「5杯飲んで会計したら8杯ついてた」。立ち飲み居酒屋で飲んでいたという客がXにこう投稿し、波紋を広げています。
投稿によると、1月7日に立ち飲みチェーン「晩杯屋」の都内にある店舗で飲食し、「5杯飲んだ」とのことです。
この客は「酎ハイ8杯」などと書かれたレシートの写真も投稿し、「そんなに飲んでない」と店側に言ったところ、店側が通報し、駆けつけた警察官が防犯カメラをチェックしたと説明。客は「まじでありえない」「晩杯屋で8杯なんて飲んだこと無いわ」と信じられない様子。「防犯カメラ」の映像も見せてもらえなかったと不満気でした。
客に名前を挙げられた店側は翌日、Xの公式アカウントで、この投稿について「多く問い合わせをいただいております」として、客の主張を否定しました。
店側の投稿によると、客が「5杯しか飲んでいない」と申し出たため、警察に連絡し、警察官と従業員が防犯カメラを確認したといいます。会計に誤りがないことがわかり、警察官から客に「間違いなく8杯飲んでますよ」と伝え、8杯分の会計をしてもらったそうです。
最終的に客は会計に応じたとのことですが、SNSで「晒す」行為に問題はないのでしょうか。冨本和男弁護士に聞きました。
●「晒し」は信用毀損罪になる?
こうした男性の「晒し」投稿について、信用毀損があったなどとして、刑事責任が問われる可能性はあるのでしょうか。冨本弁護士は、こう解説します。
「信用毀損罪は、虚偽の風説を流布したり、または偽計を用いたりして、人の信用を毀損した場合に成立する犯罪です(刑法233条前段)。
信用毀損罪の保護法益は、経済的な側面における人の社会的信用です。虚偽の風説とは、事実と異なった噂です。『5杯飲んで会計したら8杯ついてた』という投稿が事実と異なっているのであれば、虚偽の風説に当たります。
流布とは不特定または多数人に伝える行為ですが、SNSへの投稿も流布に当たります。信用には、人の支払能力・支払意思に対する社会的信頼のみならず、人が販売する商品の品質・提供する役務の良し悪しに対する信頼も含まれます。
店を名指しして『5杯飲んで会計したら8杯ついてた』とSNSに投稿する行為は、お店の支払能力・支払意思に対するコメントではありません。ただ、近年の判例(平成15年3月11日など)を踏まえると、お店の提供する役務(飲食の提供)に対する信頼を傷つける可能性があると思われます。
ただ、投稿者が「本当に5杯しか飲んでいない」と考えていた場合、信用毀損における「虚偽の風説」の認識がなく、故意に欠けるとして、信用毀損に当たらないとされる可能性もあります」
●名誉毀損罪になる可能性も
では、名誉毀損罪に問われる可能性はあるのでしょうか。冨本弁護士はこうも指摘します。
「名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合に成立する犯罪です(刑法230条1項)。
名誉毀損罪の保護法益は、人の社会的評価です。名誉毀損罪の名誉は人に対する社会的評価であり、人の社会的評価を害するおそれのある行為が名誉毀損罪の毀損です。公然とは、不特定または多数人が知り得る状態であり、事実の摘示は人の社会的評価を害するようなものである必要があります。
店を名指しして「5杯飲んで会計したら8杯ついてた」と述べる行為は、そのお店が不正請求するようなお店だと述べているに等しく、お店の社会的評価を害しますので、SNSで投稿した場合、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損したといえると考えます」
● 民事上の責任は?
民事上の責任は生じるでしょうか?
現在、客はアカウントを削除し、投稿も消えています。それでも、賠償責任は生じてしまうのでしょうか。
「損害の立証も簡単でなく請求が難しいですが、客の違法な投稿によりお店に損害が発生しているのであれば、投稿者の賠償責任はあると考えます。
アカウントを削除し投稿が消えれば、損害が大きくならない可能性はありますが、それでも、いったんお店の信用・名誉を侵害して損害を発生させた事実が消えるわけではありません」
お酒も過ぎるとトラブルに発展してしまいます。冨本弁護士は、「過度の飲酒で事件を起こし逮捕・勾留された方々もいらっしゃいます。ほどほどにしましょう」と話しています。