2014年は「人を生かす経営」 2013.10.29
1.アベノミクスで 「復活した企業」 と 「低迷する企業」
アベノミクス効果で、日本経済は回復基調にあります。好調な業種と言えば、円安のおかげで 「輸出メーカー」、株高のおかげで 「金融機関」、自民党復活のおかげで 「建設業」。以前なら、このように業種によって好不調が分かれたものです。
しかし近年は同じ業種であっても、好調な企業と不調な企業に分かれるようになりました。原因は毎回、異なりますが、それを推測することによって、その他の企業の業績回復のヒントにもつながるのではないかと考えられます。
あくまで私の所見に過ぎませんが、今回、好調な中小企業に共通するのは、「人を生かしている」 点だと思われます。つまり社長1人の力で成り立っているのではなく、複数の人の知識や経験が生かされている企業ではないでしょうか。
2.なぜ人を生かすことが求められる時代になったのか
その原因を推測してみると、1つは 「顧客の欲求が多様化」 しているため、1人の知識や経験だけでは通用しなくなった。そこで、年齢、性別、性格、好み、年収、人生経験などが異なる者の意見が、必要になってきたからではないでしょうか。
もし社長が非常に優秀で、常に素晴らしいプランを持っていたとしても、異なる意見と比較できれば、社長のプランを違った角度から検証することができます。それはアイデアの発展性やリスク管理の点でも、重要な役割を果たすことでしょう。
もう1つは 「技術革新のスピード化」 。新しい技術には新製品や新サービスに関するヒントが隠されています。しかし高齢になるほど情報収集が遅れるため、特に若い世代の知識や経験が必要になってきたのではないでしょうか。
3.「1人企業」 の問題点
1人企業の場合、特別なリスク対策が必要 と思われます。本人に何かあれば、家族は早期に生活に困ることになります。また取引先にも迷惑をかけます。非常時には同業者と助け合うシステムや、休業時には所得を保障する保険が必要です。
他人に煩わされにくいなど、1人で仕事をするメリットは少なくありません。しかし 「しょせん1人」 ではないでしょうか。けっきょく自分の範囲内から抜け出すことができません。またモチベーションの維持など、自己管理も難しくなります。
仕事とはおおむね同じことの繰り返しです。マンネリ化を避けるためにも、家族でよいから、できる限り複数で仕事 をすることをお勧めします。アルバイトやパートでもよいから、他人を雇えば、より改善されるのではないでしょうか。
4.社長はすべてにおいて優れていなければならないのか?
従業員がいても、すべての面で社長が最も優れている。これは中小企業にありがちなケースですが、誉められた話ではありません。従業員の強み (能力、人間性、経験) が、十分に生かされていないからです。
極端な言い方をすれば、 「経営力」 だけは社長がトップ でなければいけません。それ以外の分野においては、むしろ自分より優れた者に働いてもらう。彼らの力が発揮しやすい環境を作る。これが企業として成長を続ける秘訣だと考えています。
優れた戦国武将には、必ず各分野に自分より優秀な部下がいました。後世に伝わる功績も、実は部下たちのおかげだったと思われます。競争の激しい現代の中小企業も同様、「人を生かすこと」 に、もっと注目すべきではないでしょうか。
5.「ツールを利用する経営」 と 「人を生かす経営」
話は変わりますが、今年は 「経営学」 を広く見渡そうと、入山章栄著 「世界の経営学者はいま何を考えているのか」 を読みました。米国の経営学者の主な研究テーマが書かれており、日本人に人気のあるドラッカーには関心がうすいそうです。
次にドラッカーのマネジメント論をわかりやすく解説した藤田勝利著 「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」 。さらには評価の高い、野中郁次郎・勝見明共著 「イノベーションの本質」 を、遅ればせながら読ませていただきました。
わかったことは、経営を改善する方法には大きく分けて2つある こと。1つは米国の経営学者が研究する 「ツールを利用する方法」。ツールとは○○論、○○戦略、○○規定など。もう1つはドラッカーなど人間に着目した 「人を生かす方法」 。
6.就業規則の内容を変えれば、業績が回復すると思いますか?
業績が悪化すると、早期に改善しようと、経営者が 「ツールを利用する方法」 に走るケースがあります。たとえば就業規則の内容を厳しくする。しかし、これだけで業績が改善することなどありえないというのが、これまでの経験上の感想です。
経営者の意図とは裏腹に、従業員が精神的に不安定になったり、主要な人物が退職してしまうケースさえあります。就業規則はもちろん大切なものです。しかし使い方を誤ると、かえって事態を悪化させるのではないでしょうか。
「ツール」 の前に 「人間」。そこで働く人たちの状態を改善 しなければいけません。なぜ積極的に仕事に取り組まないのか。なぜ成果が挙がらないのか。これらの原因を解明せず、ツールのみで安定した成果に結びつくことはないでしょう。
7.経営とはしょせん人間のするもの
経営とはしょせん人間のするもの。これは、「世界の経営学者はいま何を考えているのか」 の著者、入山章栄さんの言葉です。つまり経営学に精通されている方でさえ、経営には不合理な面が避けられないと述べられています。
さらに経営学は生まれて間もないらしく、他の学問である 「経済学」 「社会学」 「認知心理学」 を通じて、アプローチを試みている最中だとか ・・・ だから経営学全体で統一されたテキストも、未だに存在しないそうです。
経営とは不合理なもの、かつ、経営学は未熟な段階にあるにもかかわらず、経営者が経営学から導き出されたツール (法則、方法論) を過信するのは間違い ではないでしょうか。そのような特効薬はないと考えた方がよさそうです。
8.コストダウンと生産性向上の実体験談
私は2006年から、当事務所のコストダウンと生産性向上に取り組みました。2012年にほぼ達成されましたが、そのプロセスにおいて、多い年は年間約300冊もの本に目を通し、その中で様々なツールに出会いました。
しかし達成できた一番の理由は、「従業員が積極的に仕事をするようになったから」 です。あの天才物理学者アインシュタインでさえ、脳細胞のごく一部しか使っていなかったそうです。だから一般的な人は能力の1割も発揮していません。
本人の気持ちさえ変われば、生産性を30%上げるなど、いとも簡単なこと。さらに通常の仕事に特殊な能力など必要ありません。普通の人がその気になれば、ほとんど解決できるものです。重要なのは学歴より人間性ではないでしょうか。
9.「人を生かす経営」 とは、どんなものか?
それでは 「人を生かす経営」 に必要な質問を列挙してみましょう。それは 「従業員が生き生きと仕事をしているかどうか」という質問 でもあります。藤田勝利著 「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」 によれば ・・・
① 組織の目的は明快になっているか?
② その目的は共有され、メンバー全員が理解しているか?
③ 共に協力しあって、その目的を実現させようという意思はあるのか?
④ 社内で有効なコミュニケーションがなされているか?
⑤ 人材の強みが生かされているか?
さらに付け加えると ・・・
⑥ やり甲斐を感じられるような仕事の配分になっているか?
⑦ 顧客や組織から必要とされていると感じられるか?
⑧ 成果を挙げやすいような仕組みになっているか?
⑨ 成果に応じた報酬体系になっているか?
⑩ メンバーの関心が社外 (顧客や社会) に向けられているか?
10.2014年以降は 「人を生かす経営」
「ツールを利用する経営」 と 「人を生かす経営」 、もちろん両者を併用するのがベストだと思われます。ただし「ツール」の前には、必ず「働く人」がいます。人間を無視して、ツールのみで安定した成果が得られるとは考えられません。
経営も労働もしょせん人間のするもの。人間には感情があり不合理な一面を持っている。日本人は文字、数字、理屈よりも肉体作業を共にした方が理解を深めることができる ・・・など、人間について学ぶべきことは、たくさんあるようです。
2014年以降は 「人を生かす経営」 が、さらに効果を発揮すると、私は予測しています。ツールと比べ手間暇かかりますが、これが本来あるべき経営の姿なのかもしれません。最後に後藤新平さんの言葉をご紹介して終わりにします。
「 金を残す者は下、仕事を残す者は中、人を残す者は上 」 後藤新平 (1857〜1929)