 「管理」 に重点を置いてきました。
しかし、 変化の激しい今日は、「 起業家的な性格 」 を重視すべき、とのことです。
つまり、安定期の経営者たちと、同じ考え、同じ行動をとっていては、生き残ることができません。
だから 「 起業家 」 として考え、「 起業家 」 として行動することが、求められます。
起業家は、ゼロから事業を立ち上げます。
業界の常識にとらわれることのない、そのチャレンジ精神に学べ ということでしょう。
8.競争を避けるための 「 究極の方法 」
ドラッカーによれば、事業の目的は 「 顧客の創造 」 です。
顧客の創造を実現させる方法は、マーケティングとイノベーション。
この 2 つしかありません。
ビジネス本を読み始めて、この仕組みにたどりつくまで、私は数年を要しました。
マーケティングは、すでに市場にいる顧客を、ターゲットにします。
結果的に、限られた顧客を、同業者間で、奪い合うことになるのではないでしょうか。
一方、イノベーションは、おもに 「 ノン・カスタマー 」 を、ターゲット にします。
市場の外にいる顧客をねらうことにより、市場拡大にもつながります。
マーケティングの方が、はるかに成功の確率が高いのですが ・・・
より上位を目指すため、すさまじい競争に、巻き込まれる恐れもあります。
また、市場の縮小が進むと、競争に勝っても、利益が見込めません。
イノベーションは、オンリー 1 を目指すため、成功すれば一人勝ち の可能性もあります。
9.「 イノベーション 」 は起業家の道具
イノベーションとは起業家に特有の道具であり、変化を機会として利用するための手段である。
これもドラッカーの言葉です。
つまり、起業家はイノベーションを道具に、変化をチャンスとして利用します。
キーワードは 「 イノベーション 」 「 起業家 」 「 特有の道具 」 「 変化 」 「 機会として利用 」。
さらに、マーケティングとイノベーションの違いを、理解するために ・・・
マーケティングが、目指すのは、「 よりよく 」 「 より多く 」。
イノベーションが、目指すのは、「 より新しく 」 「 より異なる 」。
この頭の切り換えが必要です。
イノベーションから生まれた、新製品や新サービスは ・・・
既存の常識で考えると、しばしば 「 変なモノ 」 に、見えてしまいます。
たとえば、回転ずしが出始めた頃、「 あんなものは寿司じゃない 」 と、言われていました。
ところが、既存のすし店の多くを、閉店に追い込み、今ではすっかり定着しました。
10.業界で 「 ユニークなポジション 」 を目指す
著者の入山さんは、ポーターの理論と、近年の理論を総括して、次のように述べています。
積極的な競争行動により、攻めることが重要。
そのためには、業界でユニークなポジショニングをとる こと。
それが、攻めの姿勢をとりやすくする。
つまり、激しい競争社会を生き抜くためには ・・・
ユニークな存在を目指すこと。
すると、競争を避けながら、攻めることが可能になります。
これが 「 競争回避 」 と 「 攻め 」 を、両立させる方法 です。
さらに、競争とは、比較から生まれます。
比較とは、近いレベルから発生するものです。
激しい競争社会において、競争を避け、果敢に攻めながら、幸せに生きるためには ・・・
同質同レベルの人たちと、群れないこと ではないでしょうか。
※参考文献
入山章栄著 「 世界の経営学者はいま何を考えているのか 」
マイケル・E・ポーター著 「 競争の戦略 」
守谷洋著 「 中国古典の名言・名句三百選 」
P.F.ドラッカー著 「 経営の哲学 」 「 変革の哲学 」 「 創造する経営者 」 「 イノベーションと企業家精神 」