フランス人経済学者ピケティの話題の本"Capital in the Twenty-First Century"に対してハーバード大学教授のケネス・ロゴフが、モデルが無いので良く分からないと、全般的に懐疑的なコメントを書いている。
曰く、不平等になったと言うのは先進国だけを見た結果で、途上国も見たら格差は縮まっているから逆の事も言えるそうだ。また、過去何十年間かで資本収益率が高まったのは確かではあるが、様々な要因を考慮していないと指摘している。例えばアジアの労働者がその主要因であれば、資本が調整されれば賃金も上がるであろうし、高齢労働者が引退することで結局は賃金率は上昇する。逆にもし、避けようのない機械化の進展が主要因であれば、賃金の下方圧力が続く事になる。
不平等が拡大していくにしても、ピケティの資産課税は政治的な問題をさておいても、信頼を得ることや実施するのに問題がある下手な策で、もっと上手い方法があるそうだ。例えば、累進性のある給付付税額控除ができる消費税*1であったら、貯蓄や経済成長に影響を与えずに格差是正が可能だそうだ。また、Jeffrey Frankelのアイディアとして、低所得者の失業保険料(給与税)を無くせ、高所得者の所得/税額控除を無くせ、相続税を増やせと言う話も紹介している。
法と経済学の大御所のポスナーが米国では連邦消費税は政治的に無理と言っていたので、ロゴフのアイディアも実行できる国とできない国が大きく分かれそうではあるが、ノーベル賞経済学者ソローの書評*2でも資産課税なんて米国では政治的に無理すぎとあるので、米国での格差是正の処方箋を考えると概ね妥当な線なのであろう。何はともあれ数理モデルがあるほうが論点を深く整理できると言う所は、ロゴフに同意したい。
*1現在では低所得者向けに消費税の還付がされる制度。レシートを税務署に持っていくと還付を受けられると思っていたのだが、必ずしもそうでも無いようだ(給付つき税額控除の実際)。ただしロゴフの案では、累進性が所得に対するものなのか、消費額に対するものなのかは判別できなかった。
*2ソローはピケティの議論を詳しく紹介しつつ主張を検討しており、資本収益率が成長率より高いのは当然で、所得・資産格差が広まっていると言う指摘は理解でき、経済全体には良いが衡平性には良くないであろうとしている。ただし、米国にいる経営陣など高額給与所得者の議論がほとんど無いと指摘し、将来も格差拡大傾向が続くかは分からないし、資産課税なんて米国では政治的に無理すぎとあるので、正しいと言うのもかなり限定的なもののようだ。
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