能登半島地震から1年 急ぎ沿岸活断層図の作成を 広島大学 後藤秀昭
2024年1月の能登半島地震は半島北岸沖の海底活断層が起こした。地震が起きるまで、その存在を知っていたのは一部の人だけだった。国の縦割り行政と、海底活断層の新しい調査手法がなかなか受け入れられてこなかったためだ。これを繰り返さないため、総力を挙げて海域を含む活断層図を作り、防災対策の充実を図る必要がある。
能登半島は海底活断層に取り囲まれているのだが、能登地方は活断層が少なく地震の心配が少ない場所とさえ思われてきた。誰でも簡単に閲覧できる信頼に足る活断層図があれば生じなかった誤解だ。政府の地震調査研究推進本部(地震本部)による海域の活断層評価も遅れ、誤解は解消されなかった。
日本の地図は陸域を国土地理院、海域を海上保安庁がそれぞれ作成している。活断層図も同様で、お互いに口出しをしない「不可侵」の状態にあり、海陸域をカバーする図が十分には作られてこなかった。能登半島地震の震源のように海岸線近くにある活断層を調べるには、各機関が協力して海陸域を総合的に考えることが不可欠なのだ。
行政組織の役割分担がうまくいかないために、調査や評価が十分行われないまま放置されることはあってはならない。
海域と陸域とで全く別の調査法が採用されていることも大きな問題である。科学の進歩を取り入れ、学問分野を超えて研究者が協力し、取り組まなければならない。
国内では例外的に、能登半島沖では以前から詳しく海底活断層が調査されてきた。しかし、産業技術総合研究所による海底下の地質調査を根拠に「活断層はない」とされていた長さ約10㎞の区間を、海上保安庁が能登半島地震後に調べると、地震で生じた海底のずれが見つかった。地震の規模を推定するのに用いる海底活断層の規模を過小評価していたのだ。
なぜ、そのような誤った判断がなされたのか。科学的な検証が欠かせないが、産総研は地震後に活断層図を修正し、今回の活断層の動きは予想できるものだったとした。これまでの地質調査法だけで十分であることを示したかのようである。
一方、陸上の活断層調査で主に用いる地形の調査法が、近年の科学の発展で、海底活断層の調査でも使えるようになった。この手法と従来の地質調査法を組み合わせることで、能登半島地震を発生させた活断層は、事前に極めて正確に特定されていたのだ。
この手法的な転換は、海底地形の研究の発展によって10年ほど前にもたらされていた。
沿岸に立地する原発の安全を点検するためにも欠かせない手法だが、電力会社などは地質調査に偏った手法を続けているし、一般の地震防災の政策や方針にも採用されていない。仮に、原子力行政と調和させるために導入をちゅうちょしているとすれば、それは国民の利益にはならない。
巨大地震が懸念されている南海トラフなど、プレート境界に面する沿岸海域にも活断層はある。「想定外」を避けるため、確度の高い活断層図を作成し、広く閲覧できる状態が望ましい。能登半島に限らず、日本中の沿岸域で海底活断層図の作成を急ぐべきである。
(新聞用に2024年12月27日配信)